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地歴うんちく民法判例8・ 白紙委任状と代理権授与表示

地歴うんちく民法判例8
白紙委任状と代理権授与表示
表見代理=109条
最判昭和39年5月23日
【キーポイント】
 白紙委任状は危険だぞ、恐いぞという判例
【事案】
(経過)
1、日本の高度成長真っ盛りの昭和33年。神奈川県に住むK・Tさんは、T・Yさんから12万円を借り、その担保として自己所有の不動産に抵当権を設定することにした。
2、そこでK・Tさんは、T・Yさんに本件不動産の権利証、白紙委任状2通および印鑑証明書を手渡した。
3、ところが、このT・Yさんは、委任状が代理権を示す文書であることをいいことに、これらの白紙委任状などの文書を利用して金儲けを考える。取引先の電気器具販売業のT・Wさんに渡して、自分も12万円を借りた。
4、ここから、事態はややこしくなる。T・Wさんは、電気器具販売業者G会社と、電気器具の継続的商品取引契約を結ぶ際に、K・Tさんの白紙委任状などを書類を悪用したのだ。
5、T・Wさんは、白紙委任状などの書類を最初に交付したK・Tさんとは友人であるとG会社を騙し、K・Tさんの不動産に①抵当権を設定したほか、販売代金の支払いが出来なかったときに、この不動産による代物弁済契約を結んでしまう。すなわち、K・Tさんの白紙委任状は転々と流れ、G会社に渡ってしまう。
6、K・Tさんは白紙委任状を安易に他人に渡してしまったことから、K・Tさんが全く関知しないところで、自己の不動産を他人の借金の担保にさせられた。
7、この事態を知ったK・Tさんは、G会社を相手に訴訟を提起。抵当権、代物弁済契約上の権利の不存在の確認、および抵当権設定登記など抹消登記を請求した
8、1審は、K・Tさんは民法109条の表見代理の法理に従い、本人としてその責めに任ずべきであるとして、K・Tさんの請求を棄却した。
9、2審は、K・Tさんが、T・Wさんらに白紙委任状などを使用することについて承諾を与えた事実が認められないから、T・KさんがT・Wさんらに本件各契約締結の代理権を与えた旨第三者に表示したものとは認められず,109条が適用される余地はないなどと述べて、T・Kさんの請求を認めた。これにG会社は、上告する。
(最高裁の判旨)
1、不動産登記手続に要する前記の書類は、これを交付した者よりさらに第三者に交付され、転てん流通することを常態とするものではない。
2、不動産所有者は、右書類中の委任状の受任者名義が白地であるからといって当然にその者より、さらに交付を受けた第三者がこれを濫用した場合にまで民法109条に該当するものとして、濫用者による契約の効果を甘受しなければならないものではない。
3、よって、K・Tさんが勝訴した。
【地歴うんちく】
 独立行政法人 国立国会図書館HPの一つ、「ようこそ歴史資料の倉庫へ」から委任状のエピソードを紹介する。
 1871年(明治4年)11月、岩倉具視を特命全権大使とする岩倉使節団が日本を出発しました。使節団の目的は、不平等条約改正に関する交渉と、欧米の社会を見聞し、最新の知識を日本に持ち帰ることでした。使節団は明治4年11月10日に日本を出発し、12月6日に最初の訪問国アメリカに到着する。アメリカでは、条約改正に関する交渉を試みるが、使節団が全権委任状を持っていなかったため、交渉はできない事態に。
 このため国書御委任状の下付を受けるために大久保利通ら使節団の一部が急きょ帰国する羽目に。代理権を示す委任状が重要であることを示すエピソードだ。
 大久保らは国書御委任状の下付を受けて、アメリカに渡るが、アメリカとの交渉は結局、中止となり、使節団は欧米各国の視察のみを行うこととなった。
【文献種別】 判決/最高裁判所第二小法廷(上告審)
【裁判年月日】 昭和39年 5月23日
【事件番号】 昭和38年(オ)第789号
【事件名】 登記抹消請求上告事件
【判示事項】 〔最高裁判所民事判例集〕
  不動産の処分に関する白紙委任状等の転得者がその書類を濫用した場合と民法第109条の適用の有無
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
 債務者甲が債権者乙との間に甲所有の不動産について抵当権設定契約を締結し、甲が乙に対し右抵当権設定登記手続のため白紙委任状等の書類を交付して右登記手続を委任した場合でも、とくになんびとが右書類を行使しても差し支えない趣旨でこれを交付したものでないかぎり、乙がさらに右書類を丙に交付し、丙が右書類を濫用して甲代理人名義で丁との間に右不動産について抵当権設定契約を締結したときは、甲は、民法第109条にいわゆる「第三者ニ対シ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者」にあたらない。
【条文】
(代理権授与の表示による表見代理等)
109条
1項=第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2項=第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において 、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

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