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2022年高校合格者1号

私はただの塾講師である。
とは言え、ヒトひとりが大人になる過程の、貴重な青年期を共に過ごせることは、何冊もの物語を読むよりも、深い共感と、共に成長する喜びに満ちている。

今週、今年度最初となる推薦入学による私立高校合格者がでた。
彼は(仮にA君とする)、中学1年生の時に塾へ入室。明るく、話の面白い野球少年で、塾ではいつも友達に囲まれていた。成績も中の上といった感じで、彼の前途は明るいと思われた。

そんなA君だったが、中学2年生になった頃から、暗い顔をしていることが多くなった。
尋ねると、
「部活に後輩が入ってきて、自分よりも野球が上手い奴らがいて。部活を辞めようか悩んでいる」と、重そうに口を開いた。

そのあたりから、次第にA君は学校も欠席がちになり、母親からも相談を受けたが、塾にも来たり来なかったりの日が続いた。部活はとっくに辞めていた。

母親の話だと、A君は生活時間帯がバラバラになっていて、朝、どんなに起こしても起きられない。起きている時間が異常に短くて、ほとんど一日中寝ている。朝、目が覚めている日は学校に行くが、それ以外は、学校の担任の先生がわざわざ迎えに来てくれても起きられない。面倒臭くて寝たふりをしているとかではなく、本当に深く眠ってしまっているような様子で、、、かと思うと、二日くらい寝ないでずっと起きていることもある。
とのことで、どう聞いても、睡眠障害のようなモノを引き起こしている様子だった。

起きている時間であれば、学校にも塾にも行く。塾にやってきた日は、本人も「なるべく来たいとは思っているのですが、、」と心底すまなそうに言い、来室中は集中して学習に取り組める。

母親へは、怠けているとかではなく、成長期に於ける心身の発達段階で何かトラブルがあるのかもしれない。と、病院への受診を勧め、母親も同意してくれたが、いざ母親が病院に行かせようとすると、本人が頑なに病院へは行くことを拒否した。
無理を強いてはいけないので、静かに見守ることにし、本人が安心して過ごせるよう、塾には来られる時に来てくれればいいとし、来室した際には取り組んだ課題が出来たことを誉めまくり、彼が好きな遊戯王カードの遊び方について、彼に教えて貰ったりと、A君が気持ちよく安心して過ごせるよう配慮した。

中3の夏過ぎまで、そんな状態が続いたが、受験が近付くにつれ、「やっぱり高校には行きたいです」と、一念発起し、不登校の生徒も受け入れてくれそうな高校見学などを行っているうちに、A君は徐々に塾への来室も増えてきた。受験までの期間は面接練習なども繰り返し行い、受験を経て、自ら掴み取った合格通知だった。

部活がきっかけで起きた、ちょっとしたつまずきだったが、今から思えば、
彼の優しい人柄は、多少自虐的な所もあり、自分を卑下することで周囲を和ませ、笑いに包まれていた様子から、体育会系部活動という先輩後輩の関係が厳しい社会で、彼は持ち前の自虐的な優しさでもって後輩に接してしまったのではないのだろうか?
それが野球の技量で後輩が先輩を越えた時に、後輩たちは、この人には、これくらいなら言っても許されるだろうと、A君に辛辣な言葉を投げたのではないだろうか?

後輩たちは、笑って受け流してくれると思っただろうし、A君もまた笑って受け流せない自分に、そして、大好きな野球で自信を喪失したことで、A君の心は根幹から折れてしまったのでは?と推察している。

高校合格を機に、「まだ時々、寝坊することもあるんですけど、中学校へはなるべく行くようにしようと思うんです。塾もまだしばらく通います。勉強で遅れている部分を補っておきたいので」と、A君は言っていた。
少しずつ自信を取り戻してくれたらと心から願っている。

まずは合格おめでとう!

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