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自由研究よ、自由であれ

【要旨】これは「小学生の頃にこういう風に教わってたら、わたしも自由研究を楽しくやれてただろうな」という気持ちで書いた自由研究ハウツーです。が、ややこしい文面なので、どちらかといえば教え方に困っている大人向けです。

【注釈・免責】ずっと概念や概要の話をしているため具体的な作例は一切ありませんし、これを読んでも「半日で終わった!」などというチートができるようにはなれません。
また、書いている人間は、工学修士は取ったけど教育系の学問はひとつも学んでいない素人です。諸々の間違いも含まれると思いますが、個人のいち意見としてスルー、もしくは優しく指摘していただけると幸いです。

はじめに

世の子どもたちは夏休みです、夏休みといえば宿題です。その中でも作文課題と肩を並べる厄介者こと自由研究、皆様いかがお過ごしでしたでしょうか。わたしはめちゃくちゃ嫌いでした。

そんな奴が10年後には大学院の実験設備使い放題という環境で嬉しがって遊び倒したので人生何があるのか分かんないんですけど、先日、当時の自分は自由研究の何が嫌いだったのかを改めて振り返る機会がありました。そこで気がついたのは、過去のわたしが自由研究大嫌いマンになった理由は研究という概念や進め方がさっぱり分からなかったこと、「自由研究って言うけど自由じゃないじゃん!」と怒っていたことの2点にあると。

というわけで、当時のわたしが躓いていた経験をもとに、この度、小学生の頃のわたしに向けた自由研究の手引き書を作りました。誰かひとりでも自由研究に迷える羊さんを救えたらいいなという祈りを込めつつ、必要そうなところに宣伝したいけどどこにも縁がひとつもないので、誰かよろしくお願いします。

身も蓋もない願いを叫んでレッツゴー。

①研究テーマこそ自由であれ

世の中には自由研究の作例がたくさん流通してると思うんですけど、自由研究に対して「面倒くさい」「やりたくない」と最初から後ろ向きな気持ちを抱いている人は、あれを見たところで萎縮してしまうだけだと思います。その理由は、すごく真面目に授業の進行度とリンクさせたものやThe・研究の手本みたいなテーマを出してくるし、手順も親切心ゆえに細かく定まっているから。
ここからはわたしの体験談ですが、例に出てくるものがことごとく学習とリンクさせられたり理科っぽい真面目なものばかりだったり、手順が細かく決まってたりすると、それを見ている心理としては「学校で習ったことを生かせないものや理科から外れた不真面目なものは許されないし、環境まで揃えなきゃ研究はできない」という【プレッシャー&逃げる理由】を与えられたような感覚になり、そこに不自由も感じて「自由研究ってぜんぜん自由じゃないじゃん!」と怒って、ものすごくやる気を削がれました。

わたしは今も昔も言葉の定義と実際の運用における語意の差に怒っていますね、ウケる

けど、自由研究の作例から飛び出て「研究」というものを見てみると(ちょうどいいのはイグノーベル賞の受賞一覧だと思う)、「そんなことを大真面目に研究したの?」みたいな研究テーマはけっこうたくさん出てきます。そして彼らがそれを研究しようと思った理由はひとえに「知りたいから」「好きだから」、それだけだったことでしょう。

研究を進める上でガソリンになるのは、この「知りたいから」「好きだから」という気持ちだけ。

だから、テーマを選ぶときは「学校の宿題だから」っていう体裁はかなぐり捨てて、心から楽しいと思える、知りたいなと思えることを選んでほしい。法律及び公序良俗に反する内容は調査段階で心身の成長に支障をきたす恐れがあるので、どんなことをやりたいと思っているかは周りの大人たちに相談してほしいし、大人たちもヤバそうなら止めてほしいけど、そうじゃないならどんなことを言い出しても大人は見守ってあげてほしい。研究は理科分野だけでしか出来ないものではないよ、何を研究してもいいんだよ。『博士ちゃん』(※テレ朝系列土曜18:56~)を見てみなよ、本当にいろんな博士ちゃんがいるでしょう?

