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空區地車の力学その85.宮入りで空區地車にGoProが付く

今年は若い新人が多く参加していたので、宮入りが上手くできるか、宮入りを待つ国道2号線の手前で私は痛く心配していた。
なにせ、空區の宮入りは私の知らない遠い昔から「住吉一、美しい」と言われ続けており、いまだに生きた伝説として引き継がれている。

間もなく完成予定の「東灘だんじりミュージアム」

今年は本住吉神社の西側に「東灘だんじりミュージアム」が完成するので、館内で上映される記録映像の制作が粛々と行なわれている。
そのワンシーンとして宮入りの美しい空區地車にはGoProと呼ばれる小型カメラが取付けられていた。
GoProは録画機能もついた高画質の小型カメラで、耐震装置や防水機能をはじめ、手持ちのスマホで撮影状態を確認できる優れモノ。しかも7〜10万円も出せば買える。ワイドレンズの単玉で、動物の生態記録ドキュメンタリーには必須のアイテムだ。
このGoProを空區地車に取付け、宮入りでクルクル回る地車目線の映像を撮ろうという目論見だ。おそらく観客の歓喜が360度で撮影できるはず。
回る地車のロングショットに主観のGoPro映像が挿入された作品はさぞ見ものだろうと思う。

しか~し、
曳き手にとっては邪魔モノの極み。

というのもGoProの画角内に曳き手が被ると狙い通りの歓喜映像が撮れないからだ。宮入り前に、あらかじめ”かき棒”に貼られた白テープを指差し、「ここからここまでは入らないように」と担当者から説明。
GoProはワイドレンズなのでどこにでもピントが合うのだが、その分撮影される範囲が広くなる。立ち入り禁止の白のテープの範囲が広すぎるのだ。これだけ広い立ち入り禁止区域があるとなると曳き手のパワーが半減されてしまう。

そもそもカメラ位置が悪い。撮影者がチェックがしやすいように勾欄にGoProを取付けたのだ。これでは、”かき棒”に曳き手がつけない。完全にGoProに被ってしまう。
曳き手がいるから地車は回る。
しかし白テープで示されたGoProの画角に入らずして回せるのか?
この相反した不条理に、宮入り時、左前横をポジションする私は悩むのである。
「もし、カメラ前に被ったらリテイクはあるのか?」
「来年やな」とギャグを飛ばす地車サイドに位置する若中。

かくいう私は業界人だ。
きょうび再撮なんて予算はない。
もし、GoProに曳き手が被って観客が写っていなければ編集スタジオで監督は「コイツラみんなシバク!」と叫ぶことになる。
編集マン「監督どうしますか?カットでいいですよね?」
プロデューサー「誰も覚えてないやろ、カットしよ」
AD「そりゃ、ヤバいスよ。あんなにお願いしてボツでは・・・」
監督「そりゃ、お前の顔が立たんわなぁ」
AD「Pから謝ってくださいよ」
プロデューサー「いやや。お前の顔が立つ、立たんはこの際除外!任すわ」
ということで、謝罪はすべてADにぶち投げるのが業界の常なのだ。

という私も業界人なのでAD君の悲劇は理解しつつも、GoProの画角を気にかけつつも、カラダは「知らんし」と言っている。
鳴り物が「ソーラ」になると
「えぃ、ままよ。知らんがな」と心のつぶやきと共に宮入りに突入した。

ところが私の最大の心配の種であった「新人が多く上手く地車は回るだろうか」は、見事に裏切られた。
笑止、笑止、笑止千万。
実にスムーズに回っているではないか。規定時間内に地車を落とすこともなく見事に回しきった。しかも、いつもより三回転ほど余分に地球を回った気分だ。
その時、頭上から視線を感じた。ふと見上げると目の前にGoPro。
「ヤバい」とは思ったが手遅れだ。リテイクが脳裏をよぎる。
「お前も地車が好やなぁ」と、GoProは呆れたように見下ろしている。
だが、若中も私も、当事者のGoProでさえも笑顔だった。
「知らんがな」と心のつぶやき。。。

納車も見事に決まり狂喜乱舞