平成28年司法試験・民法・設問1・関連知識1

平成28年司法試験・民法・設問1・関連知識1
【親権者の法定代理権の濫用】
★=子の財産管理
(財産の管理及び代表)
824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
語呂→子どもの初穂(824)を親が管理する
★利益相反行為
(利益相反行為)
826条
1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
語呂→利益相反行為は親の悪の発露(826)
【まとめ的論証―暗記】
1、親権者は、利益相反行為にあたる場合(826条参照)を除いて、子の財産に関する法律行為を代理する権限(法定代理権)を有する(824)。親権者が法定代理権を濫用した場合は、代理権の濫用の事例と同様、107条により、相手方が代理権濫用の意図につき悪意又は過失があるときは、代理行為は無権代理として本人に効果帰属しない。
2、もっとも、親権の行使は、子を巡る諸般の事情を考慮してなされるものなので、利益相反行為にあたらない限り、親権者の広範な裁量に委ねられている。
そのため、子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的とするなど、親権者に子を代理する権限を法が与えた趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がない限り、親権者の代理権の濫用にあたらない。
【判例】
最判平成4年12月10日。
奈良県大和高田市の案件。叔父さんお助け事件
 子どもAが遺産相続で奈良県大和高田市の土地を取得。母親が、この子どもの土地に抵当権を設定し、死亡した夫の弟の会社が地元銀行から融資を受けた。
子どもAが母親の代理効果の帰属を否定し、抵当権抹消請求。
 しかし、死亡した夫の弟は、日ごろ、父親を亡くした一家の面倒を見ていた。夫の弟の経営する会社が破たんすれば、一家にも大きな影響をもたらすこと事情を考慮し、最高裁は母親の代理行為を利益相反行為ではないとした。
【利益相反行為についての判断基準】
1、行為自体を外形的客観的に考察して判断
2、動機や意図をもって、判定すべきではない。
例=子どもの所有する土地を第三者に売る。→対立関係は子ども対第三者→親との対立行為ではない。
【判例1】
昭和37年10月2日=利益相反を認めた例
 山口県周南市の悲しいお話。女性Y・Hは結婚し、3人の子どもがいたが、夫が昭和25年4月に死亡。親戚の援助などで子どもを育ててていたが、自分で飲食店を開業。その際、自宅の土地建物に抵当権を設定し、親と子ども名義で金融会社から6万円を借入した。しかし、飲食店の営業はうまくいかず、借金を返すことができず、土地建物は競売に付され、他人所有になった。このため、子どもらが母親の代理行為が利益相反行為として、競落人を相手に訴えた。1審は子どもら勝訴、2審は利益相反行為と認定しなかった。
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
親権者が自己の負担する貸金債務につき未成年の子の所有する不動産に抵当権を設定する行為は、借受金を右未成年の子の養育費に供する意図であつても、民法第826条にいう「利益が相反する行為」にあたる。
【判例2】最判昭和42年 4月18日=利益相反行為と認めなかった例
【事案の概要】長崎市の事案。夫H・Iと、妻R・Iが結婚し、M・Iら3人の子どもを設けた。Rが死亡し、子どもM・Iらは長崎市内の土地を相続。父親のHは、地元銀行と当該土地に根抵当権を設定して融資契約を締結した。そして父親は事業資金取得のため、子どもらとの共同名義で約束手形を振り出した。しかし、借入金を返済できず、宅地が競売になった。子どもらが約束手形振出は利益相反行為として提訴。最高裁は民法826条の利益相反行為にあたるとの上告人らの主張を退け、取引の安全の観点から、利益相反行為の該当性は行為の外形から客観的に判定すべきであり、単に親権者の利己的動機に出たと言うだけで、その代理行為を利益相反行為ということはできず、また、代理行為が、親権者個人の利益のためにされる事情を相手方が知っているときは効力を生じないというべきであるが、代理行為を否認されてもやむを得ない背信性、反道徳性が必要であり、本件ではそのような事情はないとして控訴を棄却した原判決を支持し、上告を棄却した事例。
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
親権者が子の法定代理人として約束手形を振り出し、自らもその共同振出人となつた場合において、右手形が子を主債務者とし親権者をその連帯保証人とする借受金の支払のために振り出されたものであるときには、子と親権者との間に民法第826条所定の利益相反関係は生じない。
≪無権代理と相続≫
【無権代理人が本人を相続】
1、このケースは判例と通説が異なるケース
★判例=最判昭和40年6月18日
無権代理後に本人が死亡→無権代理人が本人を単独相続→無権代理人と本人の地位が融合して無権代理は有効(地位融合説)
概要=栃木県大田原市(おおたわらし)の案件。T・Gの所有であつた原野を息子が知人の勧めで、Kら2人に売却。その後、T・Gは死亡し、息子が相続。息子は、無権代理行為であったことを認め、Kらに本件土地の所有権抹消の訴えを起こす。
★通説=無権代理行為は当然に有効となるわけではなく、無権代理人の地位と本人の地位の併存を認め→本人の追認拒絶権を相続により取得
★第三案=通説が正しくとも、無権代理人が、本人の資格で追認を拒絶をするのは、信義則に反すると許されない。
私見=まあ、ええ加減にしてほしい。
【本人が無権代理人を相続した場合】
→本人が無権代理人を相続した場合、本人が追認拒絶しても何も信義則に反しないので、本人は追認拒絶できる。
判例―最判昭和37年4月20日
要旨 〔最高裁判所民事判例集〕
本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。
 香川県丸亀市の事案。一審被告・H・Bの父親たるE・Bが昭和12年、自己の債務整理のため、息子H・Bの不動産を無権代理で原告・M・Kに売却。そこでM・Kが、家屋の明渡と所有権移転登記請求。これに対し、被告・H・Bは、先代・E・B(永蔵)の無権代理として反訴した。一審は原告敗訴、二審は原告勝訴、最高裁は結局、無権代理人を本人が相続した場合、本人の資格として追認拒絶できるとして原告敗訴。
【無権代理と共同相続】
無権代理人が他の共同相続人とともに本人を共同相続した場合、追認権や追認拒絶権は性質上、相続人全員に不可分的に帰属するので、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為は当然に有効になるものではない。
判例=最判平成5年1月21日
被告は、右同日、訴外Yに対し、訴外O・Tの代理人として、他人の合計八五〇万円の貸金債務についてO・Tが保証人として「本件連帯保証契約」をした。
事案=仙台地裁の連帯保証契約事件
被告・O・M)は、訴外の父親・O・Tを無権代理して、第三者の貸金債務につき連帯保証契約をした。O・Tが死亡したので、被告・O・Mが他の共同相続人と相続した。被告・O・Mの相続分に相当する部分についても連帯保証は有効とはならない。
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