見出し画像

微睡の世界VOL.12 山川恵津子という音楽家について

山川恵津子さんは70年代後半から活動する作編曲家で1986年に小泉今日子の「100%男女交際」でレコード大賞の編曲賞を取り、現在までに1000曲以上のアレンジや多くの作曲を行い、今も現役バリバリで活動しています。

日本、いや海外でも女性のアレンジャーという方はあまりいないように思います。日本では菅野よう子さんくらいでしょうか(赤い公園の津野米咲の不在が悲しいですが)

僕は2020年に音楽評論家の吉見佑子さんに興味あれば紹介するけど、と言われて僕はもちろん存じ上げているので喜んでお会いしました。僕はずっとプロデュースしている寺嶋由芙にぴったりだと思ったんです。

寺島の新曲の音楽性は山川さんいお願いするならA&Mサウンド、あるいはソフト・ロックと呼ばれるジャンルの物にしようと思いました。そして進め方は歌詞先でやりたいと思いました。

音楽性に関しては山川さんの楽曲は下記の本でもおっしゃっていますが管と弦のスイートなアレンジ、それと独特なコード感だと思ったので、それが一番、音楽性の曲が活かせると思いました。

なぜ歌詞先かというと、いつも間にか日本の音楽業界はメロディー先で後でそれに歌詞をつけるというのが当たり前のようになっていますが(理由としてはコンペで没にした曲は使い回しが出来るけれど、歌詞の使い回しは難しいという理由があるように思います)
録音機材の関係でデモが今ほど完成度の高いものが作れない70~80年代は歌詞先というのは普通にあったのと、インタビューで歌詞先の方がやりやすいとおっしゃっていたので歌詞先で作ろうと思いました。そこで「作詞はどなたが良いですか?」とお伺いしたところ「松井君か売野君かなぁ」とおっしゃったので、少しビビりました。作詞は松井五郎さんにお願いする事になり、そして出来た曲はこの「みんな迷子」という曲になりました

サビの「迷子、迷子~」からのメロディーとコードが本当に迷子になっているように響いています。これは歌詞先にしたので曲の世界観がすでに出来ていたからこうなったと思います。
本当に名曲だと思っています。

次は編曲だけお願いしてみたいと思い「仮縫いのドレス」という
曲を作りました。

ラグジュアリー歌謡という呼称がありますが、まさにこれなのではないでしょうか。

そして現在は解散してしまいましたがCIRGO GRINCOというグループでも1曲お願いしました
こちら妖しさやゴージャス感が前面に出た名曲かと思います。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/4BUEqEXM4qS2QvpQrnFLLM?

si=5d640641a4774e9d


作業の合間に、僕もお伺いしたい事がたくさんあり質問攻めにしてしまうのですが、その当時のエピソードがめっちゃくちゃ面白いんです。

また80年代の音楽にレスペクトがある若い作曲家やアレンジャーである宮野弦士君やケンカイヨシ君に紹介すると彼らも彼女に話を興味深く聞いていました。

そして、今は90%のポップ・ミュージックがPCで作られる世の中になってしまい、もはや滅びてしまった80年代のスタジオにトップ・ミュージシャンを集めてどうやってレコーディングがされていたか歴史のアーカイブとしてとして残さないと勿体無いとも思いました。

それでツテを頼って編集者を紹介してもらい、ぜひ彼女の話を書籍化出来ないかとオファーしたところ1年以上かかってつい先日、こちらの本が出版されました。

読んでみると僕も知らなかったエピソードも満載です。
あの曲のアレンジは完徹59時間かけた,なんて今のコンプライアンスでははありえないですね。
レコーディングは昔の当たり前が今の贅沢というのは残念でもありますが、それ所以に当時の音楽が今聞いても素晴らしいものになっているのかもしれません。

80年代のスタジオは僕も経験がありますが完全な男社会でシンガーやアーティストは別にして、女性というとバイオリンとかのストリングスのミュージシャンくらいです。

スタジオもタバコは吸い放題だし、作業も12時までに終わればオンの字、2~3時、あるいは徹夜も当たり前の世界でした。
楽しみといえば出前を何にするかメニューを選ぶ時くらい
待ちの時間も長くて、ロビーのソファーで仮眠を取っているミュージシャンやスタッフなども良く見かけました。

エンジニアやミュージシャンにアシスタントが怒られている様子も何度も見ました。

そんな中の小柄の女性の彼女がやっていくのは大変じゃなかったのですか?と聞いた所、女子高育ちで女子同士の人間関係が嫌だったから、サバサバした男社会の方が全然ストレスがなくて楽しかかったとおっしゃっていました。

考えるとそれとミュージシャンという性差は関係ない実力社会ではあるのでフェミニズム的に優れていたのかもしれません。

この本で何度か90年代に出てきたデジタルでトランポーズされた転調の作品が嫌いという発言が何度か出てくるのですが、これは誰の作品なのはお察しください。

音楽業界、ミュージシャンを目指す人は必読だと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?