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令和3年司法試験・商法設問3・基本知識

令和3年司法試験・商法設問3・基本知識
【会社と人物】
A=甲社代表取締役
C=Aの父親、甲社の元代表取締役
D=Aの祖母、Cの母親
丙社=甲社の仕入れ先企業
E=丙社の代表取締役
F=弊社の代表取締役副社長、Cの大学同窓
G=弁護士、Dの代理人
【時系列―番号は問題文に沿う】
12、AとCは和解。この和解契約により、甲社の株主構成はAが10万株、Cが10万株、Dが20万株、丙社が10万株に。
13、甲社は令和2年6月、本件株主総会の招集を決定。議題はAの取締役の任期満了に伴う取締役1名選任、議案はAを取締役に選任すること(本件選任議案)。なお、株主は、他の株主1人を代理人として、議決権行使できるとの定款が甲社にはある。
14、丙社のEは、丙社の内規に従い、例年同様、議決権行使は甲社代表取締役に委任する包括委任状を甲社に送付。
15、丙社の内規を知らなかったCは、Aを甲社の経営から排除しようと考え、
Fと相談し、Cを取締役に選任する旨の修正動議を出してこれに賛成することを申し合わせた。
16、DはAとCがもめていることを知り、甲社の株主でないGに議決権行使を委任した。
17、FとGは本件株主総会への出席が認められた。また、総会の議長はCが務めることになった。
18、議長のCは、Gには出席資格がないとし、Fを丙社代表者と認めた。これに対し、AとGは異議を唱えたが、Cは取り合わず、Gは退場。またFはCを取締役に選任する旨の本件修正議案を提出した。これを受け、議長Cは、各候補者を一人づつ採決するのではなく、AとCのいずれかを記載する方法を採用した。Aは、A自身の10万株でAを選任すべきことに投票した他、丙社の代理人として弊社の10万株で同様な投票をした。Cは、自己の10万株でC自身に投票、Fは丙社の代表としてCに投票。Gは退場したため、Dの20万株を行使できなかった。この結果、A選任とする票は30万株のうち、20万株。また、C選任とする票も30万株のうち、20万株と二重の結果が生じた。
19、議長Cは、丙社の議決権はFの行使が有効とし、Aの行使を無効として、
Cが取締役に選任されたと宣言し(本件決議)、総会を閉じた。
20、Fの議決権行使は、Fの独断によるものであった。また、A、Cともに丙社の内規の存在を知らなかった。
【設問3】
Aは令和2年7月、株主として本件決議の取消しを求める訴えを提起した。Aの主張とその当否を論ぜよ。
【基礎知識】
{条文}
1、株主総会決議の取消し
831条1項
(株主総会等の決議の取消しの訴え)
1、831条
1項=次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
語呂→闇市(831)で交わされた決議は取り消すべきだ。
2、310条1項
株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。
語呂1→代理人は弁護士の佐藤(さとう)さんに頼んだ。
語呂2→代理人は、密偵(310)じゃないぞ、正式に権利行使できる。
語呂3→代理人は、株主総会の会場で参殿(310)できる。
3、315条(議長の権限)
1項=株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する。
2項=株主総会の議長は、その命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる。
語呂→総会議長は最高(315)の権限を持つ。
4、株主提案権
303条
1項=株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
2項=前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
3項=公開会社でない取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
4項=第二項の一定の事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
語呂→株主提案にザワザ(303)ワと騒ぐ総会
304条
 株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第一項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合は、この限りでない。
語呂→株主提案にざわ(30)ついた後、静(4)かになる株主総会
5、309条1項
(株主総会の決議)
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
語呂→株主総会は騒ぐ(309)ことになっても過半数で決着。
{判例}
★株主総会の代理人を株主の限定する定款の有効性
最判昭和43年11月1日
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
