190421パラダイムシフターnote用ヘッダ第11章2節

【第11章】青年は、草原を駆ける (2/4)【失墜】

【目次】

【狼藉】

「トカゲだけあって、おつむが足りないようだな……もう一度だけ言うぞ、と」

 硝煙を帯びた大口径の銃口が、巨龍の眉間に向けられる。

「おのれの言う旅人とやらに、おれは用がある。この村に立ち寄ったことはわかっている。そのあと、どこに向かったか。それを知りたい、と」

 詰問するラルフを、ドラゴンは苦々しく見下ろす。かまえられた大型拳銃の照準が、下にずれる。

『オぐぅ……ッ!!』

 銃声、爆発音、そして苦悶。巨龍の左手から、鮮血が飛び散る。

「ああ。すまないな、と」

 ラルフは、無感情に言った。

「指一本にするところ、加減を間違えて二本吹き飛ばしてしまった。どうにも拷問は苦手でな、と」

 王者であるはずのドラゴンの瞳に、おびえの色が混ざり始める。ラルフは、左右に一丁ずつ握りしめた特大口径拳銃をかかげて見せる。

「こいつの扱いに不慣れなのもある。『対龍拳銃<ミンチメーカー>』。おのれみたいなデカブツ相手のために用意した、『ドクター』の特注品なんだが……」

 ラルフは、自分よりもはるかに巨大な生物に対して、サディスティックな笑みを浮かべる。

「……どうやらオーバースペックだったようだな、と」

 ドラゴンは戦意を失い、無言で頭を垂れる。

「時間を節約しよう」

 ラルフはふたたび、銃口を巨龍に向ける。

「おれを乗せて、旅人とやらを追え」

『……断れば?』

「おのれの頭がミンチになる」

 巨龍は観念したかのように、その場に身を伏せる。ラルフは、警戒を解かず、銃口を向けたまま、ドラゴンの側面に回る。そして、龍の背によじ登る。

「いいぞ、飛べ」

 ラルフは、ドラゴンのたてがみにしがみつき、延髄に銃口を突きつける。巨龍は大きく翼をはばたかせ、直上へと浮揚する。

 そのまま、村のうえを旋回すると、太陽の沈む方向へすべるように飛翔する。

(豊かな次元世界<パラダイム>だな……と)

 ラルフは、ドラゴンが妙な動きをとらないよう注意を払いつつも、眼下の風景を見やる。村の周辺に広がる麦畑は、あっという間に後方へと流れ去った。

 かわりに、見渡すかぎりの大草原が広がる。ところどころに灌木の林が点在し、放牧していると思しき家畜たちが草を食んでいる。

 思えば、先ほどの村の連中も、質素ではあったが、貧しいというわけではなさそうだった。

(……本社の連中が、欲しがるわけだ)

 ラルフは、一人ごちる。眼下の風景と、はるか昔の故郷の記憶が、重なって見える。空から見れば、自分の故郷もこのように見えただろうか。

 ラルフの夢想は、数秒で中断される。地平線の手前に、小さな黒点が見えた。家畜でも、野生の獣でもない。

 騎馬だ。上に人が乗っている。草原を横切る川に沿って、走っている。

 ラルフは、さらに先へと視線を向ける。草原は、緩やかな盆地状の地形。川の先に、やや小さな湖がある。

「高度を下げろ。水場の付近で、やつの前に回り込め」

『……グぐぅ』

 ラルフの簡潔な命令に、ドラゴンは不承不承したがう。低空飛行に入り、騎馬の頭上を龍の巨体がかすめる。

 鞍にまたがる若い男と、ラルフの目があった。

 黒髪、蒼黒の瞳。現住民のような旅装に身を包んではいるが、この次元世界<パラダイム>の住人ではない。ターゲットだ。

「よし、よくやった……と」

 ラルフは、ドラゴンの後頭部に突きつけた銃の引き金を引く。轟音と共に肉片と鮮血が飛び散り、龍はバランスを失って落下する。

 屍体となったドラゴンは、失墜し、大地を鳴動させて、巨岩のように馬と乗り手の進路をふさぐ。

 ターゲットを乗せた馬が、混乱し、いななき声をあげる。騎乗していた青年は、馬を逃がし、自らは龍の屍に相対するよう地面に降り立つ。

【対峙】

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