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【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.6.2)

 最近、気分が小説づいており、結構なペースで読書をしています。昨年からの課題である飛鳥部勝則マラソンの進行速度がぐっと早まり、助かります。刊行順に読むとおもしろさが際立つ小説家って、偶にいますよね。その作者が書こうとしているもの、苦しんでいるものの変遷、進化、深化それ自体が一本の物語として立ち上がってくるような。例として挙げるならば、法月綸太郎、伊坂幸太郎、辻村深月あたりになるでしょうか。しかし、それらと比べても、飛鳥部作品は飛びぬけてその傾向が強いと思います。これ程明確に、時系列に沿って、「変わってゆく」作品群はそうそう見られない。既に読破済の友人に聞いたところによると、12作目の『堕天使拷問刑』が一連の流れの総決算にして最高傑作らしいので、ワクワクしながら読み進めています。

バラバの方を/飛鳥部勝則

 私設美術館のオープン・デイ、展示室に飾られたものは絵画を模して損壊された死体の山だった。異様な気迫が全編に満ちた、読んでいて圧される怪作です。酸鼻極まる事件現場は、正常だったはずの主人公の視界を一瞬にして塗り替え、彼を日常から切り離し、彼岸の向こう岸へと怪しく誘う。真実を解き明かすことでより大きな混沌の扉が開くタイプのミステリであり、解決編に迷妄の頂点が来るよう組み立てられているのですが、個人的に最も強くひかれたのは事件発生前までを描いた第一章でした。時系列と視点が激しくカットアップされ、光景が像を結ばないままに、登場人物たちの憎悪と殺意だけが強烈に濃縮されてゆく。越えてはいけない境界線を、気が付かないうちに越えてしまったという気配だけが具体性を伴わず、背筋を撫でる。それにしても、トクマ・ノベルスというレーベル、久しぶりに手に取りました。背徳的な魅力漂う講談社ノベルスとはまた違う、乾いた銃弾のような質感が素敵です。

金剛寺さんは面倒臭い(6巻)/とよ田みのる

 ウワーッ!(金剛寺さんは面倒臭いの新刊を読み、灰になる音) 巻を重ねるごとに読むドラッグとしての効力が上がってゆく、恐るべき恋愛漫画。……恋愛漫画? 最早、これは恋愛漫画なのでしょうか。時空と因果の全ての末端にまで、愛と幸福を満たし切った果て、ついにビッグバンを起こした作品宇宙は、第四の壁すらも打ち破り、別ユニバースに至るまでハッピーエンドをやり尽す。因果時空虚実宇宙が全てカットアップされ、ぐちゃぐちゃにかき混ぜながらも、約束された「幸福」に向けて突き進んでゆく酩酊。読んでいて眩暈を起こすほどの混沌でありながら、その全てが極めて理路整然と組み上げられた機械仕掛けであるところも凄まじい。物語の完結をやり、完結後の蛇足すらをやり、その上でついに始まる「本編」は、果たしてどんな最終巻になるのか。まさかマジで金剛山は面倒臭いSAGAをやるのか。次巻が楽しみすぎる。

ラミア虐殺/飛鳥部勝則

 オーソドックスな「吹雪の山荘」シチュエーションでありながら、登場人物たちが皆全く動じることなく、挙句の果てに「犯人がわからないならば、自分以外の全員を殺せばいい」とか言い出す、何だか奇妙な推理小説。飛鳥部作品最大の問題作という前評判を聞いて防御姿勢をとりながら読んでいたのですが、いやいや、問題作どころか、コンパクトかつストレートにまとまった最もお行儀のよい作品だと私は思います。ヤバさでいえば、題材を明確に言語化できぬままもがき苦しんでいた『殉教カテリナ』~『N・A』の序盤三部作の方が上じゃないかなあ。本作を問題作と呼ばせているであろうトンチキも、序盤から入念に前ふりがされたものであり、カタルシス/サプライズというよりは、テーマを丁寧に語る上でのガイドとして機能しているように思います。しかし、『バラバの方を』以降は、飛鳥部第三期と言った趣がありますね。「本格推理の幽霊」テーマと推理小説の結合を『ヴェロニカの鍵』で一度完成させ、次にやるべきことを模索しているような。

名探偵コナン(91~95巻)/青山剛昌

 トリビア・科学手品利用系のトリックが多く、展開する推理もミニマルな、ミステリとしてはやや印象が薄い巻帯。ただ、以前にちらっとだけ画面に映っていた沖田が、本格的に登場したのはインパクト抜群でした。黒の組織のボスの正体が明かされたりもしたのですが、個人的にはそれどころではなかった。沖田は、バトル漫画『YAIBA』の登場人物であり、その最終章において技量面で主人公を完封したバケモンです。ミステリに登場してよいキャラではないし、そもそも中学生を日本刀で切り刻んでいた奴が殺人事件の捜査に協力しているのもおもしろすぎる。さらっと『YAIBA』主人公の鉄刃が登場してるのもビビるんですよね。この人あれですよ。現在の時系列において、単独で火星まで飛行できる魔剣持ってるんですよ。ミステリに登場してよいキャラではない。魔術が存在する怪盗キッド世界と統合されている時点で今更ですし、キッドとYAIBAの世界が繋がっている以上、彼らの登場は必然ではありますが……。そういえば、『四番サード』の主人公・ライバルも以前に出ていましたね。いよいよ青山漫画オールースターめいてきた。


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