1. 商法第12条は、当事者である株式会社を訴訟上代表する権限を有する者を定めるにあたつては、適用されない。
2. 議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限する旨の定款の規定は、有効である。
事案
 大阪・ミナミの飲食店会社・S本店の清算を巡る親族同士の争い。原告・Hが甲株主総会を開催し、清算人Aを解任し後任をαを選任。他方、清算人を解任されたA側親族は、乙株主総会を開催し、Aを解任し、親族の一人Bを選任した。この乙株主総会でAは妻のC(非株主)に議決権を行使させた。これに対し、Hは株主の代理人は株主に限定するという定款を根拠に、S本店を相手に乙株主総会決議取消訴訟を提起。1審、2審ともHの勝訴したため、S本店が上告。議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限する旨の定款の規定は、有効か否かが争われたが、このような規定は総会を荒らされることを防止し、会社の利益を守る趣旨があるとして有効と認定。
参考=大阪の有名な繁華街「ミナミ」エリアの住所は、大阪市中央区。大阪市中央区は1989年に東区と南区が統合してできた区です。なぜ「ミナミ」と呼ばれるようになったかというと、江戸時代には「天下の台所」と呼ばれ、今もなお大阪の経済や文化の中心地である船場から見て南側にあることから「南地(なんち)」と書き、それに「ミナミ」というルビをふったそうで、そうした歴史背景もあり、地元の人々は愛称として「ミナミ」と呼んだとか。いつもテレビで写されるグリコの看板がある道頓堀が「ミナミ」の象徴。
★株主の代理人が議決権の代理行使
判例=最判昭和51年12月24日→直江津海陸運送会社事件
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
1. 株式会社が定款で株主総会における議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合においても、株主である地方公共団体、株式会社が、その職制上上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使にあたつて法人の代表者の意図に反することができないようになつている職員又は従業員に議決権を代理行使させることは、右定款の規定に反しない。
2. 株主総会決議取消の訴において、旧商法248条1項(現831条1項)所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは、許されない。事案
→新潟県・直江津港を拠点した荷役会社の株主総会決議取消訴訟。一時期、新潟県及び旧直江津市(上越市)が資本参加、その後、資本参加を解消したが、資本参加時代に、新潟県、旧直江津市が首長の代わりに職員に議決権代理行使させた件が争われた。最高裁は、上記要旨の理由で認めた。
 しかし、この訴訟には別争点がある。死亡退職した前社長の遺族が株主総会決議取消の訴訟において、現831条1項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張したことから、これも争点となった。
★代理人の弁護士による代理行使
裁判=神戸地裁平成12年3月28日
野村証券株主総会出席権侵害慰謝料請求事件判決
→株主による弁護士を代理人とする株主総会における議決権の代理権行使の申出の拒絶が商法239条2項に違反するとされた事例。ただし、慰謝料請求は認めなかった。
裁判=札幌高裁令和元年7月12日
→A弁護士の株主総会への入場を拒絶したというのであるから、決議方法に法令(会社法310条1項)違反があったといわざるを得ない。
★株主総会決議に取消し事由がある場合の裁量棄却
831条2項
→前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
語呂→総会の犯罪人(831・2)でも、重大でなければ刑罰は棄却される。
判例=最判小1昭和46年3月18日=秋田県内の会社解散決議事案
要旨〔最高裁判所民事判例集〕
1. 株主総会招集の手続またはその決議の方法に性質、程度等からみて重大なかしがある場合には、そのかしが決議の結果に影響を及ぼさないと認められるようなときでも、裁判所は、右決議の取消請求を認容すべきであつて、これを裁量棄却することは許されない。
2. 株主総会招集の手続が、その招集につき決定の権限を有する取締役会の有効な決議に基づかないでなされたものであるのみならず、その招集の通知が、すべての株主に対して法定の招集期間に2日足りない会日より12日前になされたものであるときは、右株主総会招集の手続には、右総会の決議の取消請求を裁量棄却することの許されない重大なかしがあるというべきである。
事案
→被告会社は、設立以来の売上は極めて微々たるものである反面、工場設備投資、技術者に対する人件費、研究費の支出が厖大を極めるといつた状態で、株主総会で会社解散を決めたが、その総会招集に重大な瑕疵があったと株主が提訴した事案。
以上

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