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俺と僕とじっちゃんの話

「俺にはずいぶんと歳の離れた友達がいる」

じっちゃんと呼ぶそうだ

僕の友人が、そう教えてくれたのは3ヶ月くらい前だろうか

それ以来

僕は友人から、じっちゃんの話を何度か聞いてきた

そのせいか、僕の中でもじっちゃんが友達のような気がしてきている

じっちゃんは90年程生きている

大先輩だけど本当に心が広くて俺なんかにもずいぶん優しい

出逢った時から笑顔

はじめは、おじいさんだと思って会話していたけど

少しひねった笑いも理解して笑い、また返してくる

じっちゃんは若い

腰は曲がり歩くのも遅い

だが、じっちゃんは心も若く柔らかい人だ

そう友人から聞かされてきた

出会いは仕事

その仕事は決まった曜日に在宅の高齢者にお弁当を届ける仕事

ようは、見守りサービス付きの配達なわけだ

友人の話は、知らない世界のページを次々にめくってくれる

それにしても仕事のお客さんでもある方に「じっちゃん」とは中々の距離感をもつ奴だ

ある雨の日の話が僕は好きだった

じっちゃん家に配達に行く

チャイムを鳴らしてから出てくるまで

じっちゃんの時間はだいたい決まっている

この日、チャイムを鳴らしてからいつものタイムで出てこないじっちゃん

外は狂ったように雨が強まる

出てこない

家の中にまで響くだろう雨音

じっちゃん、多分聞こえてないな

鍵は空けとくから入っていいと、じっちゃんに言われていた

ドアノブに手をかける

まわる(開く)

ドアを開け「じっちゃーん!」

反応がない

あれ…

中に入る

すると、

じっちゃんは一番奥の部屋、椅子に座って高校野球を観ていた

いつもの笑顔で

「相変わらず笑ってるんだよなあ」

そう友人は話す

笑ってテレビを観ているじっちゃんを、また彼も同じような表情で見つめていたのが目に浮かぶ

「じっちゃん!」

再度、呼びかけ

「おう、来てたんか」

気付くじっちゃん

「何回もチャイム鳴らしたし、呼んだよ?雨の音がうるさくて聞こえなかったか?」

「うん、なんも聞こえんかったわ」

笑いあう二人

大変微笑ましいが、これがひねった笑いのひとつじゃないことを僕は祈る

「そんでさ、」

友人の話はつづく

「ふと、横に目を移すと俺らと同じように笑いあったみたいな、そんな顔したじっちゃんの奥さんの遺影があったんだよ」

「はじめて見たの?」

「その日、はじめて家の中まであがったからさ。じっちゃん夫婦、二人の過ごしてきた時間が垣間見えた気がした」と

話を聞いてる僕もなんだか見えた。贅沢な話を聞いてると思った。

昨日の話

「じっちゃんの家に行った時は、郵便受けも開けて届いているものを渡す流れがある、一度じっちゃんに頼まれてからそうするようになった」と、友人

いつもはB5くらいの広告と新聞だけらしい

今日は人のにおいがするハガキが一通あった

珍しいのもあり、じっちゃんにハガキが来ていることを伝える

じっちゃんは

「ああ、それは嬉しい便りだ」

そう言った

申し訳ないと思ったが少し気になって、ハガキを裏っ返した

案の定、人の書いた文字がびっしりと書かれている

これは見ちゃあかんやつだ

そう思って目線を切るまでに見えた文字

【戦友よ、有り難く手紙拝見させてもらった…】

「ああ、終戦記念日だからか?」と僕

「そうだろうなあ…すぐに気付かなかったけどな」と友人

いつものように少し話をして、じっちゃんちを去った後、それに気付いたと

おそらく、あのハガキの戦友とは、じっちゃんが戦場(戦争)を共にした仲間

終戦記念日より少し前に送ったであろうじっちゃんの手紙

無事、戦友に届き

終戦記念日の今日、戦友のじっちゃんに届く

「それは何より嬉しい便りだ」

じっちゃんの言葉の意味がわかる

戦後75年だ

「そういえば切手もさ、」

友人の話は続く

「そのハガキの切手には軍服?のようなものを着た日本人がいた」

軍国切手というのか

「俺は切手の日本人が誰かもわからなかったけどな」

少し気分が落ちたような友人

いつも笑っているじっちゃん

そのじっちゃんが好きで俺の友達だと話す友人

彼の中に友達としてもっともっと分かち合う要素を感じたのだろう

近いうち、この続きの話をまた聞かせてくれるんだと思う

じっちゃんは元気そうだが年齢は90歳

二人の交友記は、有限のより短い有限の時間のなか続いていく

より長く聞けるように僕は心から願っている




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