【第7章】奈落の底、掃溜の山 (20/23)【解錠】
【傷痕】←
シルヴィアの意識は、薄暗く、湿って、かび臭い牢獄のなかにいた。四肢は鎖につながれて、自由を制限されている。
拘束された獣人の目の前、牢屋の中央には鍵が転がっている。腕と脚をつなぎ止める鎖をはずすための鍵だ。
身じろぎするたびに、じゃらりと音を立てる鎖は長く、ある程度の身動きはとれたが、あと少しのところで鍵にまでは手を届かない。
幼いころのシルヴィアは、この鍵をつかみ取ろうと必死にもがいた。成長するに連れ、抵抗は弱くなり、いまや、手を伸ばそうとすら思わなくなった。
「ここが、あなたの内的世界<インナーパラダイム>ね」
まったく予期していない第三者の声が、石壁に響く。シルヴィアは、思わず顔をあげ、鉄格子の向こう側に目を向ける。
「ずいぶんとガッチガチに心を閉ざしているから、ここまで潜りこむのに苦労したのだわ。大変なことは、立て続けに起こるものね」
闇に溶けこむような、紫色のゴシックロリータドレスに身を包んだ女が、鉄格子を挟んで立っている。右手には、複数の鍵を束た鉄製のリングが握られていた。
女は、鍵の一つを使って、鉄格子の扉を開くと、シルヴィアの牢のなかに踏み入ってくる。
造作もなく床に転がった鍵を拾い上げると、鎖につながれた獣人娘の間合いに近づいてくる。
「グルルウウゥゥ……」
シルヴィアは、思わず獣のうめき声をもらす。ゴシックロリータの女は、動じる様子もなく、狼耳の娘のすぐ前に立つ。
「暴れない、暴れない。すぐに終わるのだわ」
女は、シルヴィアの四肢を封じる枷に鍵を差しこみ、手早く解錠していく。
十数年に渡って自由を奪っていた鎖は、驚くほどあっさりと狼耳の娘の四肢から離れていった。
「はい、終わり。これで、あなたは自由なのだわ。シルヴィア」
ゴシックロリータドレスの女はそう言い残すと、手を振りながら、牢獄から出て行く。そこで、シルヴィアの意識は途絶えた。
→【忠犬】
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