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民族音楽サークルにいた漢

大学時代に、ほぼ騙されて入ってしまった民族音楽サークルのことについて、いくつか記事を書いてきている。当時、私は童貞だったがそのサークルには童貞仲間がいて、共に童貞ライフを謳歌していた。
下記の記事では、意識高い系童貞の田村さんと、イケメン中二病童貞の内藤くんと私の3人で合コンに行った話を書いた。

ただ、上記の三人の童貞の他に民族音楽サークルには童貞の頂に君臨する存在がいた。その童貞を極めし存在は私の二つ上の学年の穂高さんだ。
これまで民族音楽サークルの童貞に関する話はいくつか書いてきたが、童貞オブ童貞の穂高さんのことを出すのは初めてだ。

それはなぜかというと、穂高さんに関するほとんど全てのエピソードが過激すぎて、文章で表現してネット上にアップするには適していないからだ。
そしてあまりに特異的で個性あふれた行動をとるので、もし穂高さんを知っている人が読んだら本人のことだとばれてしまう。

それはだいぶまずいのでこれまで穂高さんのことを書くのは控えてきた。

穂高さんは本人は全く自覚していないものの、童貞を昇華しているがゆえの超越感から、普通の人がしないような行動を数多とる。

童貞ゆえの健気さとクソ真面目さが由来となっている奇行が多く見られたのだ。その奇行の数々は、スーパーアキダイの品揃えに匹敵するほどだった。

穂高さんに常識というリミッターはないので、その奇行はどれもこれも、ここで表現し得ないことがほとんどである。

ただ民族音楽サークルについて言及する時に、穂高さんのことに触れずにいたら画竜点睛を欠くことになるので、できる範囲で書いていくことに決めた。

穂高さんは、田村さん、内藤くん、私も含めて童貞四天王と呼ばれていた。
ただその中でも穂高さんは別格で、四天王最強の存在であった。

四天王と呼ばれ、一応四人が同格のように扱われているが、穂高さんだけは次元が違う。

これはまさに主人公が四天王のうち三人を倒した後、最後の一人に挑む時の展開である。

「くっ…なんだこいつは強えぇ…強すぎる。今までの三人とは違うのか…」
「かっかっかっ、私をあの三人と一緒にしてくれるとは片腹痛いわ。寛大で慈悲の心をもつ私は、あいつらと一緒に四天王と呼ばれること、容認しておるが実力は大人と赤子ぞ。三人が束でかかってきたとも、私が瞬間的に全員を封殺すること自明である。よってお主が私を倒そうなど一万年と二千年早いわ。一億と二千年後に出直して参れ」
「なっなんだと…」

このような感じで穂高さんだけは、四天王とは言ってもレベルが違ったのである。

穂高伝説のうちで、書ける範囲のことで言えば空手部の部員と喧嘩した時の話がある。

とある居酒屋で民族音楽サークルの何人かで飲んでいる時に、たまたま隣り合った同じ大学の空手部員に、民族音楽サークルのことをバカにされた。

犯罪を犯した新興宗教団体を引き合いに出して、私たち民族音楽サークルも同じようなことをやっているのではないかと、泥酔した空手部員が絡んできたのである。

私たち民族音楽サークルは十分怪しいので、空手部員の気持ちはよく分かる。

私たちは決して犯罪や道徳に反する行為はしていないが、民族音楽サークルはわりと誰がどう見ても怪しいという特性を持ち合わせていた。

私たちは空手部員はうざいなと思いつつ、泥酔して会話にならないのでほっといていた。

しかし生真面目童貞で曲がったことは大嫌いな穂高さんは、空手部のことが許せなかったようだ。

「おまえ創立50年をこえる我が民族音楽サークルを侮るというのか。上等だ。表に出ろい!」と当時でも前時代的なセリフとともに空手部の部員に向かっていった。
穂高さんは下戸で全く飲めないのでシラフである。酔った勢いで喧嘩を買った訳でなく、純粋に自分達が揶揄われたのが許せなかったようだ。

穂高さんは童貞ゆえに無垢な正義感を持ち続けている、正義の味方タイプに類型される、気高き孤高の童貞であった。

この後、なぜか穂高さんと泥酔した空手部員は、男なら相撲で勝負をつけようということに話がまとまったようで、大学まで戻り相撲部の土俵に忍びこみ相撲勝負をしたらしい。

得体もしれない楽器を鳴らすことは人より長けていても、武道や格闘技は全く経験がない穂高さんである。
空手部員に土俵上で散々投げ飛ばされたらしい。完全に穂高さんの負けである。
ただ、シラフで空手部員と勝負をしようとしたのはさすが穂高さんであると私は思った。

穂高さんと空手部員は男らしく相撲勝負をしたということで、二人の間にはわだかまりがなくなったようであった。

ただこれだけで終われば良かった。
しかし、ここから問題はだいぶ大きくなってしまうのだ。

穂高さんと空手部員が、土俵で喧嘩したことが相撲部にばれてしまったのだ。

神聖な土俵にこっそり忍び入り、喧嘩とは何事かと相撲部員たちは怒り心頭である。

空手部員は同じ武道系の部活ということで、空手部の部長が、相撲部に出向き部員たちに頭を下げて手打ちをし、ほぼお咎めなしであった。

しかし民族音楽サークルにそんな政治的権力はない。穂高さんがやったことは穂高さんが責任を取るしかない。

相撲部員たちは穂高さんに対して、そんなに土俵に上がりたいなら、遊びに来いと言ってきたそうだ。
これはかわいがり必至である。私たちは穂高さんに、行ったら半殺しの目に遭ってもおかしくないので、なんとか逃げるようにと助言したのであるが、穂高さんは聞く耳をもたない。

「確かに神聖なる土俵に立ち入ったのは悪かった。相撲部がそれを許せないのは当然である。漢穂高、その咎を甘んじて受け入れよう。なーに、相撲部とて、とって食うということまではしまい。行って参る」とこれまたどこで覚えたのかよく分からないセリフを吐いて相撲部が待つ土俵に向かって行った。

数時間後、穂高さんは相撲部員たちに土俵上でたっぷりと稽古をつけられて、ボロ雑巾のようになって民族音楽サークルの部室に帰ってきた。

そして「行かなきゃよかった…行かなきゃよかった…ふんどしが…腹肉が…」と行く前の威勢が嘘のように、しばらく悪夢にうなされたように我を失っていた。


穂高さんにはこのような童貞起因の蛮勇による奇行がたくさんあった。
私たちは穂高さんに畏敬の念と、あんな風になってはいけないという戒めの気持ちを同時にもちつつ、その奇行を眺めていた。

そんな穂高さんなのではあるが、ある理由により定期的に闇に落ちる。
普段はヒーロー系童貞として活躍しているが、病み系女子みたいな性質も持ち合わせていたのだ。精神的に参ると、人が変わったようになりかまってもらえないと死んでしまううさぎちゃんのようになる。

そんなエピソードも書こうと思ったのだが、ちょっと長くなった。
穂高さんが精神的に病んだ時に、私たちがどのようにアプローチしたかという話はまた次の機会に書きたい。

つづく。

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