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甥っ子と二人きりでキャンプに行って心の距離が縮まった。

先日わけがあって甥っ子と二人きりでキャンプに行った。
心の距離があった甥っ子とキャンプに行ったことによって、その距離がかなり縮まった話を書こうと思う。

甥っ子は妻の姉の子どもで、小学校四年生である。私の子どもは5歳と2歳で、甥っ子はちょっと歳上である。甥っ子は私の子どもとよく遊んでくれるものの、私とはなんとなく疎遠であった。

妻の姉の子どもということがありなんとなく遠慮があるからかもしれない。
初孫として、妻の父や母にかなり可愛がられていることもあり、私が甥っ子に対して出る幕もほとんどなく、親密に接するということがないままここまできていた。

しかし、つい先日成り行き上、私と甥っ子(ゆうき)と二人っきりでキャンプをすることになった。

それはどういうことかというと、当初甥っ子のゆうきはお父さんと二人でキャンプに行く約束をしていたらしい。
しかし、ゆうきのお父さんは急に仕事が入りキャンプに行けなくなってしまった。

そこでその代役が私に回ってきたのだ。
そのキャンプは音楽フェスのチケット付きキャンプだった。
チケット付きキャンプサイト券は2枚しかないので、ゆうきと音楽フェス好きである私と二人で行くのがちょうどいいという話に、いつのまにかなっていた。

しかし私の音楽フェスの楽しみ方はアウトドア系ではない。私はもともとインドア派なので、宿泊を伴うフェスはキャンプではくホテルに泊まる。
疲れないようにゆとりをもったスケジュールでフェスを楽しむのが通例である。

しかし、妻の姉は音楽フェス好きならキャンプもなんとかなるでしょ、くらいの感じで私に依頼してきた。
私にキャンプなんてできるのかと思いつつ、妻の姉のお願いを断ることなどできない。
ただでさえ怖い妻が恐れるほどの姉である。頼まれたら「はい」以外の返事を私は持ち合わせていない。

こうして私とゆうきは二人きりでキャンプに行くことになった。

キャンプに行くということはいろいろと準備しなければいけない。
テントは二年くらい前に買って、一度使ったきりの二人用の簡易的な物を持っていくことにした。
これは、どこにも出かけられないご時世であるというので、妻の実家の庭を借りておうちキャンプをするために買った物だ。

寝袋はゆうきの父の物とゆうきの母の物を借りることにした。最低限必要であろうと予想されるランタンやキャンプ用のヤカンを買い、カセットコンロを妻の実家から拝借するなどして準備を進めた。

キャンプ経験がない私はなんとか荷物をまとめて、それを車の荷台に詰め込んで、ゆうきと一緒に音楽フェスが行われる特設キャンプ場まで向かった。

車中、助手席に座る小学校四年生のゆうきと何を話したらいいか分からない。私の身近なところに小学生はいないのでどんな話題が適しているか見当がつかないのである。
ゆうきは車酔いしやすい体質でもあるので、車内でぐったりし始めた。
なんとなく気まずい雰囲気のまま会場に到着した。

キャンプ場で場所取りをして、まずはテントを張らなければいけない。
おうちキャンプの時にテントってけっこう簡単に張れるんだと思った経験があり、事前に練習はしていない。

これが大きな誤りであった。
ゆうきには「おじさんがさっとテント張っちゃうからちょっとだけ待ってて!」と言ったものの、テントの袋を開けたところで何をしたらいいか全く分からないという絶望的なことになった。

思い出してみると、おうちキャンプをした時は妻と妻の父がテントを張っていた。
そしてその時私は子どもたちとと遊んでいた。妻と妻の父の手により、いつのまにかテントが張られていたので「テントはすぐ張れる」という勝手な印象をもってしまっていた。
私はテントを張っていないという事実を私は都合よく忘れていたのだ。
器用な妻と妻の父ならテントはあっという間に張れるかもしれないが、恐ろしく不器用な私にテントが簡単に張れる訳がないということに気付くのが遅すぎた。

絶望感を抱きつつも、テントを張ることを諦める訳にはいかない。そしてここには私とゆうきしかいない。私は恥をしのんでゆうきに「おじさん、どうしたらいいか全然分からなかった。ごめん、一緒にやってくれる?」と言い、二人でテントの袋から出した、これからテントになっていくであろういくつかの部品を並べた。

幸いテントの張り方が図解された紙がテントの袋の中から発見されて、私とゆうきは二人でああでもない、こうでもないと言い合いつつテントを張り始めた。

二人の苦労の甲斐があり、だいぶテントが形になってきた頃にテントにロープを付けて、ペクで止めなければいけないということに気がついた。

ところがペグがどうやっても地中に入っていかない。ぐるぐる回しながら押しこんだり、足で踏んでみたりしても全然うまくいかないのである。
そうこうしていると、ゆうきが「ちょっと待ってて!」と言い隣のテントに行き何か話している。

帰ってきたゆうきの右手には金槌のようなものが握られている。「これでペグを打つみたいだよ。さっき隣の人たちがやってたから借りてきた」と言う。
ゆうきは隣の人がテントを張っているのを見ていたらしく、ペグを金槌のようなもので打っているということも分かっていた。

