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海外レコーディングという文化について(後編)

1998、ペンギンノイズというバンドを担当していました。新作を作るにあたって海外で何かできないか思い、メンバーと話していたら当時はまだ無名だったフレイミング・リップスの「クラウド・テイスト・メタリック」というアルバムの音が面白いという話になり、その独特な音に驚きました。

アメリカのコーディネーターに訪ねてみたのですが全然分からないとの返事。そんなまだ無名のエンジニアはコーディネーターのワーク・リストにはないんです。
インターネットが少しづつ発達して来ていたのですが検索エンジンはなく、ネットサーフィンを繰り返してなんとかデイブのアドレスをゲット。連絡をしたところOKの返事。

アルバム曲のミックスをお願いする事になりました。ですが彼は自身が作り所有するボックス・ロード・スタジオでしか仕事をせず、そのスタジオはコーディネーターの人に聞いたら「青森の誰も知らない街」みたいな場所との事。
先ずはバッファロー空港に到着。そこから車で2時間ほど、どんどん山の中に入って行きます。
到着したのは大きめの山小屋、レコーディング・スタジオという風情はまるでありません。

デイブがどういった人物か全く事前の情報なし。サイケで爆発したようなサウンドを作る人なのでぶっ飛んだキャラの人ならどうしようと思っておっかなびっくり訪ねたら写真のような大学の准教授みたいな人で安心しました。

そしてスタジオにはフレイミング・リップスのメンバーも全員作業中。彼らもぶっ飛んだ人だったらと思ったら真面目で安心。
ある日メンバーのウェインがバットを持ってどこかに行こうとするので、どこかに殴り込みでも行くのか思ったら「ジョギングしに行くんだけど、熊や狼が出るかもしれないから」と言われたのはビビりました。
スネアの音が気に入らないらしく、スネアの音をツインリバーブアンプを通して鳴らして、それを録音しているのは初めて見る手法でした。
そのミックスは「ジェットラグ」というこのアルバムの2、4、5、7で聞くことが出来ます。

話を少し戻します。出会ったまだ日も浅い頃、ナンバーガールの向井君と話していたら「デイブ・フリッドマンの音は面白い、彼はウィーザーのセカンドも何曲かやっている」という話になりました。これは不思議な偶然だなと思いペンギン・ノイズのミックスの時にナンバーガールのCDも持っていき、デイブやリップスのメンバーに渡しておきました。

ナンバーガールは99年の春、あえて東京の最新のスタジオではなく、福岡のアナログ8chレコーダーしかないスタジオでアルバムをレコーディングする事になりました。その頃テキサスで毎年行われているSXSWという音楽見本市にジャパン・ナイトというのがあり、そこの出るバンドを探しているという話が同じ頃にきました。

当時はまだレコード会社バブルで制作費も余裕があったのに、彼らは福岡で多分50万ほどでアルバムを作ってしまい予算が大幅に余りました。僕はこの余った予算でテキサスの行き、そこからニューヨークのタルボックス・ロード・スタジオでデイブ・フリッドマンのプロデュースでレコーディングをしようと画策したわけです。

テキサスでのライブの話もいろいろあるのですが、ここでは省きます。

タルボックス・ロード・スタジオは山小屋を改造して作られていて、驚くことに防音がされてないんです。なぜなら近所に人が住んでないからですね。
スタジオは防音しない方が音が良いという話がありますが、どなたかエビデンスお願いできないですか?

1階はスタジオのブースとコントロール・ルーム。そしてキッチンとダイニング。2階はベッド・ルームが2つとシャワールームだったと思います。

ブースは吹き抜けでかなりの高さ。セッテイングしてドラムを鳴らすとブースにいても彼独特のあの音が聞こえます。一説では「クラウド・テイスト・メタリック」のドラムの音決めだけで1週間かかり、理想をサウンドを作るために、このスタジオを作ったという話もあります。

本当は3曲のレコーディングの予定だったのですがオフの日も特に行く所もないので1曲を一日で作ってしまったのもバンドの勢いを感じました。

そしてこのシングルを完成させました。(ナンバーガールはシングルは配信されておらずカップリングに重要曲もあるのでユニバーサルの方よろしくお願いします)

スタジオに寝泊まりも出来るのですが、手狭なのでホテルを取ったのですが、そのまま泊まるのも風情がありました。日本の合宿スタジオだと食事もセールス・ポイントなんていうのもあるんですが、ここはデリバリーも出来ましたが夕食は基本的には自炊なので学生の合宿みたいでしたね。
ナンバーガールはその後2000年、2002年とデイブ・フリッドマンと2枚のアルバムを作ります。
アメリカ・ツアーや諸々のエピソードはいろいろありますが、このテーマからは外れるので省きます(いずれナンバーガールについて書く時に書こうと思います)
おもしろかったのがデイブがだんだん日本語が分かるようになってきて歌詞もローマ字で書いてのあるのを読み、発音も覚え、意味も聞いてくるんですが、やはり耳が良いのだと思います。日本人ですら意味が分からない向井くんの歌詞を彼は説明してましたが伝わったんでしょうか?
日本語も覚えてきて「きつく」とかいうんですが、そこは「タイト」で訳さなくても大丈夫ですね。

https://open.spotify.com/album/4DK4pa60XFlmmrIFlN9FJP?si=FCKiHHzDTeG0UsOMVW58dw

日本語分からないですよね というような話をしたらモグワイ(最近、話題になったアメリカのドラマ「ブラックバード」の音楽を担当してて驚きました)もスコットランド訛りで何言ってるか分からなかったから一緒と言われました。

https://open.spotify.com/album/7FBx85QTyuFgl2TpjroShR?si=aB_yaU-pSf2eGg9n-YzY3w

2007年、デイブはフレイミング・リップスのアルバム「アット・ウォー・ウィズ・ザ・ミスティック」でグラミー賞でベスト・エンジニア・アルバム賞(クラシック以外)を受け、スター・エンジニアになってしまいました。ここも僕の見る目があったんですかね(少し自慢)

その後、僕はmass of the fermenting dregsというガールズ・バンドのレコーディングで2007年にタルボックス・ロードを再訪します。

僕は計5回、タルボックス・ロードという特殊な環境のスタジオでデイブ・フリッドマンと仕事をしたわけです。デイブのマネージャーから以前「ユー・アー・ロング・クライアント」とメイルが来たのはうれしかったです。

ちなみにこのスタジオ近所唯一の観光地はナイアガラの滝(でも車で1時間半かかります)なんですが、特に好きでもないのに4回も行った日本人もあまりいないと思います。


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