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『劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』 感想

概要

原作:青山 剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)

監督:立川 譲
脚本:櫻井 武晴
音楽:菅野 祐悟
主題歌:スピッツ「美しい鰭」

配給:東宝
劇場公開日:2023年4月14日(金曜日)

映画公式サイト リンク

注意

※本文は映画『劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影』のネタバレを含みます。閲覧の際はご了承ください。

感想

ウォッカ怖い。さすが黒の組織。

 黒の組織への認識を改めさせられる映画でした。今までコナンや赤井さんに一杯食わされることが多かったですが、今回はかなり悪辣非道なことをしているし、結果的に潜水艦とピンガ以外の痛手は殆どなしというある意味"勝ち逃げ"に近い状態。
特に見直した(?)のはウォッカ。今まではジンの弟分(コードネーム付きの幹部はお互い対等な立場のはずですが…)という以外そんなにキャラが立っていない印象でした。ところがどうして。今回は灰原誘拐を主導するし、直美を脅すために彼女の父を暗殺するよう指示するし、キールの質問には懇切丁寧に答えるし(それが仇になったのは内緒だ)模範的な「悪の組織の幹部」なんですよ。本作で「黒の組織の一員」として最も株を上げたのは、間違いなく彼だと思います。

 そのうえ、他の組織メンバーも魅力的に描かれている。
 ジンの兄貴は出番こそ少ないものの、最初のキール越しにニーナを射殺するシーンと、最後の「さぁ…どうだったかな」という台詞には彼に詰め込まれた「悪の美学」が光っていました。
 ベルモットさんは本作でも敵か味方かわからない行動をとっていましたが、ラストシーンで灰原を助けた(年齢認証システムをクソシステム欠陥品と誤認させた)本意が明らかになりましたね。通りすがりのおばあさんとしてブローチを譲ってもらった、その恩を「一回は一回」というような形で返したのです。こういう「敵とも味方とも断言できないけれど、筋は通す悪役」は結構好きです。

 一方、スパイ組も負けてはいません。
こちらのMVPは間違いなくキール(本堂瑛海)です。本堂瑛海としての過去を挟み込むことで、彼女がなぜ組織にいるのか、彼女は今何をすべきかを端的かつ的確に描写していました。そして、ウォッカに潜水艦への出入り方法を尋ねることで、灰原に脱出方法を教える(この時キールは灰原に盗聴器を仕込まれていた)という殊勲打を放ちました。マリオ議員(直美の父親)が一命をとりとめたと知ったとき、一番安堵したのは彼女かもしれません。
 バーボン(降谷零)、ライ(赤井秀一)も負けていません。キールほどの表立った活躍はありませんでしたが、彼らは公安警察、FBIとしてできることをして、それぞれ被害減少と潜水艦撃破に貢献しました。
 "戦力"と言える登場人物が多いと持て余しがちになりますが、本作はそれぞれの持ち味を余すところなく生かしていたと思います。

 無論、コナン達も魅力ある活躍をしました。
 主人公のコナンは勿論、灰原を攫ったウォッカ・ピンガとのカーチェイスの後に阿笠博士が悔しさや自責の念を露にした表情をしていたのが印象的でした。博士は灰原のことを本当に大切に思っていたんだなということが伺えて、劇場で泣きそうになりました。

 そして何と言っても本作のオリジナルヴィランであるピンガ。彼を演じたのは声優の村瀬歩さん(男性)ですが、なんとピンガがグレース(パシフィック・ブイの女性エンジニア)を演じていた時も村瀬さんの声だったのです!!声優さんってすごい。
 彼の活躍に話を戻すと、その犯行内容は劇場版でも群を抜いて非道。なんですか「殺した相手に(ディープフェイクを用いて)成りすますために、相手の死に様をじっくりと観察する」って。現実離れしている分「『自分の美意識に反している』という理由で建造物を爆破」とか「『(盗品を独占し、窃盗団のボスである)義経になりたかった』という理由で窃盗仲間を惨殺」がマシに見えるレベルです。
 そんな冷酷さと変装・演技やコンピュータなどの確かな技術、コナンを怪しんで「江戸川コナン=工藤新一」にたどり着く洞察力は「黒の組織 幹部」「キュラソーの後釜」と呼ばれるにふさわしい。しかし、それでいて「フランス流の数え方を知らなかった」という凡ミスやジンの名前を出されただけで激昂する点は小物っぽい。そういう点が絶妙に噛み合って何とも言えない味を生み出す。劇場版オリジナルヴィランの中で高い人気を誇るのも頷けます。
 ジンに嵌められ、潜水艦の自爆に巻き込まれる形で命を落とした彼ですが、最期の表情は薄ら笑い。かなり恐怖を感じました。「人の死に慣れすぎている」分、自分の死にも恐怖や絶望がなかったのでしょうか。それとも「ジンにそっくり」な分、彼の思惑(自分を蹴落とそうとしているピンガを抹殺したかった)がわかってしまったのでしょうか。いずれにせよ、骨の髄までどす黒い狂気に染まっていたんだなと思わされました。

 …というように、多くの人物が絡みながら持て余すことなく魅力を発揮できていた本作は、個人的に『劇場版名探偵コナン』屈指の名作だと思いました。

 余談になりますが、冒頭のコナンと沖矢さん(赤井さん)の会話で、黒の組織の幹部コードネームには法則があることを初めて知りました。男性は蒸留酒(ラム、ジン、アイリッシュ など)から取られていたんですね。ちなみに調べたところ、女性はワインやカクテル(シェリー、キャンティ、キール など)からだそうです。

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