見出し画像

台湾に留学しそこねた時の話 Part2

いよいよ出発です。
それなりの荷物を持って羽田から桃園に飛び、高速バスで台北に着いたのは夜でした。
宿は前回泊まった学生街(信陽街)の安宿、富國大旅社です(現在は廃業のもよう)。

願書の提出期限日までには少し日にちがありましたので、しばらくは地図とにらめっこしながらざっくりと地理を覚えることにしました。
なにしろ長逗留になるのですから、まずはどこに何があるのかを把握しておきたかったからです。
宿のまわりからぶらぶら歩きを始めて、だんだん探索エリアを広げて行きました。

生きてゆくにはイヤでも(イヤじゃないけど。笑)食事をしなくてはいけません。香港もそうですが、台北では外食する店は屋台から高級店までなんでもあります。
私は宿を学生街にとったので、一歩外へ出れば屋台とK書坊(自習室)だらけです。近所には臭豆腐を売る屋台があり、そこらじゅうにニオイをふりまいていました。これだけはついぞ手を出しませんでした。

私がよく食べたのは魯肉飯です。大体20〜30元と安く、どの店にもあり結構おいしいのでハマりました。
ご飯茶碗に豚肉の細切れ(挽肉一歩手前くらい細かい)の煮込んだものを乗せた、わかりやすくいうとほぼネコマンマです。それになぜかたくあん二切れが必ずついていました。
最近日本でも魯肉飯と称する台湾グルメメニューを散見するようになりましたが、当時の魯肉飯とは大分違うようです。

魯肉飯は小腹が空いたときにおやつ的に食べたのですが、ちゃんと食べるときは焢肉飯か排骨飯にしましたし、バイキング的なランチを食べることもありました。これはご飯が乗ったプレートにおかず3〜4点を「コレとコレとコレ」みたいに自由に選んで定食にするものです。
おかずの点数が少ないと、一点の盛りを多くしてくれました。

日本人としては嬉しい「吉野家」もすぐに見つけました。
台湾のお米はジャポニカ米なので、牛丼にもまったく違和感がありません。
夜遅く食べに行くと「地球の歩き方」を読みながら牛丼を食べている人がいたりして、脳内で勝手に「祝你旅途愉快」と話しかけたり、台湾人にライターの火を貸してあげたりして(今はタバコ吸いませんが)今後の楽しい台北ライフを予感させられる日常でした。

宿の近くにはFM Stationというファッション系の商業ビルがあり、私はここに毎日のように通いました。
フードコートにはカクテルバー風のテナントがあり、ある日そこでテキーラサンライズを注文したのですが、明らかに学生アルバイトのバーテンダー小姐の作ってくれたそれは、えらく甘ったるいものでした。
日をあらためてもう一度飲みに行くと、今度は別のバーテンダー小姐からまったく甘くないテキーラサンライズが供されました。
この商業ビルは程なくして建替えられたようです。

とあるエリアでは❤ホテルと思しき施設がポツポツ見つかりました。
ここで私は、「マンスリーで貸してくれないかな?今の宿より安くならないかな?」と思い立ち、何軒かフロントで交渉に臨みましたが結局どこも商談不成立でした。一軒だけOKが出たのですが、全然安くならないのであきらめました。残念。

当時はまだ中華商場という中華路に沿った長~い商店街があり、ここに入っているテナントを全部見て回ったりもしました。
当初軽い気持ちで訪れたのですが、香港の商店街を思い出したりして面白くなりじっくり観察を始めてしまいました。なにしろ店の数が多いので時間があっという間に経過し、足はだるくなって帰りはバスに乗りました。
ちなみにこの中華商場は、およそ2年後に取り壊されてしまうのです。当時の私はそんなことは知らなかったのですが、今から思えば幸運かつ貴重な体験をしたと思います。

宿に帰ると娯楽はテレビです。
今でこそまったくテレビを観ない私ですが、コンビニで米酒と氷を買ってきては毎晩テレビ視聴の日々でした。
これが結構聞き取りの練習になるのです。

当時の地上波テレビは約七割が國語(マンダリン)、三割が台湾語でしたが、一本だけ客家語の農業関係者向けの番組がありました。
あらゆる番組に中国語字幕がつくので、國語番組はもちろんのこと、台湾語番組でも内容はざっくりと理解できます。
ただし、どんな番組のどんなシーンでも日本語は一切使われません。CMもそうです。日本語を直接流すのは植民地時代を思い起こす、一種の「文化侵略」ととらえられているようでした。
もっともパラボラアンテナさえあれば、BSのNHKがいくらでも観られたのです。さらにはどういう手段をとったものか、WOWOWを視聴する人さえいました。

ドラマで面白かったのは「家有仙妻」でした。主人公が身に着けているヒスイのブレスレットに不思議な力が宿っていて、そのおかげでいろいろ騒動を起こすというストーリーで、テーマソングは草蜢の「失戀陣線聯盟」でした。
香港もそうなのですが、連続ドラマは毎日放送しているので一回観なかっただけで話が進んでしまい、よくわからなくなってしまいます。「家有仙妻」はタイミングよく初回を観たので、日本では連ドラを観ない私でもこれだけは継続して観ていました。

バラエティ番組は國語も台湾語もとても豊富で、私は國語の「連環砲」をよく観ていました。ショートコントをいくつかやる番組でたしかに面白いのですが、ちょっと政策の宣伝臭のするコントもあってお国柄だな、と思いました。

深夜には「賽車風雲」という草レースの番組があり、車好きの私は興味深く観ていました。
どこかの広場に古タイヤなどを積み上げてコースを作りレースをするのですが、いつもスタートするとまず一台のフェラーリが飛び出し、次に一台のBMWがそれを追い、そのあとからサニーとシビックが団子になってお互いぶつけそうになりながら走るんです。正直フェラーリとBMWはいらないな、と思いました。

深夜にテレビが終わるとあとは寝るしかないのですが、電燈を消して真っ暗(常夜燈がなかった)になるとガサゴソ音がすることがあります。
これはゴキブリが食べ物を探して歩き回っている音です。
そのうち慣れてきて、熟睡中でもこのガサゴソ音ですぐに目がさめるようになりました。音のする方向を確認してから電燈をつけると、大概すぐに見つかります。当然殺虫剤プシューです。
香港、台湾では真冬以外のゴキブリ駆除作業はマストです。

続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?