隣の人はもうテントを張り終えていたので、金槌のようなものを借りても問題ないと判断したのだろう。

ものすごく頼りになる甥っ子である。

金槌のようなものでペグを叩いたら、あっという間に地中深く刺さった。

甥っ子は「これいいよね?」と言って、私がおつまみ用に買った柿の種をお礼に持って行きつつ、金槌のようなものを隣のテントの人に返していた。

小学校四年生ってすごいなとこの時つくづく思った。ちゃんと周りの人と適切なコミュニケーションを取って生きていくことができるようになっている。

ゆうきの大活躍もあり、最初は絶対に無理だと思われたテントを張ることができた。
テントを張るという私とゆうきにとっての難事業を終え、二人の距離はかなり近くなった。

いつもだったら、甥っ子と二人で協力して何かを成し遂げるなんてことは絶対にない。
日常生活ではそんなシチュエーションにはまずならない。
でもキャンプでテントを張るというミッションがあったからこそ、私とゆうきは会話をして力を合わせることができた。
そしてそのことにより心を通わせることができたのである。

テントを無事に張り終えたので、近くの音楽フェスの会場に行き音楽をたっぷり楽しみ、夕方には近くのスーパー銭湯でお風呂に入り食事をしてテントに戻ってきた。

その時点でまだ午後7時だった。寝るにはまだ早すぎる。
私とゆうきはテントのすぐ外に椅子を出して、私はお酒、ゆうきは普段飲ましてもらえないという炭酸飲料を飲みながらぽつりぽつりと話をした。

ゆうきが運動会でリレーの選手に選ばれたこと、でもサッカーは友達の方がうまくて悔しいこと、好きな女の子がいることなどいろいろ話してくれた。
テントを一緒に張るということをしたので、お互いの心が近づいた。
そしてさらに、もう今は星空を見ながら語り合うことしかすることがない。

ゆうきは携帯ゲームもタブレット端末も家に置いてきていた。
私もこんな時にスマホを触るなんて無粋なことはしようとも思わない。

普段は機械に向いている目も、キャンプの時ばかりは一緒に来ている人に向けられる。
私とゆうきの二人が向き合わざるを得ないという状況が作られたのもキャンプの醍醐味なのかなと、この時に気が付いた。



インドア派の私としては、なぜわざわざ周りの人はキャンプに行って不便な思いをしたがるのかと不思議に思っていた。
普段の便利なくらしを放棄して、なぜ野外に泊まらなければいけないのかと。

しかし私は今回、キャンプをしてみて普段の密度以上で人と向き合えるから、多くの人たちがキャンプをするのかなと思った。

キャンプって協力しなければできないし、普段は向き合う時間や余裕がない人ともゆっくり膝を合わせて、語り合うことができる。


そんなふうにゆうきとのんびり話をしていると、考えもしなかったサプライズがあった。

隣のテントの人が焚き木に誘ってくれたのだ。

テントを張っている時にゆうきが金槌のような物を借りた人だ。

周りの人たちは焚き火やバーベキューをする中で、私たちがただ座って飲んでいるだけというのを不憫に思ったのだろう。

そもそも、私たち以外のキャンプをしている周りの人たちは、私とゆうきのテントの3倍くらいの大きさの物を張っている。
私とゆうきのテントは小さすぎて異質なくらいだ。キャンプ道具もほとんどなく、私とゆうきのグループだけキャンプ慣れしてないことは明白である。

だからきっと私たちにもキャンプの楽しさを味わえるようにと焚き火に誘ってくれたのだと思う。その親切な人たちは、お父さん、お母さん、小五の娘、小一の息子という4人家族であった。
キャンプにはよく行くそうで、子どもたちもキャンプが大好きとのことであった。

焚き火は不思議な感じであった。ただ木が燃えているだけなのに、なんだかワクワクする感覚がする。火が起こると安心するという、祖先の記憶が残っているからだろうか。なんともいえない高揚感と陶酔感すらあった。

ゆうきを含めた子どもたちは、串にマシュマロを刺して焼いて食べている。
キャンプ好き一家の子どもたちに教えてもらいながら、ゆうきも焦がさずに焼けるようになっていた。

ゆうきはマシュマロをたくさん焼いて食べていたので、私が申し訳ないと恐縮すると「柿の種のお礼です」とキャンプ好き一家のお父さんは笑いながら言ってくれた。

こんな素敵な出会いがあるのもキャンプの楽しみなのだとしみじみ実感ができた。

焚き火が終わり、狭いテントで身体を寄せ合って寝袋に入るとあっという間に眠ってしまい、気が付けば朝だった。
私は眠りが異常に浅いので、家の布団だと1時間おきに目が覚めてしまう。
こんな熟睡できたのも久しぶりで、こんなところにもキャンプの力を感じた。

翌朝、テントを張る時と同様に、ゆうきと二人で協力してテントを片付けた。
テントを張る時よりは手際良くできて、コンビの力も上がったような気がして嬉しかった。

帰りの車内ではゆうきは車酔いすることなく、二人でキャンプについて楽しく会話ができた。行きのなんだか気まずい車内とは大違いである。
その会話の中でゆうきが「また一緒に二人でキャンプしようね」とさらっと言ってくれたのがなんとも嬉しかった。二人の距離が縮まったと思ったのは私だけではないと実感できたから。

インドア派だと勝手に自分のことを決めつけていた私だが、今回のことでキャンプの魅力を知り、近い将来にはアウトドア派と名乗っている未来が想像できた。

キャンプって素晴らしい。

キャンプという日常から離れた経験は、私とゆうきのような距離がある人間関係を近づけていく。

未知な物事の良さに気がつくっていくつになっても嬉しいものである。
私はゆうきのおかげでキャンプの素晴らしさが分かった。
これからも、まだ見ぬ素晴らしい物事や素敵な人とたくさん出会う人生でありたい。

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