なお、当時のわたし(小4〜小6)の興味の範囲だとこの辺になると思います。

・本や街中やテレビテロップで見る文字たちのフォントの名前を調べて体系化
・ポケモンに出てくるえいようドリンクの効果と同名で実在する薬の効果の比較

親が知識人だとゲームにいらんツッコミが入る


②研究のゴールと研究の基本サイクル

過去のわたしはこれが分からなくて躓きました。

研究の基本サイクルとは「疑問を持つ→調査する→知らなかったことを見つける」こと、そして研究のゴールとは疑問がなくなり自分が納得するまで、このサイクルを何周も回すことだと思います。

世の中には、『自由研究の進め方』というコンテンツなら今も昔も山ほどあります。例えばこちらとか、完全に対象年齢もそこで書かれているプロのお仕事。さすが教育産業の重鎮(勝手に言ってる)。

ただこの手のマニュアル、研究の基本サイクル(疑問を持つ→調査する→知らなかったことを知る)の具体的な手順の種類とやり方は詳細に書かれているのだけど、基本サイクルそのものの解説や研究のゴールの説明はないんですよ。それを知らないまま手順だけを解説されても、(帰納的に本質を見つけられる高い理解力のある子どもは別として)結局「研究」が何かよく分からないままになってしまう。
研究が何なのかが分からなければ、取り組んだところで「わたしは今何をやろうとして、どこに向かっているの?」と虚無の感情になるだけで、とても前向きにはやれません。ゴール設定は大事です。

大事なことなので2回言います。研究とは「疑問を持つ→調査する→知らなかったことを知る」を納得するまで繰り返すことです。しんどいけど、他人に「ここはなんでこうなの?」と聞かれた時にすべて答えられるようになるまで繰り返すのが理想です。ちなみに、調査で疑問が解明できなくても、「そこは今回こういう方法で調べたけどわからなかった」と答えられれば「答えられている」のでOK判定。

また、世の中の自由研究マニュアルコンテンツは、基本サイクルやゴールを知っている人にとっては【ハウツーが余すところなく解説されたとても良いマニュアル】なので、基礎を覚えた後はガンガン頼っていきましょう。

マニュアルはもう一度引用しておこう。さすがプロのお仕事です。


③研究の質は過程で決まる

研究の質は「何を研究するか」よりも「研究をどう進め、どこまで掘り下げていくか」にあると思います。それは自由研究という宿題でも同じだと思います(わたしは教職資格を持っていないのでそう思いますとしか言えませんが)。

研究は基本的に、前述したサイクルを何周できるかが良し悪しを分けます。良い研究だと評価されるものは、とにかくめちゃくちゃサイクルを回して、「そんなことまで気にする?」と思うような細かい疑問点まで潰しているから評価されるのです。だからできる範囲で良いので、調べ抜くこと、考え抜くことを目指してください。それを経て出来たものは、テーマがどんなものであろうと、きっと良いものになってくれます。

『①研究テーマこそ自由であれ』と言った理由もこの辺と絡んできていて、
・選んだテーマそのものはあなたの研究の評価には関係しません
・知りたいと思えていることには自然と観察眼が鋭くなる
という面があるからです。人間は何歳であっても、興味を持っていることにはいくらでも向き合えるし、細かいところまでよく気が付く生物だと思います。


④発表までが研究だ

自由研究という宿題でつくる提出物は、この「研究の発表」にあたります。ですので、研究は発表するものである、というところまでを最初から計画に入れて自由研究を考え始めると良いと思います。そうすれば、自分の研究を効果的に伝えるにはどんな形のものを作れば良いのかも見通すことができますし、「何でどう伝えるか」の感覚や実際の作製技術については、きっと子どもたちの方が高い能力を有しているでしょうから、これを計画に含むことで「動画を作りたいから動画で記録・発表することに向いた研究を考える」みたいな道標が生まれる可能性もあります。(学校で指定される提出形態にもよりますが)

なお、研究に基本のサイクルがあるように、発表にもひな型があります。計画を立てるときはこれに沿ってやると、研究を進めるのも発表を作るのもすごく楽になるのでおススメです。

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特に大事なのが、【目的】をしっかり作ること。これができたらもう勝ちです。自由研究の6割は【目的】で出来ていると言っていい。


⑤自由研究のため「だけ」に何かを始める必要はない

もし今「自由研究のために」何かを始めようとしている方がいたら、一旦立ち止まってひとつ自分に問いかけてください。

それ、自由研究(宿題)関係なくても興味があってやりたいと思うことですか?

それで頷けるのなら良いんですけど、頷けないならやめた方がベターです。なぜかというと、頷けない場合は【目的】を考えるのがしんどいことが多いから。さらに研究結果によっては「自由研究」のみならず、選ばれたコンテンツごと嫌いになる確率が高いので、誰も幸せになれません。

テーマに困っているのなら、すでに持っている興味を掘り下げる方向で進める方が幸せになれる確率が高いです。やる気出ない!ネタもねえ!と困っている方はどうかそっち方向でご検討いただけると幸いです。


