ずっと昔からやりたかったことをついに今日やってみた。
私は7年くらい前から、職場で10人前後のチームのチームリーダーとして働いている。
チームのメンバーは毎年変わるが、これまでのチームはわりと平均年齢が高めで、私はチームリーダーとしての役割をさせてはもらっているものの、若い方であることが多かった。
去年のチームのメンバーも、ほとんどが年上でベテランに助けられつつ仕事をしてきた。
しかしそれが今年は違う。初めての経験なのであるがチームメンバーがみんな平成生まれなのだ。
若い。
どう接したらいいか分からないところもありつつ、若い人の気分を害さないように、押し付けがましく説教くさくならないように頑張っている。
そんな中で先日、急に飲み会に誘われた。
チームの中でも若手の中心的な人が、なんとなくチームのみんなで飲みに行くことになったから私も来ないかと誘ってくれたのだ。
ありがたいことではあるが、保育園のお迎えに行き、子どもを寝かしつけるまで育児をするという、私にとってはわりと大切な役割がある。
そんな事情から簡単には飲み会には行けないので、丁重にお断りをした。
本当は行きたい気持ちは強い。
20代のころは隙あれば飲み会に参加していた私である。週2回から3回の飲み会を生きがいとして、そのためだけに働いていたと言っても過言ではないくらいであった。
ただ今は子育てがあるというのもあるし、また若い人が中心の飲み会に喜び勇んでいく中間管理職というのもなんだか嫌だ。
若い頃は変なおじさん上司が若手中心の飲み会になぜかやって来るということがたまにあって、そこでしょぼい武勇伝を語られるのが何よりも嫌だった。
そんな大人にはなりたくないと強く思った記憶がある。
しかしここで千載一遇のチャンスが訪れていることに気が付いた。
私が若い頃から憧れていたあれができるチャンスだ。
ついに私もそれができるようになったのだと胸がいっぱいになった。
あれとかそれというのは、若い人にお金だけ渡して「私は行けないけど、みんなでこれで飲んでおいで」という、例のあれとはそれである。
ずっと昔からやってみたかったのだが、機会に恵まれなかった。
ただめちゃくちゃカッコつけてるみたいで恥ずかしいという気持ちは強い。
今日は朝からそれをするかしないかで悩んでいた。もう仕事が手につかないくらい、若い人にお金を渡して「私は行けないけど、みんなでこれで飲んでおいで」をやろうかやるまいか悩んでいた。
やりたい、でも恥ずかしい、やりたいけどやったら変に思われちゃうんじゃないかと朝から乙女のように胸が千々みだれていた。
自分のことながら、そんなことで悩むなら仕事をもっと頑張れと言ってやりたい。
でも、やっぱりやってみたい気持ちに蓋をすることはできなかった。
「お父さん、お母さんごめんね。私、東京で『若い人にお金を出してこれで飲んでおいで』したいの。おじいちゃん、おばあちゃんやお父さんやお母さんが守ってきたよろず屋を継ぐことはできない。ほんとにごめん。でもお父さんとお母さんに、私が『若い人にお金を出してこれ飲んでおいで』するの許して欲しいし、喜んで貰いたい。私の人生、たった一度のわがままだよ。お願い」と田舎の善良に生きる両親に許しを乞うた上でやってみた。
私が「せっかく誘ってくれたのに行けなくて申し訳なくて、でも私も気持ちだけはみんなと一緒に参加したということにしたいから、どうか参加費として受け取って欲しい」と言って若手のリーダー格の人にいくばくかのお金を渡すと恐縮しつつ受け取ってくれた。
受け取ってくれて良かった。
これで受け取ってもらえなかったらかなり恥ずかしい。
今頃若い人たちは飲み会をしているだろう。
「なぜかあいつお金を渡してきたんだけど訳分からない」と私の悪口で盛り上がっているかもしれない。
それで全然いいのである。中間管理職は若い人たちに悪口を言われるのも仕事だ。
若い人たちの飲み会に無理やり参加してウザがられるよりずっといい。
私は夢であった「若い人にお金を出してこれで飲んでおいで」ができたので満足だ。
きっと田舎の両親も喜んでくれているはずだ。
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