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時空が歪んだ合コン

大学生のころ、ほぼ騙されたようなかたちで民族音楽サークルに入った私。そのサークルで童貞仲間ができ順調に童貞ライフを満喫していた、というような話を先日、記事にした。

今日はその童貞仲間と合コンに行った思い出を書いてみるので、お時間のある方はお付き合い下さい。


私は民族音楽サークルに入り、一つ学年が上の田村さんと、同級生の内藤くんと強い絆を結んだ。
なぜかというと三人とも童貞だという共通点があったからだ。

童貞であるということは時に強みになる。同じ童貞である人たちとの連帯を促すからである。

童貞は非童貞に囲まれて過ごしていると心細い思いをすることがある。でも周りに童貞仲間がいれば傷を舐め合いつつなんとかやっていけるのだ。

私たちは童貞三国同盟を結び、非童貞諸国の侵略から身を守っていたのである。

そんな中で童貞の敵である、非童貞でモテる中川先輩から声がかけられた。「彼女の友達が合コンやりたいって言ってるんだけど、お前ら行く?どうせまだ彼女いないんでしょ?」と。

中川先輩は非童貞なので、我々三国同盟サイドからすれば、敵国である。
しかしこの時ばかりはそうも言ってられない。
「中川さん、お願いします!お願いします!」と私たちはコメツキバッタのように頭を下げていた。
敵に頭を下げるとは何事かと蔑まれることも、ものともせずに私たちは中川先輩にひれ伏した。

中川先輩は彼女がいるからもちろん参加しないので、私と田村さんと内藤くんの三人で中川先輩プレゼンツの合コンに行くことになった。中川さんの彼女の友達も三人参加してくれるらしい。
三対三でちょうどいい。

合コン当日は中川さんが予約してくれたお店で集合した。私たちは極度の緊張と期待のあまり30分も前に店に着いた。作戦会議をしようということになったが、童貞たちにとって合コンはどのようなものかすら分かっていなかったので話すことがない。

合コンという競技はどのようなルールがあるのか、どのようにして勝敗が決まるのか、今後どんな展開が待ち受けているのか私たちはまったく分からない。
そもそも合コンとは何か?
そんな中で策を練るなんてことができない。

だから気に入った女の子がいたら、空気を読んで伝え合おうね、というふんわりとした約束のみを交わして女性たちが来るのを待っていた。

約束の時間に女性たちはやってきた。
かわいらしい感じの女性が3名私たちの目の前に座った。
これには童貞びっくりである。合コンをすると思ってここまで来たものの、実際の女性、しかもかわいい女性を目の当たりにすると驚いて思考停止してしまう。悲しき童貞の性である。

ダンゴムシが突かれると丸まってしまうように、童貞は女性を前にすると固くなる。童貞の生物学的な生態なのでどうしようもない。

童貞3匹は思わず言葉を失ってしまった。

ただこんな時に果敢に攻めるのが田村さんだ。田村さんは童貞は童貞でも攻撃型童貞である。サッカーのサイドバックであれば、攻撃参加したままいつまでも戻ってこないタイプである。

田村さんがいきなり切り込んでいった。

蒲田文化国際アジアサスティナブル大学の、童貞研究の第一人者であるトムス・バディステン(2016)の「童貞における童貞による童貞のための5類型」によれば、田村さんはアクティブタイプに分類される童貞なので、短期留学、インターン、資格取得、バイトなど派手に行動している。

田村さんは自分がどれだけいろいろやっている系の大学生かということを女性たちにアピールし始めた。

ただ童貞の自分語りほど痛いものはない。

田村さんがインターンで大活躍したという一方的な自慢話を女性たちは白々しい様子で聞いていた。それにも気が付かずに田村さんの話は続く。

私は自分が生粋の童貞であることを棚に上げて「その空気の読めなさ、まさに童貞」と考えていた。

内藤くんはというと、隅っこでじっとお酒を飲んでいる。
内藤くんは童貞としてはかなり稀であるが、なんとイケメンなのである。普通に考えればモテそうである。

しかし内藤くんは何故か、田舎の中学生がジャスコで買ってくるような服を着る、という謎のハンデを自分に課しているのでイケメンが台無しなのである。

もっとも本人はハンデではなく、純粋にかっこいいと思ってジャスコ服を着ているみたいなので誰も何も言えないが、かなりださい。
この日は腕に英語の筆記体のようなものがびっしり書いてあり、お腹と背中には十字架と天使の羽が描かれているロンTを着ていた。

