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CM企画と完パケの乖離

広告制作雑感 その2
 前回、中学生の頃に見たポスターの件を書いたが、他にも「このアイデアを使ってみたい」と温めていた、印象的なシーンがあった。
 ある映画のエンディングで、主人公がエレベーターに乗って移動していた。そのエレベーターは鉄製のケージで囲われ、各フロアからエレベーターシャフトとゴンドラが丸見えといった古いタイプのものだった。
 映画ではゴンドラの中にライトが仕込んであって、ゴンドラが下降するのに伴いゲージの影が形を変えながらフロアの天井や壁に映り、ゴンドラと共に移動していくといった象徴的で美しいシーンだった。

 このシーンがとても気に入っていたので、ある企業のTVCMで人物を商品に置き換えて、企画コンテ(CMの全体観が分かり、大まかなシーンをコマ割りしたもの)を制作しプレゼンした(残念ながらプレゼンは上司が行ったが)。
 この時は幸い、クライアントから「ピンと来ないな」とキラーフレーズを言われる事もなく、無事承認されTV放映に至った。
 しかし、企画を行いプレゼン用の企画コンテを描いた身としては、仕上がったTVCMの完パケ(完成パッケージ:実際に放映される最終完成形)には少なからず不満が残った。それは、映画のそのシーンで一番印象的だった「光と影」を使った演出がほとんど成されず、単に「エレベーターを使った」だけになっていたからだ。

 上記以外にも何社かTVCMを企画制作したが、CMのような映像となると通常は監督を立て、基本的に監督が主導する。そこで監督の演出次第では、企画から変容してしまう事もあった。
 また芸能人を起用した場合には、所属事務所から監督を指定されたり、演技内容を指摘され変更せざるを得ない事もあったりと、なおさら企画から乖離する傾向があった。
 TVCMを企画制作するようになった当初はいちいち口を出していたのだが、次第に割切り監督にお任せるようになっていった。この辺りの自己主張の無さが、私が三流クリエイターである所以(ゆえん)なのだと思う。
(つづく)

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