虚構日記「予感」
その子はある日、ランチに食堂でオムライスを食べた。
貼り付けたようなプレーンな黄色に存分にかけられたトマトケチャップ。
新卒1年目を実家で過ごしている彼女は、仕事からまっすぐ家に帰った。
待っていたのは、オムライスだった。
夕食にオムライスが出ることはその家ではたいへん珍しいことで、ましてやお昼にオムライスを食べた日にそんなことが起こるとは。
彼女はオムライスが大好物なため嬉しいハプニングだったと振り返る。
それでね、と彼女はわたしに言う。
そのことを彼氏に伝えたのね。
彼氏もオムライス好きだから、「えー!奇跡だ」って反応してくれて。
こんなことを報告できる相手がいることって、幸せだなってその時に思ったんだ。
わたしの知らない誰かと生活を分けっこしている彼女を見ていたら、なんだか色んなことが腑に落ちた。
*
聴けなくなった曲がある。
その曲を聴くと思い出してしまう苦みがあるから、ライブにも行けなくなった。
それでも、また聴けるようになるかもしれないという予感が走った。
それはオムライスによって。
それはあるいは、ハイボール?
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