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【2018忍殺再読】「ポッシブル・ドミネイション」

レンチンシトカ

 AOMシーズン2、第4話。崩されてゆくワイズマンの戦力、スーサイドの裏切り、ソウカイヤ陣営の増員と過冬の支配が揺らぎ、凍りついた町・シトカが徐々に熱を帯びてゆくエピソード。一つのテーマに着地する単話としてではなく、各勢力の状況変化を追う話という点で、連続ドラマ性がとても強く「ライフ・アフター・デス」を想起させられます。とはいえ、「サキュバス回」という印象がぬぐえないのもまた事実。サキュバス戦、比率的にはそれほど多くを占めているわけではないんですけど……やっぱスケベ・ドミネイターが強烈すぎるし、サキュバス当人も魅力に溢れてるんですよね。タイトルが「支配可能」なのは、痛烈な皮肉でしょうか。ドミネイションという単語から、スケベ・ドミネイターが脳裏にちらつきますけども……。

 コトブキとゾーイの潜入パートもなかなかに楽しい一幕です。現実の問題に相対したとき、映画の文脈から解決手段を引っ張ってくるコトブキの在り方の危うさは、とてもカワイイだし、同時に危ういんですよね。彼女が活躍するシーンは、彼女が観た映画のパッチワークであり、ゆえにどこかごっこ遊び感が香りますし、気が抜けています。しかし、映画鑑賞から自我を獲得した彼女にとって、それは極めてシリアスな立ち振る舞いなわけで。Aに対しBをすべきと考え行動するのではなく、「Aに対してはBと行動する」という形を真似る、人の形を真似て作られた自我を持つ機械。エトコ、ユンコに続く、「サイバーパンクの少女」なんですよね彼女は。あと、インストラクターがプライドを持って仕事に取り組んでいたりと、過冬支配を受け入れ、満足し、充実な生活を送っている市民が居ることがしっかり描かれているのもフェアで好き。

一家に一台欲しいサキュバス

 本エピソードの主役である(断言)サキュバスの話をしましょう。イクサの熱を求めて散ったキンジャールと違い、とことん真面目にお仕事をやっているサキュバスは、ワイズマンの中でもワイズマン度の低いニンジャという印象が強いです(とはいえ、コトブキたちの蛮勇に、「不快感に目をすがめた」「胸をざわつかせる」と描写されているあたり、彼も決して例外ではないのでしょうが) 。ダイダロスや室長、シルバーキーやナンシー・リーのようなハッキング/コトダマ技能超特化型には及ばぬながらも、「ある程度ハッキング能力に優れ、カラテ能力にも優れている」というどのステータスも平均以上というオールラウンダーぶり、そして個人的欲望に囚われず誠実に仕事に臨む真面目ぶりはさぞ組織から重宝されたのではないでしょうか。索敵能力持ちのカシマールと並んで過冬という組織の要のニンジャだったように思います。

 何度も繰り返し言いますが、とにかく真面目に仕事をやっているところがいいですね。キンジャールのようなカラテ戦士ではない彼は、マスラダとのイクサで火を灯すことなく、最後までその真面目さの中で死にました。とはいえ、彼が仕事だけの人間かと言えば、そういうわけでもなく。「邪悪コード収集家」としての顔を持つ彼にとって、過冬での仕事は決して責任感と諦念だけのものではなかったように思います。凍り付いた世界に閉じこもり、荒野に踏み出す蛮勇から目をそらしながらも、与えられた仕事に誠実に取り組み続け、その中に自分だけの小さな楽しみも見出しているニンジャ。「極めて優秀な小市民」とでも言うべき彼のメンタリティは、等身大の「かっこよさ」を備えており、ちょっと憧れの感情すら覚えます。

 また、これだけ真面目な仕事人でありながら、スケベ・ドミネイターというトンチキの極みみたいな戦術を使っているのが魅力……というのはもう語るまでもありませんよね。満員電車戦闘やタコとのカラテ等々、ふざけてるようにしか思えないものを大真面目に描写する忍殺流イクサ描写において、アダルトサイトウィルスを用いたサキュバスの電脳戦闘は一つのハイエンドと言えるでしょう(シルバーキー戦の置きスケベとかおもしろすぎる)。また、「性的コンテンツの外装」という共通点を持つコトブキと比較してみるのもなかなか楽しい考察要素かと。いずれもが、中身は極めて真面目な人間であり、しかし「ポルノ」「映画」という文脈に沿って行動するため、どうにも表層的にはおもしろく見えてしまうという存在なんですね。大真面目に車をおっぱいで洗車する男と、大真面目に映画再現をする女。サキュバスは性的コンテンツを演じ、性的コンテンツとして作られたコトブキがそれを演じることをやめているという、サキュバス→コトブキな一方向性の繋がり方もよくよく考えると興味深いかも。まあ、ここまで行くと牽強付会が過ぎると言いますか、言葉を弄んでるだけになるでしょうけども。

■note版で再読
■10月21日