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空區地車の力学その66.合図は一人で正確に!

高速道路の工事現場で活躍する大型クレーン。そのアームに目を凝らすと「合図は一人で正確に!」という標語が記されています。

アームには「合図は一人で正確に」という標語が記されている

これほどのクレーンが吊るものは相当大きな荷になるので、安全のために数人の監視者が付きます。しかしながらクレーンを上げたり下げさり回す合図は一人で行なわないとオペレーターは困惑します。場合によっては大惨事にもなります。よって合図は一人が責任を持って行なわなければならないと標語になっているのです。 

日本三大祭に数えられているお祭りの一つが日枝神社の「山王祭」。
この山王祭には明治22年まで屋台(=地車)があり、その様子を見た文人の蜀山人(しょくざんじん)は「船頭(せんどう)多くして船山に登る(ふね、やまにのぼる)」と揶揄しています。
「指揮者が多すぎて屋台が山王の山に登る」という意味で、以降「方針の統一がはかれず、物事がとんでもない方向にそれてしまうこと」のたとえとなったほどです。

写真は富山の高山祭の屋台。三王祭の屋台は明治22年を最後に引き出されることは無くなった

地車も合図を出す人が多過ぎて、てんでに指示を出してしまうと事故につながります。
私も恥ずかしながら地車を曳くとアドレナリンが吹き出し、自分の都合で「飛ばせ、飛ばせ」(地車を全速で飛ばす時の掛け声)と声をかけることがあり、後々考えると準備不足の曳き手への合図だったとヒヤリということもあります。

合図出しに幅を利かすホイッスル

近年は、祭りにホイッスルを使うようになり、あちこちからホイッスルの音が聞こえるようになり曳き手としてはどう動けばよいのかわからない時が多々あります。確かにホイッスルが吹かれれば注意喚起ができ、曳き手は一時的に力を緩めるのですが、それは粋とは程遠い地車の姿ではないかと感じています。
集中力を持って、2手も3手も先に事前対応するのが曳き手の粋であり、ホイッスルが吹かれてから対応するのでは2手も3手も後手になり、粋な対応ではなく何よりも安全にはつながらないと思うのです。

ちなみに「船頭多くして船山に上る」を英語では、「Too many cooks spoil the broth.(コックが多すぎるとスープがだめになる)」。中国語では、「木匠多、蓋歪房(大工多くして歪んだ家が建つ)」が当たります。

「ロミンガーの法則(7:2:1の法則)」では、人の成長に必要な要素について、経験が7割、他者からの助言が2割、研修・読書が1割といわれています。
つまり、成長につながる要素のほとんどは、経験から学ぶものであり、先輩の指導から得られる学びも多くあるのです。地車の曳き手もまた経験を積まなければ差し迫る危険を予測しにくいのかもしれませんが、先輩の助言に耳を傾ければさらに危険度は下がるのは間違いありません。
 
2018年頃からネット上で流行っている「現場猫」は、危険・不安全な状態のものに対して確認もせず「ヨシ!」と指示したり、前任者からの慣例に従い「ヨシ!」と出すブラックジョーク漫画です。
地車に「現場猫」が登場しないよう指揮者や各パートの責任者は「安全ヨシ!」を心しなければなりませんし、曳き手も指示待ちのないよう集中しなければなりません。