日本「緑の党」の成立と衰退
日本における緑の党の成立―初戦敗退7500万円を失う
日本の「緑の党」は2012年7月に、環境政党の国際組織であるグローバルグリーンズに加盟する組織として結党された。世界ではヨーロッパやオーストラリアなどで緑の党は勢力を広げていた。日本でも福島原発事故以降、緑の党は支持者を急激に拡大した。そして結党翌年の2013年7月の参院選に10人の候補を擁立した。しかし政党得票数は0.86%しかなく惨敗。市民から集められたカンパ 7500万円を供託金と選挙運動資金ですべて失った。緑の党は壊滅的な打撃を受けた。
党内には10名もの候補を立てる強気の戦略に反対の声もあった。しかし、それが強行されて惨敗した。その裏に何があったのか。成立当時から2013年の参院選を経て現在に至るまでを振り、この党の病根を明らかにしよう。
足立力也氏の痴漢事件
緑の党は「みどりの未来」を母体として発足した。その「みどりの未来」の運営委員だった足立力也氏が、2011年の大晦日、痴漢容疑で逮捕されるという事件が起きた。足立氏は後に『緑の思想』という、緑の党のガイドブックとなる本を著しているように、緑の党の中心的な理論家であり、2004年には参院選に出馬した経歴もある活動家である。その人物が大晦日に飯塚市のスーパーで女児の尻を触った容疑で逮捕され、翌年1月12日に釈放されるまで拘留された。この事件は1月30日に嫌疑不十分で不起訴処分となるが、そもそも十分な証拠もないのになぜ13日も拘留されたのだろうか。
足立氏は主婦の誤認が元で逮捕されたと考えているようで、逮捕時の実名報道で人権を侵害されたという申し立てを報道各社やウィキペディア運営会社に対して行っている。足立氏としては抹消したい過去のようだ。
ここで思うことは、足立氏にも当時の幹部にも、公安警察に対する認識がほとんどないらしいことである。緑の党は批判者からしばしばスイカに例えられる。外は緑だが中身は赤い。しかも反原発を旗印にしている政党である。日本の公安組織がターゲットにしないはずはない。
公安警察
『週刊金曜日』(2019/5)が公安警察の闇という特集をしており、労組の破壊活動、新潟知事選での尾行や逮捕、原発反対者への圧力など不当な活動を取り上げている。また『公安警察スパイ養成所』(2000)では、公安警察官であった島袋修氏が地方の共産党幹部と接触して買収したり、時には錠前をあけて党の事務所に忍び込み書類を盗み見したことが語られている。警察でありながら非合法手段が平然と行われる。
最近では、森友事件にヒントを得たと思われる映画『新聞記者』の中で、内閣情報調査室所属のエリート官僚の主人公が、上司から官邸前抗議デモの写真を渡されて、デモ参加者の氏名を公安に調査させろと命じられるシーンがある。むろん内閣情報調査室に問えばそんなことはやっていない、作り話だと否定するだろう。
しかし、内閣情報調査室―公安調査庁―警視庁公安部は一体となって、反政府的な勢力の動向を監視し、反政府的動きを潰すように動いていることは、元関係者の証言や著作で明らかである。CIAとも繋がっている。
公安警察は、緑の党の設立準備を知るや情報収集に動いたものと考えられる。主要メンバーに対する尾行や張り込みが開始されただろう。そして、足立氏をターゲットとした。
破廉恥容疑で逮捕するのは、植草一秀氏の手鏡事件をひくまでもなく人格破壊を狙った公安警察の常套手段である。大晦日というのも正月を留置場で過ごす精神的なダメージを狙ってのものだろう。たとえ不起訴でも経歴に傷をつけるには十分である。
緑の党に次々と仕掛けられた裁判
緑の党は2014年以来、奇妙な裁判に悩まされた。党自体はもちろん運営委員長、共同代表、一般会員らが次々に訴えられたのだ。いずれの裁判も原告は、大阪在住の緑の党準会員中岡高史(仮名)である。
当時、党の会員掲示板に、2013年7月の参院選の失敗に対し、幹部の責任を問題にしようという書き込みがあった。選挙の事実上の責任者であり、共同代表であった長谷川羽衣子氏に対して名指しの批判が書き込まれていた。