⑥自分自身を見つめて考え抜く訓練だと思う

とは言ってもすでに興味がある分野では研究ができるとは思えない、という声もあるでしょう。ゲームをやるのが好きだけどゲームで研究ってなんぞや、みたいな。

解決策はただ一つ、自分の興味のあることについて、疑問点が浮かぶまでひたすら考えて観察して考えてください。恋してんのか?レベルでそればっかり考えてください。それは比較的時間がある長期休暇だからこそ取り組めることだし、自由研究を夏休みの宿題に出される理由はこの作業の訓練をすることにあるとも思うので。

例えば『ゲームをやるのが好き』でも、その『好き』を細かく見ていくと『効率的に最短クリアをするのが好き』なのか、『RPGなどの物語が好き』なのか、『強い敵を倒すことに達成感を抱くから好き』なのか、『地道にレベリングするのが好き』なのかなど、いろいろな『好き』が見つかると思います。

その中でも、たとえば『効率的に最短クリアをするのが好き』の方向からゲームを研究した人はいわゆるRTA走者たちです。彼らは「効率を最大限よくするにはどうすればいいのか」を徹底的に検証していますし、タイム計測しながら走るのは一種の自由研究の発表です。
また『物語が好き』なら、自分は傾向としてどんな物語が好きか、どうしてそれが好きかを分析して一筆作文を書けばそれも自由研究の発表です。それを踏まえてオリジナルの話考えるのもいいと思う(創作厨)。

そうやって、自分について細かく考える訓練だと思ってやってみてください。その力は後の人生で絶対に役に立ちます。


⑦日常生活と「好き」からテーマを見つけた例

ここまで長々と「自由でいい&特殊なことはせんでいい」と書いてますが、それでも不安になると思うので、『安心してください、どんなことも研究しようと思えば自由研究になります!』という具体例をあげときます。(理科分野から逸脱できていないのはごめんなさい)

わたしは料理が人生の一部で、【自分で作って食べること】が呼吸するのと同じくらい大事で興味関心も向いている自覚があります。そんなわたしは院生の頃、ある授業で自由研究に近しいことを課題に出されたため【煮物における大根の調理時間と味と色の染み込み具合を調べ、染み込み具合の計算シミュレーション結果と比較する】というテーマでめちゃくちゃ遊び倒しました。発表の一部を抜き出して置いておきますが、同期や先生にめちゃウケたので今でも嬉しい思い出です。

ちなみにこの発表の【目的】は、『味と色が中心まで完璧に染み込んだ大根の煮物を安定して作るための条件を計算から求める』『計算結果がどれくらい信用できるのか、実際に煮物を作って確かめる』のふたつです。目的はいくつ持っても良いのです。

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これは真面目にやらなきゃとか授業の一環だからとかの建前を最初から諦めて「自分が楽しいと思う分野で本気で頭使う」という方向で考えました。それでも、「大根の煮物だ!」と閃くまでに1週間と90分を要しています。

運命ってのは突然降って湧いてくるのではなく、とにかく考えてのたうち回って苦しんだ先にやっと見つかるものなのです

でも、ひとたびテーマが決まってしまえば発表作るのも実験するのも楽しい以外の気持ちがなくて、「もう面倒くさいな〜やだな〜」なんて一度も思わず、3日で実験と計算と発表資料作りをすべてやり遂げました。前述した『目的が決まれば自由研究の6割は出来た』というのはこういうことで、目的があれば人は勝手に猛スピードで走ります。

それからもう一つ、卒業後に完全に個人の趣味でやったマカロンについての研究(の途中報告)も思い出したので載せておきます。

日々の試行錯誤も研究発表のひな型に載せれば自由研究の発表だよ。
ね、自由でしょ。


おわりに

長く書きましたが、自由研究を楽しくやる上でキーになる点はざっくり言えば

1.「宿題だから仕方なく」以外の【目的】を持てたら勝ち
2.「テーマが何なのか」より「どう取り組むか」が肝だと知っておく

かと思います。さらにこれを知っておけば、休み明けに発表を見せ合う場でも変に自己肯定感が拗れたり、劣等感を植え付けられたりすることも減る気がするので精神衛生上もいいんじゃないでしょうか、知らんけど。

子どもに対するお金や時間の融通が利きやすい家庭だと、自由研究のためにどこか博物館行きました(提出物はそこで貰ったパンフの完コピ)、親が全面協力してすごい提出物を作りました、みたいなことが可能で、わたしの小学生時代もクラスメイトにそういう方がいたんですけど、「テーマが何なのか」と「提出物のぱっと見の豪華さ」での評価軸しか知らなかったわたしは毎年休み明けに「あんなすごいの持ってこられたら、自分の提出物なんかクソゴミだ」って勝手に落ち込んでました。今思えば、それも自由研究嫌いだった理由かもしれないです。


すべての自由研究よ、自由であれ。






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