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【2018忍殺再読】「デッド! デダー・ザン・デッド!」

酒場の壁に貼られた汚い原稿用紙

 フジキドトリロジー完結から二年後のネオサイタマを舞台とした、イケイケドンチキゾンビーバトル巨編。死霊たちが割れた月をミラーボール代わりにして踊り、死と死体を乗せた霊柩車が陽気な地獄を裂いて飛ぶ。ヤモト(死)とジェノサイド(死体)とデッドムーン(霊柩車)のトリオのハマりっぷりが凄く、いざお出しされると何故この組み合わせが今までなかったんだろうと首をひねることしきり。そこに更に、ブルーブラッド(不死)とエルドリッチ(死体)を重ねることで役の点数はさらに倍点、私の興奮も倍々点という寸法です。それにしてもボンモーがトリロジーで育てた手札(キャラクター)の強さたるや。シャッフルしてカードをひょいひょいと合わせるだけで泉のようにおもしろいエピソードが湧き出てくるんだから、ちょっとした財産ですなあ。

 ゴナイダというレアカードを切ったことにより、「シ・ニンジャ・クラン揃い踏み」の実績解除、それによりムービー「恐るべきシ・ニンジャ真実」の開放となった本エピソードですが、そのディープな終着と比して、アトモスフィアがとことんラフでライトなのが素晴らしいところ。全15セクションの大長編、ゴア描写モリモリの内容でありながらするりと読めてしまいます。ニンジャスレイヤー特有の緻密で美麗で高密度な文章表現が息をひそめているのも印象的。「ヤモトは武者鎧ゾンビーを斬って斬りまくった」とか平常のボンモー&ほんチからはまず出てこない文章だと思うんですよね。イメージとして浮かぶのは、酔っ払いに書き殴られ、酒場の壁にナイフでとめ置かれたラフスケッチ。文字が書かれた原稿用紙も染みで汚れくしゃついているところが目に浮かぶ、そんなエピソードとなっています。

死者は陽気で命が軽い

 私が本エピソードで一番好きなのは、敵ゾンビ「ジェノサイド・チルドレン」の連中でして、ゾングローブだのネクロサイタマだのの与太話を語りながら、陽気に暴れてさくりさくりと爆発四散してゆく彼らの儚さと楽しさたるや、お前たちいいなあ!と肩を叩いてやりたいところ。生の鎖をぶっちぎり、社会の倫理からも解き放たれて、浮世離れした軽いステップで殺して食って笑ってする彼らの愛おしいこと愛おしいこと。『狂骨の夢』に「骨の妖怪は現世の象徴である肉が剥がれているのでみんな陽気」みたいなことが書いてあったと思うんですが(うろ覚え)、しかも彼らはジェットペインさん以外は骨ではないんですが、なんかそういうアレですよね(うろ覚えにずれた引用を重ねてなんかもう言ってることめちゃくちゃですけども)。終わりは既に迎えている。別れも既に済ませている。「執着」のないタイプの死者であるっぽい彼らは、死ぬときに「チクショー!」と悪態を吐くけれど、それはどこまでもナラクを構成するモータルの憎悪とはかけ離れた、なんとも気持ちのいい悪態100%の「チクショー!」で、実に清々しく爽やかさに満ちている。シュガーブライドが彼氏を殺されて「ゲッ! くたばってんじゃん!? 使えなーい!」ってわめいてるところ超好き。

 そんな脳味噌腐ってんじゃないのかこいつらって感じの単純明快ゲラゲラ愉快な人格もいいんですが、映像的なビジュアルがどいつもどいつもイケイケなのがこれまた最高。フックの付いた六本腕でむき出しの心臓が鉄格子と一緒に胸部に埋まっているヘテロポータとか、ボロマント着用の全身骸骨で膝下にジェットエンジンが付いてるジェットペイントかね~も~たまんないですよね~。なかでも特筆すべきはやはりシュガーブライトでしょうか。少女・オイラン花嫁衣裳・巨大鉈付き二丁拳銃・三つ目・不自然改造豊満・顔面十字傷・彼氏持ちという装飾の過剰積載ぶりたるやキュア様のライバルと言っても過言ではないでしょう。あくまで「研究の一環」として明確なコンセプト・テーマの下、製造されていたリー作ゾンビ―と異なり「無駄な装飾」がいっぱいひっついてるところが彼らの魅力ですね。集合絵ファンアート見たいなあ。

ワルサイタマとネクロサイタマは似ている?

 あと今回再読して妄想したのが、このエピソードひょっとしてニンジャスレイヤーイビルと同じく、ネヴァーダイズ執筆の苦闘の反動として書かれたんじゃないかなあってことですね。ネヴァーダイズが生者・当事者の物語であり「自分の頭で考えろ。ニンジャの陰謀を見つけだせ」って話なのだとしたら、デッド!は死者・傍観者の物語であり「センセイのネクロサイタマ最高だぜ!(無思考) ハッピー!」って感じなんですよね。ジェノサイドやエルドリッチなど、強い意志を持って現実を変革してゆく連中がいる以上「死者は傍観者である」とくくるのは乱暴な気もしますけど(そういえば彼らのネクロカラテってなんなんでしょうね。私は未だうまく消化できていません)、イクサの敗者は自身のミームが他者に変換されることを防げないということ、シ・ニンジャほどの強大な存在であっても死後は名乗りが「ヤモト・コキ」になってしまうことなどを考えると、やっぱり忍殺の死者ってそういう位置づけなのかなって……。

 彼らはセンセイのネクロ地球で支配階級になっておもしろおかしく生活したいぜという目的は持っているものの、やっぱりどこか地に足が付いていないというか、フィルター越しに世界を見ているというか、他人のリズムに乗っかって踊っているというか、そんなイメージなんですね。そんな反ニンジャスレイヤーなスタンスである彼らが、それでも楽しくやっている姿にはなんかこう、とても救われるものを感じることができまして。いや、まあ、彼らが「死者」であること、何よりこのイクサで負けてしまったことを考えるとアレなんですが、それでも彼が、この瞬間、めちゃくちゃ幸せそうなのは本当なんですよ。彼らの大騒ぎは、シのお母さんからいい加減にしなさいと叱られて幕を閉じるわけなんですけども、それは叱られたからやめただけであって、彼らのスタンスが根っこから否定されきったわけじゃない。しめやかな盆踊りが地上で執り行われようとも、フジサンの底の底からは今も彼らのミュージックが漏れ聞こえているような、そんな気がするのです。

未来へ…

 今後の楽しみという点ではやはりヤモトでしょうか。今年はヤモトエピソードとしてもう一本、あの女子高生収容所回が公開されたわけですが、そっちが女子高生という彼女の側面を彼女自身から切り離して語るエピソードなら、デッド! はシ・ニンジャという彼女の側面を彼女と重ねて語るエピソードであり、その点うまく差別化できてますよね。ヤモトは「アタイは女子高生だ」とは思っていないでしょうけども、「アタイはシ・ニンジャだ(ただしシ・ニンジャ=ヤモト・コキ)」とは思っているみたいなんですよね。死の女王たる自覚と、しかし自分はヤモト・コキであるという断言が今後どういうケミストリーを起こすのか。果たして私の大好きなサクリリージさんの再登場はあるのか。トリダくんの揺れる乙女心は大丈夫なのか。楽しみなことですね。あと、リー先生のロンドン案件も気になる……。

■note版で再読
■9月14日