文字通り自ら十字架を背負って合コンにやってきたのだ。合コンにはそんな十字架を背負ってこなくてもいいのに、彼はそれを降ろさない。

その上、合コンで張り切っているようで、普段はつけていないドクロのネックレスもしている。

もはやこの世に舞い降りた堕天使だ。

童貞研究者、トムス・
バディスティン(2020)「童貞と中二病の親和性」の「第4章 服装に関する言及」に載るような姿をしている。

これには女性たちもひいていて、イケメンのわりにチヤホヤされない。

痛い自分語りをする童貞(田村さん)と中二病ファッションの童貞(内藤くん)と極度の緊張から地蔵のように固まる童貞(私)。

こうして女性たちにとって地獄の合コンは盛り上がらないまま続いていった。

しばらくすると自分語りのネタがなくなった田村さんが私と内藤くんに話を振ってきた。
「なんか面白い話ないの?」と。

最悪の振りである。この振りから面白い話ができる人は、プロの芸人さんくらいであろう。

根っからの童貞にはハードルが高すぎる。
私が「アウアウ」と狼狽えていると、突然内藤くんが「ありますよ!僕たちの話でいいんですよね!」とやけに張り切っている。

張り切る中二病ファッションのイケメン童貞。嫌な予感しかしないが、私は何も話せない状況なので何もできない。

内藤くんは「僕たち三人はこう見えて童貞なんです!三人合わせて童貞倶楽部!せーの!ヤー!」という音声を発した。

時間が止まった。

そして時空の歪みと共にこの空間の音がすべて消えた。

人々の表情が消え失せた。

内藤くんのそれは民族音楽サークルの男だけで飲む時の、3次会以降でのみウケるネタである。

合コンでは絶対に使ってはいけない。

私はフォローしようとしたものの「アウ、アウ」という声しか出すことができない。

思えば私はこの合コンが始まってから「ア」と「ウ」の音以外出していない。
まるで死にかけのオットセイである。

内藤くんはといえば、何を勘違いしたのか、思い切って半裸になったらウケますか?というようなサインを田村先輩に送っている。

違う。

そういうことでは全くない。脱がなかったからいまいちウケなかったとかそういう生やさしいことではない。
ましてや脱いだらなんとかなるということでもない。

内藤くんは民族音楽サークルの男だけの飲み会でウケた成功体験に取り憑かれ過ぎている。

合コンにおいては半裸になってもこの事態はなにも好転しない。
むしろ半裸になったら犯罪スレスレである。
打開策はこうなったらもう何もない。


この合コンは試合終了だ。

安西先生でも三井寿でも桜木花道でも諦めてしまうような圧倒的試合終了である。

私たちは大きな敗北感を胸に抱えつつ、無言で家路についた。

我々童貞倶楽部三人衆は大きなダメージを受けた。しばらくはアクティブポジティブ童貞の田村さんですら、「引きこもりたい、ニートでいい」とくよくよしていた。

しかし、痛手を受けたのは童貞サイドだけではなかった。
我々童貞の失敗は合コンをセッティングした中川先輩にまで、影響を与えてしまっていたのだ。

女性陣で、合コンに参加したのは中川先輩の彼女の友達だ。中川先輩は合コンにやってきたのが私たち童貞三人衆だったことを、彼女や彼女の友達からだいぶ責められたらしい。

中川先輩は、合コンには少なくともまともにコミュニケーションを取れる人間を集めろと怒られたようなのだ。

そしてしばらく中川先輩と彼女の関係はぎくしゃくしたらしい。

なんの罪もない非童貞にまで、悪い影響を与えてしまう。

本当に童貞は業が深い。

このようにして大学時代、民族音楽サークルに所属していた私の童貞ライフは続いていくのであった。

童貞喪失までの日のことをこれからも書いていきたい。

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