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「体はゆく」

 伊藤亜紗さんの「体はゆく」を読みました。

 これ本当に面白いです。伊藤亜紗さんの本からはいつも、こんな見方があるのだな、こんな研究があるのだな、と好奇心をくすぐられることが多い。とても好きな研究者の1人です。彼女の本が出るとつい欲しくなります。

 今回は体の可能性の話かな、と思っています。なんとなく体と言うと、脳にコントロールされている、と頭から信じていましたが、そうではない。体の奔放さ、ユルさが、体の可能性を拡張している、と説いています。
 これだけでも面白いと思います。それを具体的に5人の研究者の研究を見ながら、具体的に見出して行く。そういうと難しそうな話かと思いますが、その研究だけでなく、途中に挟まれる伊藤先生のちょっとした体験などで示される例なども興味深く、とても分かりやすいです。

 第1章のピアノの話、などは、目から鱗。ピアノを演奏するとはどういうことか、その概念が少し変わる気がする。
 「練習と本番は仮説と検証の関係」という言葉にも、あぁ、確かに、と思わされる。自分の方程式からいかに外に出られるか、なかなか興味深いです。
 また、手にはめて、勝手に指を動かすエクソスケルトンという機械も出てきます。特定の演奏者の手の動きを、これを通してはめた手に再現できるというものです。そんなものがあるだけでもすごいと思いますが、それを体験することで、自分ができなかった指の動きを体験でき、習得できるそうなのです。(ものすごく簡単に書いてます)
 できないことを自分の意思とは関係なく体験することで、自分の可能性を開く、という面白い話でした。

 第2章の桑田選手の投球フォームの話も目から鱗。正確なフォームでぶれなく投げられていると思いきや、フォームには大きなゆらぎがありつつも、投球はぶれない。ゆらぎがあるからこそ正解に辿りつくような。
 そして、桑田選手の投球を自身ががこうしている、と説明しているのだが、実際の動きは全く違っていたり、とても面白い。意識を裏切る体の動き。そんなこともあるのか、とびっくりしました。

 あまり全部書いてしまうと、本を読んだ時の新鮮な驚きを損なってしまいそうなので、この辺で。どの章も目から鱗、今、テクノロジーはこんなふうにも発展しているのだな、と感心しきりです。
 最後に語られる「できるようになる」という出来事自体の面白さ、「能力主義から「できる」を、取り戻すこと」という語りもとても興味深いです。
 暗いニュースが多い、テクノロジーがどんどんなにか違う方向に世の中を持っていくような感じがする昨今で、少し明るい未来を信じられるような、そんな本でした。

 他の人の本の紹介などを見ると、あぁ自分って読めてないな、とか色々思ってしまうけれど、拙いながらもやはり自分が感じたことも残しておきたいな、と思う今日この頃です。

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