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私が広東語カバーソングにハマった背景と経緯を説明させて下さい。

以前の記事「勝手にカバーソング~翻唱天堂ヘようこそ!~」「勝手にカバーソング~翻唱天堂ヘようこそ!~続き」では、広東語カバーソングの広まった背景と、ざっくりとしたデータ的な部分を紹介しました。

今回はそのSpin offとでも言いましょうか、私が広東語カバーソングにハマり「広東語カバーソング事典」を主宰するまでになった背景と経緯をより具体的に(かつダラダラと)綴っていきます。

私は小5(1978年)から中1(1980年)まで香港に滞在していました。
小さいころから喘息もちで運動嫌いだったこともあって、かなりの出不精です。自宅マンションと日本人学校をスクールバスで往復するだけの暮らしでも、テレビとカセットデッキとプラモデルと本があれば満足でした。

もともと音楽は好きだったので、香港でも積極的に音楽を聴くほうでしたが、当然ながら日本の曲を聴く機会は少ないのです。テレビっ子だったせいもあり、ドラマやアニメの主題歌を聴く日々でした。

しかしそんな生活にも転機が訪れます。
小6のある日、日本の曲に広東語で歌詞をつけた歌があることを知りました。どこで小耳にはさんだのか忘れましたが、千昌夫「北国の春」を広東語で唄っている人がいる、と聞きつけたのです。なじみのある日本の曲を広東語で唄うってどんなものなんだろう?そこに興味を持ったのが沼への入口でした。

その日以来、私はカセットショップに行く機会を一日千秋の思いで待ったのでした(治安の問題でおいそれと一人では出歩けない)。
ようやく両親と買い物の機会が訪れ、かつて銅鑼灣にあった中国系デパート、「中國國貨公司」のわきにあるカセットショップへ行き、英語も広東語も話せない私はその場で「北国の春」を唄い、店主にカセットテープを選んで棚から出してもらいました。
その記念すべき購入テープ第一号は薰妮Fanny Wang「故鄉的雨」です。この曲を飽きもせず毎日聴いておりました。

次に聞きつけた情報は西城秀樹「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」のカバー曲、林子祥George Lam「YMCA好知己」です。「抉擇」というアルバムに入っていました。
この広東語版は後々日本の深夜放送でプチバズったそうですが、私は香港でこのカセットテープを買った最初の日本人だと思います。たぶん。

このアルバムには「ジンギスカン」など洋楽のカバー曲もいくつか入っていますが、「成吉思汗」の広東語歌詞があまりにも違和感がなかったので、買った当初は林子祥がオリジナルの歌手かと勘違いしていたほどです。

さらなるカバー曲情報にアンテナを張っていると、今度は「里の秋」のカバー曲、徐小鳳Paula Tsui「每日懷念你」があるというではありませんか。
もちろんダッシュで買いましたよ。

そしてさらに新情報をつかみ、さだまさし「関白宣言」のカバー曲、仙杜拉Sandra Lang「大女人宣言」の入ったカセットテープを買ってきました。
もうこのころを過ぎると、何を買ったか順番なんて覚えていません。

カセットショップへ行くのに慣れてくると、作曲者を調べるためまず歌詞カードをチェックするようになりました。
なにしろテレビっ子ですから、カバー曲以外にドラマの主題歌も買っていたのですが、そのテープに必ず何らかのカバー曲が入っているのです。頼みもしないのに(うれしいけどw)あれもカバーこれもカバー。これはすごいと思いました。
海外資本レーベルの多くは歌詞カードに作曲者の名前を記載してくれていて、判別には非常に助かりました。対して地元資本のカセットテープにはほとんど記載がありませんでした。まぁそれでも買うんですが。

こうして私はすっかり広東語ポップスにハマり、小遣いを貯めてはカセットショップ詣でにいそしんだのでした。当時は1本16~18HK$くらいで買えました(1HK$≒¥40)。

さて、香港滞在は永住ではなく父の転勤によるものでしたので、当然帰国の日が近づいてまいります。
もうカセットテープは入手できないので、くだんの銅鑼灣にあるカセットショップで、最後の小遣いをはたいて10数本のテープを買いました。この時なぜか標準中国語(北京語とほぼ同じ)歌手である鄧麗君Teresa Tengのテープを6本も買いましたが、これはこれでとてもよい買い物でした。

さようなら香港。
さようならカセットショップ。

しかし、これで終わりではなかったのです。

帰国後はもとの家に帰り、友達もいる地元の中学校に通い始めました。
しかし、日本の学校というものはかくもつまらない場所であるかと再認識させられました。もともと集団生活が苦手ですから学校は好きではなく、惰性で通学しているようなものでした。

