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「センスの哲学」

 センスが良いってどういうことか考えたことはありますか?
 私はできればセンスが良いと思われたいです(笑)でもどうしたらセンスが良くなるの?みたいな話、センスを解体していくのがこの本なのかな、ということで「センスの哲学」手に取ってみました。

 あの手この手でセンスにせまる。

モデルの再現から降りることが、センスの目覚めである。

p.44

 なるほど。お手本のようなものに近づけようとしても滲み出る自分感。差異を感じて、ああああー、となる。先日の藤のワークショップもそう。それをやめて、子供の自由に戻る、ヘタウマに向かう。再現のしすぎから降りること。
 「こなれる」とはどういうことなのか、というのも興味津々。この本とても丁寧です。
 同じ千葉雅也さんの「現代思想入門」も「勉強の哲学」もそうなんですが、じゃあこれはどうなのかな?と思うと、その解説が必ず出てくる。先回りされてる感がなんだかワクワクします。

ものごとをリズムとして捉えること、それがセンスである。

p.50

 ここでセンスとはリズムです、とくる。リズムってリズム感のない私は、おおこれはハードル上がったな、という感じ。落ち着け。
 ではリズムとはなんなのか、本の表紙の絵を見てみたり、音楽について語ったり、はては餃子の味わいまで使ってリズムとは、リズムを味わうとは、が解説されます。本当に丁寧。
 餃子のところはわかりやすいし、絵画鑑賞と餃子の味わいを並行してみる日が来るとは思いもしなかった(笑)

センス:ものごとをリズムとして「脱意味的」にして楽しむことができる

p.100

 映画やアートを観た時、これは何を意味しているのかな、とあれこれ考えがちですが、脱意味的に楽しむ。全体を見てどうか、よりも部分を味わう。部分が面白ければそれでOK。部分を見るとリズムが浮かび上がる。多面的に凹凸を味わうこと。
 この本を読んでいるとアートや映画の鑑賞方法が広がる気がする。それもセンスの一つなのかな。

 ふと思ったのが、私にとっての読書とは、ということだ。私にとって読書とは、自分の言葉を探すこと、かなと思っている。私はなかなか自分の気持ちを表現することができない。言葉が見つからない。だから本を読む。本を読んで自分の中に沈んだ言葉たちを掬い上げる。
 もちろん途中で辞めてしまう本もあるけれど、もしつまらなくても、一文でも自分の言葉みたいなものが見つかればそれでよし、と思っている。そういう意味では、読書において、私も少し脱意味的に読んでいるのかもしれない。この本のリズムのお話とは少しそれますが。お話の面白さや、展開の面白さとかももちろん楽しんではいるのです。いろんな読み方感じ方があって良いのだな、ということを改めて確認できた気がしました。

 話が逸れてしまったが、ここまでが前半。
後半は「並べる」、「偶然性」、「時間と人間」、「反復とアンチセンス」と続いていきます。盛りだくさん。。。前半の内容を掘り下げる感じかな。

リズムの経験とは、「反復の予測と予測誤差という差異」のパターン認識である。

p.146

 反復からのズレを、なぜ面白いと思うのか。予測と反する動きがあることを不安でなくおもしろがれるのはなぜか。反復に対して生じる差異の魅力的を楽しめるものになるのがリズム化(習慣と遊び)という。

芸術に関わるとは、そもそも無駄なものである時間を味わうことである。あるいは、芸術作品とはいわば時間の結晶である。

p.186

答えにたどり着くよりも、途中でぶらぶらする、途中で視線を散歩させるような自由な余裕の時間が、芸術鑑賞の本質です。

p.187

 この辺りは納得なところかな、と思います。

人間にとっての楽しさの本質というのは、ただ安心して落ち着いている状態ではないわけです。楽しいということは、どこかに「問題」があると言えことです。

p.198

 あれあれ、なんか芸術鑑賞論になってやしませんか?センスについてのはずなんですが、と思うかもしれませんが、最後ちゃんとセンスに着地します。

 センスとは結局のところなんなのか、センスが良いとはなにか、みたいなことを周縁から丁寧に解説し、自分なりのセンスをどう捉えていくか、がなんとなくわかる一冊な気がします。
 付録で具体的にどうすれば良いのか、まで記されていて、実践していけばセンスが良くなる気がします。
 また、深く掘り下げたい興味が湧いたところに関しては本の最後に読書案内があるので、自分なりに深めることもできます。私も何冊か読んだものが入っており、取り立てて難しい学術書ばかりというわけではないです。中でも井奥陽子さんの「近代美学入門」は個人的にもおすすめです。

 この本を読むと。センスが良い悪いということよりも、芸術の楽しみ方が広がる事は間違いなさそうなので、次にアートを鑑賞する時が楽しみです。
 今月はデ・キリコ、ブランクーシに行くつもりなので、今から楽しみです。

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