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創刊の秋も 中原道夫句集『九竅』を読む(10)

「銀化」主宰・中原道夫の最新句集『九竅』(2023年9月発行)を毎月一句ずつ、24回に亘って鑑賞していきます。今回はその第10回です。

創刊の秋も暑しと記憶せり
            中原 道夫

中原道夫句集『九竅』所収

 いま手許に『銀化』創刊0号がある。本格的な創刊となる10月号を目前に控えた1998年8月号だ。その中の「銀化集」の扉ページには、発足当時の銀化連衆207名の名が円形に凝集する形で記載され、徒ならぬ熱気を孕んでいる。
 創刊当時の結社の状況というものを、もちろん私は知らない。しかし、この連判状ともいうべき一ページが、草創期の銀化に沸沸と胎動するマグマの熱量を雄弁に物語っている。

 昨年10月に東京・市ヶ谷で《銀化創刊25周年/300号記念大会》が開催された。これまでも節目節目に催されてきた記念大会だが、入会5年未満の私にとっては、これが初参加となる大会だった。新型コロナウイルスの感染リスクも顧みず参加した人数はけっして多いとは言えなかったが、むしろそのリスクを押して参加された会員諸氏の熱い俳句愛とでもいうべきものを感じた大会だった。
 大会翌日に予定されていた谷根千吟行は、折からの大雨のため急遽予定を変更。有志による上野周辺散策組と、屋内残留組による席題句会とに分かれることとなった。残留組だった私は、文字どおりバケツをひっくり返したような土砂降りの中を意気揚揚と吟行へ繰り出していく先輩方の後ろ姿に、これまた熱い俳句愛を見た思いがした。

 あれから一年。もはや温暖化を通り越し、沸騰化・灼熱化ともいうべき地球の異状は留まるところを知らない。別けても近年の海水温の上昇や想像を超えた水害ステージは、異常気象という言葉さえをも生ぬるく、陳腐に感じさせる。
「創刊の秋」つまりは1998年の秋も暑かったと作者は言う。そして、若き銀化もまた熱き火の玉だったと。創刊から26年を経た今日、会員の平均年齢は確実に高齢化している。しかし、わが結社は相変わらず熱い。
 太陽はやがて白色矮星となるが、その表面温度は太陽の20倍にもなるという。熱き『銀化』は今秋、創刊27年目へと突入する。(了)

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