転入した中学校の先生方は「本校のよき伝統を」などとのたまっておられましたが、新設6年目の学校だったので「伝統」と言われてもなぁ、という感じでした。むしろ香港日本人学校のほうが1966年設立でよほど伝統がありましたし、自己主張と自主性を尊重してくれる学校だったので自分には水が合いました。

そんな生活の中で、日々の楽しみはやはり音楽でした。テレビの視聴時間は減り、ラジオを好むようになりました。また、香港から持ち帰ったカセットテープを聴くのが休日の一番の娯楽でした。

そしてある日、「横浜中華街に香港のカセットショップがある」という重大な情報を入手したのでした。いくら出不精でも、これはもう行くしかない。

決行当日。小田急小田原線、国鉄横浜線、国鉄根岸線と電車を乗り継いで横浜は関内駅ヘ。
「関帝廟の近く」という情報をもとに、レコード&カセットショップ「發三電機商会」をなんとか探しあてたのでした。ちなみに関帝廟の近くにはヤ○ザの事務所もありました。

いやぁ日本にこんな場所があるとは…。買いまくりたかったのですが、なにしろ高いのです。カセットテープ1本3500円、当時ですから物品税が課税されていたのだとは思いますが香港価格の5倍近くです。
それでもカバー曲の有無をチェックしつつ悩みに悩んで、なんとか4本を厳選。密かに再訪を誓い、以後小遣いを貯めることに専念するのでした。

この時点で30〜40本のテープがありましたので、まだ増えることも考慮し、分類してメモしておこうと思い立ちました。
ノートにレーベル、商品番号、原曲とカバー曲のタイトル、歌手名を手書きで転記していましたが、そのうち面倒になりやらなくなりました。

さて、中学校では部活に入るのが良い生徒の証明でしたので、良い生徒wの私は吹奏楽部に入りました。実はこれが後々功を奏するのです。

中学校を卒業後、高校でも吹奏楽部に入ったのですが、野球部の応援という一大イベントがありました。
そして高2の夏、最激戦区の神奈川県にもかかわらず野球部が地方大会ベスト8に進出したのです!

応援する吹奏楽部の行き先は、関内駅から歩いてすぐの横浜スタジアム。

あ、行ける…。

買いました。

翌年の野球部はベスト8は逃しましたが、地方大会では横浜スタジアムで試合をする機会があり、また發三電機商会を訪問することができました。

さらに時代が進み、大学時代はバブル期でした。アルバイト(香港の旅行ガイド編集とか中文ワープロの入力とか色々)の給料でも香港旅行ができるようになり、在学中には3回ほど行ったと思います。
しかもカセットテープの値段が安い!一回の渡航で30~40本とか、もはや買い出しと化していました。

それでも目当てのカセットテープが見当たらなかったり、複数の店を回っているうちに買い忘れたりして帰国後気づくこともあります。
そんな時は發三電機商会へ行くのです。店主は笑みを浮かべながら「あなたの注文なら探しておくよ。」と引き受けてくれて、次回訪問時には必ず手に入るのです。まるでハードボイルド小説にでもありそうな、値段は高いが頼りになる武器商人みたいでした(ちなみに2007年10月に閉店してしまいました。残念)。

こうしてテープは増え続け、この時点で150本くらいはあったでしょうか。
今度こそ収拾がつかなくなりそうなので再び分類しようと思い立ち、ちょうど買ったばかりのワープロで入力を始めました。
ワープロならコピペができますし、手書きと違い罫線がきれいに引けますし、必要なら印刷もできますのでこれは便利!と思ったのですが…。

漢字がJISコードしか入っていないので、タイトルも歌手名も完全な表記ができないのです。
なにしろ使用頻度がそれなりに高い「你」が入力できないのは致命的です。無理やり「イ尓」(半角カタカナの「イ」+「尓」は外字で自作)で入力していました。
もっと困ったのは「雯」、「蒨」、「荃」、など部首がかんむりの漢字です。これも外字で自作しましたがまず作るのが大変で、しかも登録数には限りがあります。
結局途中まで作ったものの、またしてもそれっきりになりました。

ところで、このころはダビングのできるWラジカセが広く普及していた時期なのですが、香港製カセットテープの品質の悪さに悩んでいた私は、手持ちのテープを全部ダビングするという暴挙に出ました。それでディスカウントショップで型落ちの生テープを買ってくるのですが、収納場所も単純に二倍必要になります。あたり前ですね。
しかし、次々に新しいテープを買ってくるものですからとても追いつかず、段々とあきらめざるを得なくなりました。

そういった事情もあったりして、このころからはテープよりもCDにシフトし始めました。
ちなみに發三電機商会ではCDは5500円もしたので、さすがに買いませんでした。