すると、中岡がこの掲示板に『青緑の党―女性党首(HW)の不誠実と無責任』と題する小説を発表すると投稿したのである。HWというのは、長谷川羽衣子氏のイニシャルである。この投稿があって長谷川氏への責任追及の声は立ち消えになった。
党の執行部は協議し、中岡の掲示板利用を止めさせると共に、彼を除名しようとした。すると、それが権利の侵害であり名誉毀損だと主張して中岡は提訴したのである。党や掲示板の運営者のみならず、掲示板で中岡の発言を批判した一般の会員までも、相次いで訴えられた。
また、緑の党や幹部を誹謗する内容のチラシを作り、いつどこそこで撒くと通告する。慌ててかけつけて来た幹部らといざこざを起こす。それをビデオで撮影し、暴力を振るわれた、言論を封殺されたと主張して裁判を起こした。裁判は弁護士費用のみならず、被告となると精神的負担も大きい。裁判費用として緑の党は300万のカンパを募らねばならなかったし、訴えられた会員の中には嫌気がさし緑の党を辞めた人も多い。
じつは、中岡は大阪のK光高校の英語教師であったが、女生徒の盗撮を行ったとして罷免されていた。アマゾンやヤフオクで古本や古物などを売って僅かに稼いでいたが社会復帰は難しい状況だった。訴訟には知識も労力も費用も必要である。中岡が勝訴することはほとんど考えられない。実際この裁判は、3年かけ緑の党の全面勝訴に終わっている。しかも中岡は、書き込み事件の2ヶ月前に入会したばかりで、それまで緑の党に関わりがなかった。中岡に訴訟の動機が見いだせないのである。
中岡の背後には公安警察があり、彼に訴訟のアドバイスや資金提供をしていたと考えるのが妥当である。彼のような破廉恥行為で罷免になったような人物は、公安警察が手先として利用する格好のターゲットとなる。盗撮の腕があればなおさら集会などに侵入させてメンバーの顔写真を集めるなど利用できるわけである。
選挙の敗北とスパイの予言
2013年参院選惨敗の件に戻ろう。選挙直前、2チャンネル緑の党スレに次のような書き込みがある。
緑の党は権力のスパイが執行部に潜り込んでいる。(中略)
勇ましく主戦論を主張している者を疑え。(緑の党・みどりの未来スレ2013年6月5日)
緑の党には、新左翼をはじめ市民運動や政治活動の経験者が多い。それだけに政治的な臭覚が鋭い人が多いのであろう。党の運営に不自然さを感じた人がいた。
山田美智子氏の候補者辞退
参院選を戦う過程で、山田美智子氏の候補者辞退という事件があった。山田氏は芦屋市議2期を経て、兵庫県議となった政治家で、自然環境を守る運動を通じて支持を集めていた。他の候補者が政治経験のない素人候補者だったなかで、山田氏は目玉的な政治家と言ってよかった。
山田美智子氏は、4月17日に参院選立候補を表明したが、翌月5月20日に理由を明らかにしないまま立候補の取りやめを表明した。山田氏は後日次のように語っている。
党からあっちへ行ってくれ、こっちへ行ってくれと指示される。それで九州の離島に2日かけて行ったが、一人の支持者が近所の2、3人を集めてくれただけだった。こんなことをやっていてはとうてい選挙に勝てないから、党に自分の思うとおり動かせてくれと申し出たが、ダメだ、党の指示に従えと言われた。その党の方針や指示なるものが誰がどこで決めているのかも分からない。仕方なく立候補の辞退を選択した。
山田氏は一ヶ月の運動で300万円使ったという。それでも辞退して正解だったと言うのだ。選挙では、候補者は分刻みのスケジュールを立てて、一人でも多くの支援者に会うよう走り回るのが普通である。山田氏に対する緑の党の指示には不自然さがあった。
妊娠していた長谷川羽衣子代表
参院選当時の緑の党の代表(共同代表)は、次の4名だった。
長谷川羽衣子(NGO e-未来構想代表)
すぐろ奈緒(杉並区会議員)
高坂勝(NPO法人SOSA PROJECT代表)
中山均(新潟市議会議員)
この中で、長谷川羽衣子氏は、上智大学地球環境学研究科(修士・地球環境学)卒、福島原発事故をきっかけにNGO「e-みらい構想」を設立、代表を務め、2012年には脱原発デモ「バイバイ原発3.10京都」の呼びかけ人を務めている。学識でも行動力でも、34才という若さの点でも緑の党のリーダー的な存在だった。もちろん選挙にも立候補していた。
