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【Maximin HELLIO】フォンドボーにフランス料理の真髄をみる

今宵のディナーはドーヴィルのMaximin HELLIOへ。
ミシュラン1つ星。

三つあるコースのうち、真ん中の値段の「ノルマンディーの牧草地を歩く」を選ぶ。
六皿からなる構成。
ワインのペアリング(料理に合うワインを店が選んで注いでくれるサービス)をつける。
50ユーロ(6,500円)追加すれば黒トリュフがついてくるとのことだけど、要らない要らない。
そういう遊びは宝くじが当たったときにでも。

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まずは一皿目のアミューズ。
amuse-bouche、口を楽しませるもの。
日本では「食前のお楽しみ」と訳されることが多い。
「食前」の皿なので、皿の数にはカウントされない。
ニシンに甘いベリーのソース。
ふむ。よい感じ。

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二皿目もアミューズで、牛肉と浅利のスープ。
やや強めの塩味が心地よい。

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三皿目が前菜。ここからようやくコースが正式に始まる。
赤い背の魚に魚醤のような味がつけてある。
オレンジ色は人参。

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アヴォカドには柑橘系の酸っぱい泡がたっぷりかかっている。
これが四皿目。コースの二皿目か。まだまだ先は長い。

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次の皿には、鳥の巣みたいな藁に黒い物体が載せられている。
ん?
黒トリュフ??
頼んでないからね。一瞬焦る。

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黒いものはどうやら卵だったらしい。
左はシャンピニオン(マッシュルーム)をうすーく削ったもの。
真ん中はシャンピニオンのクリーム。
これが五皿目かな。
ここまでは、まあ、普通においしいという印象。

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六皿目(コース四皿目)に度肝を抜かれる。
フォアグラにフォンドボー(仔牛でつくるフランスの出汁)がたっぷりかかっていて、人参、大根とともにタピオカのような小さなパール状のものが入っている。
このフォンドボーがとてつもなくおいしい。
右にも左にもブレない、ど真ん中の味。
本日のハイライトだろう。
フォンドボーの量がとにかく多い。
フォアグラの味は薄まっていく。
それでもいいんだ。主役はフォンドボー。そういうことだ。

和食の出来栄えは間違いなく出汁で決まる。
大げさなことを言って嫌われるかもしれないが、和食ってほとんどの店がおいしくないと思っている。
東京でも、超高級店は知らないけれど、それなりに選んで行ってもまともなものを食べられる気がしない。
京都だって、おいしい和食に出会うのは、そんなに簡単ではない。
それぞれ(嫌いな言葉だ)の料理人が、それぞれに(ああ、嫌いだ)に考えて作っているのだろうけれど、ほとんどは出汁のバランスが悪いと思う。

京都の「祇園川上」は、京都でも屈指の正統派だ。
いつだったか、二代目亭主がANAの機内誌に連載していて、和食にはフレンチのような前菜とメインという概念はないけれど、あえて言うならメイン料理は刺身でも焼魚でもご飯でもなくお椀だと書いていた。
「ここに料理人の技術のすべてをつぎ込むのです」。
なるほどなと思った。

26京都 川上210322 (5)

ちなみにこちらが、とある日の川上のお椀。
完璧な出汁だけがもたらす純粋なおいしさ。
引き込まれるようにおいしい、というのではなく、いや、もちろんとってもおいしいのだけれど、なんというのだろうか、味覚のど真ん中を確信をもって射抜いてくる。

日本の出汁の「旨味」に、フランス人が惚れるのはわかる。
これこそ料理だと評価するのはわかる。
しかし、と思う。
フランス料理にはフランス料理の旨味があるのではないか。
中途半端に日本の「Umami」を真似している場合ではない。
フランス料理の魅力そのものを突き詰めるべきだろう。

Maximin Hellioのフォンドボーは本当においしい。
嬉しくなるほど、泣けるほど、おいしい。

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七皿目(コース五皿目)はこちら。
ニョッキに黒トリュフ。
だから黒トリュフ頼んでないってば。
(ちなみに、追加料金は請求されていなかった。)

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久しぶりにたくさんワインを飲んだので、酔いがまわってくる。
こちらが飲もうと飲むまいと、どんどん持ってくる。
じゃんじゃん注いでくれる。
その豊かさがフランス的で嬉しい。

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八皿目(コース六皿目)は仔牛。ポップコーン風の白いものはピリ辛い。
これがフレンチのメインなのだろう。
ポーションは小さめだけど、このあたりになるともう、食べるだけで必死。

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九皿目はチーズ。
もちろん、地元の名産ポンレヴェックを選ぶ。

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十皿目は、口直し。
大根や白菜のうえに、花やハーブが載っていて、バルサミコ酢がかかっている。
食べ過ぎ、飲み過ぎ、情報過多で、めまいがしてくる。

十一皿目には、写真はないが、サルミアッキ(リコリス)のシャーベット。

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十二。パッションフルーツのなんとか。

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十三。リンゴのスフレ。
リンゴの酸味が強く、ちょっと我に返る。

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十四。なんだったかもう忘れた。

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十五。なんか甘いやつ。

これでようやく完走。
もう、おいしいとか、おいしくないとか、そういう世界ではない。
とにかくお腹いっぱい。

三食分くらい食べたような感覚だ。
しばらくフルコース料理はやめておこう。
こんなことを続けていたら、自分の胃がフォアグラみたいになってしまうだろう。
こんなお腹では、「牧草地を歩く」なんてとてもできないぞ。


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