就職は中国/香港出張のある専門商社を選んだのですが、当時は超円高で業績が悪化しつつあり、結局出張は一度きりでした。仕事が忙しいこともあり、プライベートでも香港に買い物に行くペースがめっきり落ちました。
しかも5年半ほどで転職して休みの取りづらい仕事についてしまったので、2000年代は氷河期のごとく香港にも行きませんでした。

さらにさらに時代が進み、また新たな展開が生まれます。
ネットです。

私がPCを買ったのは2004年ころとあまり早くはなかったのですが、なにかの検索中に偶然中国語のカバーソング情報を見つけました。香港に行かずとも情報に接することができるとは!これでまた火がついてしまいました。

当初は初心者だったので操作に不慣れで、保存もロクにできなかったのですが、一年ほどしてそこそこ習熟してからは暇さえあれば検索をかけて、情報の収集に明け暮れることとなりました。

特に中国のブログや掲示板にはずいぶんお世話になりました。
ただ情報の精度が低く、裏取りしていないコピペがいくつも出てきますし、カタカナの「ソ」と「ン」、ひらがなの「ね」と「れ」と「わ」が全く区別がついていなかったりして、いろいろ「怪レい」情報ではありました。

また、中国では著作権的にグレーな試聴サイト(無料のサブスクのようなもの)も多数存在し、これが情報の宝庫でした。音楽を聴くのみならず、作曲者・作詞者や歌詞などの情報を利用者がどんどん書き込めるのです。Wikipediaにも項目がないようなマイナーな歌手の情報も山ほど載っていて、いろいろ調べるのに大変重宝しました。

とはいえやはりグレーなのです。新しい(≒あやしい)試聴サイトをクリックして面倒な目にも遭いましたし、今年初めには一番使い勝手の良かった大手の試聴サイトが潰れて(≒潰されて)しまいました。
音楽はお金を払って聴きましょう。

後々、日本のブログなどでカバー曲情報を載せているサイトもいくつか見つけ、「なんでこれまで見つからなかったのだろう?」と脱力しました。
ただ残念なのは、これらのサイトの情報は「中国語カバーソング」の紹介なので広東語も北京語も台湾語も一緒くたであることです。また、更新が止まっているサイトが多く、新しい情報がなかなか得られません。
「広東語カバーソング事典」を思いついたのは、間接的にはこれらの経験があったからとも言えます。実は發三電機商会の店主からも「本が書けるんじゃない?」と言われたことがあります。

もちろんネットだけでは調べられないことは多々ありますから、今でも実際に香港へ足を運んでCD、カセットテープを買ってきています。

私が最後に香港へ行ってきたのは2019年の5月で、政治情勢がここまで悪化する少し前です。デモが始まる直前で、今にして思えば絶妙のタイミングでした。

香港のネットニュースにも載った深水埗の中古カセットショップへ行き、財布と相談しながらではありますが十分吟味して、この店をメインに17本のカセットテープを買うことができました。
もちろんCDも買うのですが、古い曲はCD化されていないものも多く、どうしてもカセットテープの現物が必要になります。要するに歌詞カード目当てですね。

写真は戦利品ですが一部はジャケ買いで、カバー曲の入っていないテープも混じっています。

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せっかく買ったこれらのカセットテープですが、実はこわくてなかなか聴けません。ラジカセのplayボタンを押した途端の「ブチッ!… シュル シュル シュル… シャーーーーーー…」という状況を避けたいので、You tubeなど動画を探し出し、歌詞カードを見ながら聴くのがいつものスタイルです。

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写真はすべて復刻版のCDですが、最上段の左から3番目が一番欲しかったCDです。これらも一部はジャケ買いです。


残念ながら今の社会状況では当分香港へ行くことができず、行きたいと思っている店がひとつ、またひとつと閉店するのを横目で眺めるしかないのですから、歯痒いことこの上ないです。
今年に入って、くだんの中古カセットショップ閉店のニュースを聞いた時は心底がっかりしました。今更ですがもっと買っておけばよかったと本当に忸怩たる思いです。店ごと買いたいくらい。

カバーソング情報をノートに手書きしていた中学時代からはや40年。今でも継続して調査していますが、さすがに新発見のペースはかなり低くなってきました。
ネット検索もまだ初期のころは一日に何曲も見つけられたのですが、最近の検索では「広東語カバーソング事典」のページが上位に出てきてしまい、ほかに有用な情報が全然見当たらないことすらあります。SEO対策なんてガン無視しているのに。
喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか。

というわけで今日も一日PCの前でした。↑ よろしかったらのぞいてみて下さい。

※追記
「広東語カバーソング事典」書籍化しましたのでご覧ください。
アマゾンか楽天で購入できます。





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