見出し画像

地歴うんちく民法判例5・不動産売買は他人任せは駄目!

地歴うんちく民法判例5
民法94条2項・110条の類推適用
最判平成18年2月23日

【キーポイント】
 多額な不動産の売買契約は、人任せにしないで!という判決。
【事案】
1、東九州自動車道の事業が盛んに進められていた2000年(平成12年)の大分県で起きた事案。
2、大分市のⅩさん(1審原告、控訴人、上告人)は、1996年(平成8年)、不動産売買で世話になっていた大分県土地開発公社職員・Aさんの紹介で、大分市内の土地・建物を7200万円で購入した。
3、Ⅹさんは本件不動産を第三者に賃貸したが,賃借人との交渉,契約書の作成および敷金の授受等を,すべてAさんに委ねていた。
4、また、気のいいXさんは、本件不動産の登記簿、印鑑登録証明書などもAさんに渡していた。
5、その後、Xさんは、本件不動産を売却するつもりは毛頭なかったが、Aさんは、2000年(平成12年)、預かっていた登記簿などを使って、本件不動産をXさんから4300万円で買ってしまう契約書を作成する。
6、この売買契約書は、Xさんの目の前でY1さんが作成したのだが、Xさんは何と、その様子を漫然と見ているだけだった。しかもAさんから言われるままに署名押印までした。
7、その後Aさんは,この年3月に,まったく事情を知らず、過失もなかったYさんに(1審被告・被控訴人・被上告人)に対し、本件不動産を売ってしまう。Yさんは、当然、本件土地につき自己の登記に移転させた。
8、自分の不動産が他人の名義になったことに気付いたXさんは、本件土地の返還を求めて、土地登記抹消を求める訴訟を提起する。
9、ここで疑問に思われることは、なぜ、XさんはAさんをそこまで信頼したのか、である。
10、この点については、実は最初に書いた東九州自動車道の用地買収に話は遡る。Xさんは、自己の所有地を旧日本道路公団に対し、九州自動車道路用地として売却した。このときに、大分県土地開発公社が売買契約の仲介をし、Xさんは、この仲介で、面倒な手続きを代行してくれたAさんに、その後の不動産管理なども一切、任せきりにしていた事情があったと推測される。
11、では、最高裁の判断は?
【最高裁の判断】
 不実(虚偽)の所有権移転登記がされたことにつき所有者に自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合は、重い責任があるとして民法94条2項、110条を類推適用すべきものとされ、Xさん敗訴。
【文献種別】 判決/最高裁判所第一小法廷(上告審)
【裁判年月日】 平成18年 2月23日
【事件番号】 平成15年(受)第1103号
【事件名】 所有権移転登記抹消登記手続請求事件
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
 不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていたAが、Xから交付を受けた当該不動産の登記済証、印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につきAへの不実の所有権移転登記を了した場合において、Xが、合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたってAに預けたままにし、Aの言うままに上記印鑑登録証明書を交付した上、AがXの面前で登記申請書にXの実印を押捺したのにその内容を確認したり使途を問いただしたりすることなく漫然とこれを見ていたなど判示の事情の下では、Xには、不実の所有権移転登記がされたことについて自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があり、Xは、民法94条2項、110条の類推適用により、Aから当該不動産を買い受けた善意無過失のYに対し、Aが当該不動産の所有権を取得していないことを主張することができない。
【条文】
(虚偽表示)
第94条
1項=相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項=前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(代理権授与の表示による表見代理)
第109条
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(権限外の行為の表見代理)
第110条
前条第1項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?