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地歴うんちく民法判例7・代理権の濫用

地歴うんちく民法判例7

代理権の濫用=107条
最判昭和42年4月20日
【キーポイント】
 練乳は甘いが、練乳を代理権の濫用で売買したら決して甘くはないぞ!
【事案】
(経過)
1、戦後、高度経済成長初期の好景気、岩戸景気が始まった昭和33年のお話。この年、東京タワーが完成した。東京スカイツリーではないぞ。この年は、1万円札券が初めて発行された年でもある。
2、そんな好景気の中、東京の食品原料販売会社(ST社)の原料仕入れ主任(H・S)は、練乳取引でひと儲けをしようと企んだ。
3、その手口は、こうだ。練乳等の販売をしていた会社(BT社)に練乳を発注し、その練乳を別の会社に転売した。商品は自分の会社を通さずに、別の会社に直接、納入させた。購入代金の支払いは会社振り出しの小切手を使ったが、その小切手にはこの会社員が持っていたゴム印を押して裏書きするという手法だった。
4、そんな小切手が有効となるはずはなく、練乳を売ったBT社は販売代金約155万円を取得することはできなかった。そこでBT社は、ST社にその代金支払いを請求した。
5、この裁判では、この会社員(H・S)が、会社(ST社)から授与された代理権を濫用したのかどうか、が問題に。
6、また、練乳を売ったBT社の支配人が、この会社員(H・S)が代理権の濫用をすることを取引の際に知っていたことも問題になった。
(最高裁の判旨)
 代理人(H・S)が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方(BT社)が代理人の右意図を知りまたは知ることをうべかりし場合に限り、旧民法93条但書の規定を類推(現民法107条)して、本人(ST社)はその行為につき責に任じないと解するを相当とする。
【地歴うんちく】
 冷蔵技術の発達で、新鮮な牛乳がいつでも、どこでも飲めるようになった。このため、練乳なんて、知らない人も多いのではないか。
練乳とは、牛乳を煮詰めて作る加工食品だ。
 しかし、昔は、練乳が主流だった。静岡県の練乳メーカー、日清煉乳のHPによると、その歴史は、はるか飛鳥時代に遡る。飛鳥時代の医師・善那使主(ぜんなのおみ)が645年(大化元年)に、孝徳天皇に古代の乳製品「酥(そ)」を献じたのが始まりと言われている。「酥(そ)」とは、牛や羊の乳を煮詰めたものを指す。平安時代の医術書「医心方」に乳製品の効用が記され、当時貴族の間で滋養薬として広まったようだという。
 さて、煉乳の大量生産が出来るようになったのは、1857年にアメリカのゲイル・ボーデンが真空濃縮釜で製造に成功したことによる。現在はほとんどが業務用として、アイスクリーム、キャンディ、キャラメル、コーヒー飲料などの原料として使用されている。
【文献種別】 判決/最高裁判所第一小法廷(上告審)
【裁判年月日】 昭和42年 4月20日
【事件番号】 昭和39年(オ)第1025号
【事件名】 売掛代金請求上告事件
【判示事項】 〔最高裁判所民事判例集〕
代理人の権限濫用の行為と民法第93条
〔判例タイムズ(判例タイムズ社)〕
代理人の権限濫用の行為と民法第93条
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理入の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第93条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。 (意見がある。)

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