ところで、選挙当時7月の時点で彼女は初めての子供を身ごもっており妊娠5ヶ月であった。妊娠初期は女性にとって苦しい時期であり、母子の安全のためにも母体に負担のかかるような行動を控えるのが普通である。なぜこの時期に妊娠なのだろう。
お相手は関西学院大学の朴勝俊准教授である。長谷川氏が自分のNGOの講演会に招いたことから交際が始まったようだ。朴氏は、元京都産業大学講師で、2011年に関西学院大に移っている。朴氏は『原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算』(2003年)という論文を書いて注目を集めたことがある。原発黎明期の1960年に原子力産業会議が、原子炉の事故被害を試算し3.7兆円という額を出したが、その試算はただちに非公開とされた。それほど被害金額の問題は国家権力の側にとってセンシティブな問題である。国家権力にとって朴氏は慎重な対応を要する相手であり、特に福島原発事故後はそうだった。
長谷川=朴氏の結婚を素直には喜ばず、何かしらの疑いの目を向ける人がいた。参院選を戦うことは一年以上前から決まっていたはずなのであるから、選挙時期の妊娠は避けられたはずだという気持ちであろう。いずれにしろ、強硬派長谷川羽衣子氏の見解の形成に、伴侶である朴勝俊氏が影響を与えたであろうことは想像できる。
内閣情報調査室は、国政選挙の事前分析もやっており、その分析は確度が高くほとんど外したことがないという。政治情勢を事前に分析し、敵対する勢力潰しをふくめ、政府の方針が立てられる。緑の党をどのようにすれば潰せるかというような戦略の立案も彼らにとっては容易である。
内閣情報調査室にとって、大学教授を差配するくらいのことはたやすいらしい。今流行の疫病問題で言えば西浦博北大教授は、政府の見解を代弁するようになると京大教授(2020/8)に学期途中で急遽変わっている。同じく忽那賢志氏は国立感染症センターの職員から大阪大学教授(2021/7)に変わって、政府見解の代弁をしている。
緑の党の選挙体制と陰のルート
当時の緑の党の中で、選挙体制は次のようであった。
運営委員長:八木聡(大町市議会議員)
運営副委員長:井奥雅樹(元高砂市議会議員)
井奥雅樹は辻本清美の国会議員秘書を務めた後、高砂市議になった。しかし、2009年の衆院選で田中康夫の選対を務めた際、公選法違反(法定外文書の配布)に問われて公民権停止3年の処分を受け市議を辞職していた。そのため表だった行動は控えていたが、緑の党の中で国政に関わったことのある唯一の人物だったから、選挙を仕切るという点で党内で影響力が大きかった。八木氏は切れる人物とは思われておらず、上からの指示を流すだけで独自の影響力は弱い。ただ選挙後、結果の責任を追及しようという動きには反対の立場をとっている。当時、緑の党の中で次のようなルートが機能していたと考えることができる。ただ、朴勝俊氏の存在は一般の会員からは見えなかった。
朴勝俊―長谷川羽衣子―井奥雅樹
朴勝俊関西大学教授とMMT
朴勝俊教授はMMT論者で知られる。日本でMMTが知られるようになったのはNewsWeek日本版(2019/7)のMMT特集など2019年頃で、比較的新しい。
MMTは肯定派と否定派の溝が極めて大きい。口を極めて相手方を批判していると言ってもよい。今、ネット検索したところ、国枝繁樹中央大教授の批判が見つかった。「非常に怪しい理論」「理論とよべるような体をなしておらず、理論になっていないものを批判するのは大変」「数学モデルがあると、モデルの矛盾がわかるがMMTにはそれがない」。等々、けちょん、けちょんの批判である。
また、東洋経済ONLINEには、小幡績慶応大学大学院准教授の『日本では絶対に危険な「MMT」をやってはいけない』(MMTの「4つの誤り」と「3つの害悪」)という論文があり、「これは理論的に誤りであるうえに、現実に採用されれば、経済を破壊する『最も害悪の大きな理論』になる」と書いている。
一方、肯定派を見ると、藤井聡、中野剛志、三橋貴明などだが彼らは経済学が専門分野ではない。元々積極財政派の人が流行のMMTに飛びつき援用しているだけに見える。
『財政破綻論の誤り』(朴勝俊、シェイブテイル:共著)という本がある。ネット(note)に次のような記事がある。
「貨幣論研究者を自称するシェイブテイル(shavetail/a.k.a. 西武輝夫)なる医薬バイオ系の前期高齢者の男が、当noteからアイデアを盗用して書籍を出版していた疑いが判明したので、ここに証拠を揃えて告発する。」
セイブテルオ→シェイブテイルらしい。この人は他に2冊MMTの本を出版しているが、経済学とは無縁の人らしい。朴勝俊氏の本は盗用の容疑をかけられているこの人物との共著である。
この小論でMMTの正否を論じることはできない。ただ批判派が、この理論は害毒が大きいと述べていることには注意をむけておきたい。経済理論が単に経済を好転させえないという程度なら、アベノミクスをはじめよくある話で済むが、これが日本経済に壊滅的な打撃を与える可能性があるとなると用心した方がよいだろう。
では、なぜこのような理論が主張されるのか。ヴァーノン・コールマンはMMTはグレート・リセットやアジェンダ21を推進するために考え出された理論であるという。世界経済フォーラム(ダボス会議)に集まる人々は新しい世界を構想しており、そこでは通貨システムも新しいデジタル通貨制度になる。そのためには、各国の金融システムは一度破壊する必要があるというのである。
ただそこまでの想像はしなくても、次のようなことは考えてもよいのではないか。コロナ禍の2年間で世界のトップ10人の富豪の資産は2倍になったという。日本は2021年にコロナ対策として77兆円を使ったが、日本経済は少しも潤わなかった。日本が支出した金は、回り回ってどうやら世界の富豪の懐に収まっているらしいということである。
「このままでは国家財政は破綻する(矢野康治財務事務次官)」(文藝春秋2021/11)のように憂国の声もあるが、国が野放図に巨額の赤字財政支出を重ねる背後に、あるいはMMTの理論の後押しがあるかもしれない。
日本経済が破綻した後で、朴勝俊氏の役割が何であったのか分かっても手遅れである。危険性をはらむ理論が提唱されているということに注意を向けるべきである。
朴―井奥高砂市議
2009年に公選法違反に問われた井奥氏であるが、2014年に高砂市議に返り咲いている。同時に逮捕された井筒高雄(当時加古川市議)が容疑を否認し最後まで闘ったのに対し、井奥氏は早々と容疑を認め減刑を嘆願する方針をとったことに物足りなさを指摘する声もある。
緑の党の政策立案には、朴氏の影響があるとみてよいだろう。緑の党の総会や会議では、朴氏の作成したスライドを使って井奥氏(運営委員)がプレゼンを行っていることも目撃されている。別に政党や政治家が学者から影響を受けるのは悪いことではないが、どこの誰からどんな影響を受けているのか、ほとんどの会員が知らないとすれば問題だろう。
緑の党は近年、著しく会員を減らしていると聞く。特に、井奥氏の地元の兵庫の会員減は著しいらしい。
兵庫県三田市のオーガニックレストランの経営者で身障者施設の関係者でもある人物が、市議に立候補するにあたり兵庫緑の党に相談したが、入会させてもらえなかったという。後々の噂では、井奥氏より選挙オタクと見られたからだという。結局彼は立憲民主党から出馬した。
兵庫では井奥氏が組織を牛耳っており、兵庫緑の党の役員の中には、ほとんど活動歴のない幽霊役員がいて多数派を形成する一方、熱心な活動家にもかかわらず、運営からは実質排除されている人物もいるとのことである。
長谷川羽衣子氏は2020年7月に任期途中で家庭の事情を理由に緑の党共同代表を降りた。そして、今夏、レイワ新撰組から立候補するという。革新系に見える政党も票を切り回すための組織であったりすることもある。裏で策謀している人がいることを知るべきであろう。
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