見出し画像

【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.2.16)

 最近本も漫画もあまり読めておらず、何だか久しぶりのアレやコレ。代わりに何をやっているかと言うと、『BABA IS YOU』を延々やってました。

 パズルのルール自体でパズルをするパズルなんですが(上の動画を観ろ)、どのステージにも必ず、固定概念を破壊する飛躍が一つ仕込まれており凄い。「ルール操作」という上位概念に手を突っ込む行為が多重構造を成してゆき、パズルの土俵がどんどん上位メタに駆け上がってゆくのが凄い。とにかく何もかも凄い。無限に脳の扉が開き、世界が展開し続け、脳内麻薬がドバドバでる。オールタイムベストゲームの一つですわ。パズルゲームのメフィスト賞。汎用物を組み合わせて発想を飛躍させるという点で、個人的にはワールドトリガーのファンにお勧めしたいですね。

ほしとんで(1~2巻)/本田

 大学の俳句ゼミで学生たちが真面目に俳句の勉強をする漫画。青崎先生が薦めており、おもしろそうだったので読んだら大変によく、青崎先生ありがとぉ~!となった。とにかく、登場人物たちが皆真面目に俳句を勉強しており、真面目に勉強している大学生が大好きな私としては、なんかもうそれだけで満足してしまう。大学生概念、モラトリアムやサークルや腐れてたりするのもいいけれど、やはり勉強している姿が一番楽しそうだし輝くように思うんですよね。私の趣味ですけども。あと、読んでいるとなぜか体を動かしたくてウズウズしてくる魅力がある。話の骨子だけを追うとどこまでも素朴なので、このウズウズがどこからもたらされているのかは、さっぱり言語化できません。センス◌。懐広し。理詰めではない何か。あと二巻収録の句会編が、フーダニット・ミステリみたいでちょっと笑っちゃった。この句をよんだのは誰か? 手がかりは全て吟行と各々のキャラ背景にある!


大進化どうぶつデスゲーム/草野原々

 最新のガジェット、有機的な装飾、そして意外にも古めかしいSF仕草と、草野SF三種の神器そろい踏みの趣のある一作。選択したガジェットをバラバラに解体し、その本質を異常拡張してゆく手さばきのスムーズさはより洗練を増し、今回の標的である百合とデスゲームはあっと言う間になんだかよくわからない地点にまで引き延ばされる。ネットワークとその中を通るエネルギーによって形成される構造は、有機的な管と栄養を代入すると「どうぶつ」になり、人間関係と感情(理由)を代入すると「百合」になり、進化史と遺伝情報を代入すると「宇宙」になる。スケールの異な三つの相似形を重ねあわせて乗せるのは、喰らい、保ち、増え、殺し合う、デスゲームという名のごく当たり前の営み。あとゲームのプレイヤーである進化系統樹が、ほぼ並行世界と同じものとして扱われているので、ちょっと『ぼくらの』を思い出したりもしました。


大絶滅恐竜タイムウォーズ/草野原々

 大傑作。私の観測下では今のところ令和最高のSFです。どこまでも「生と進化」の物語であった前作の全てを破壊しつくしてゾンビのごとく立ち上がる「死と絶滅」の物語……ではない、物語であってはならない、物語を殺さんとするSF。理由(エネルギー)の欠乏に伴って関係性(ネットワーク)が消滅し、死者となった「百合」は、小説からドラマという名の拘束を外し、災害の如きSFを解き放つ。あらゆる制限を失い、物語小説の基盤を破壊し尽くし異常増殖してゆくSFを、SF的視点で観測し、シミュレートしてゆく循環関数の如きこの与太話は、どこまでもやりたい放題に、ひたぶるに野放図に、物語の死骸を玩具にし続け、ついにはその肉体の檻……SF小説の限界地点にまでたどり着くのです。「SF」と「小説」ががぶり四つ殺し合うがゆえに「SF小説」。その戦いは、最早デスゲームの規模を越え、戦火を拡大させてゆくウォーズ(戦争)のように、読者である我々すらも否応なく巻き込んでゆくのです。


アカギ 闇に降り立った天才(1~16巻)/福本伸行

 福本作品、天とカイジと黒沢と涯と零と銀と金は既読なのになぜかアカギだけずっとほったらかしで、そろそろ取り組もうかなとそんな感じです。とりあえずは鷲巣麻雀五回戦まで。六回戦長すぎんか? あと二十巻くらいあるんですけど。リスペクトして感想も長めに書くことにしようと思います。私のアカギさんの印象って、最初はかっこよかったのに死ぬ前に何故か説教大会を開催してクソリプ合戦を繰り広げ、原田さんに死ぬほどひどいことを上から言いまくった天に出てくるオッサンという印象があったのですが(最悪の感想)、本作を読むとなんと中学生の頃から説教しまくっていることが判明し、闇に降り立った天才説教師……!となりました。真面目に感想を述べるなら、観察・判断・行動の三種におけるアカギの優秀さが、編をまたぐごとに拡大してゆくのがおもしろいです。中学生時代はゲームシステムまでが対象で、工場勤務時代はゲームに参加するプレイヤーまでが対象。だとすると、当然、鷲巣編ではゲームとプレイヤーを内在する「アカギ」というフィクション世界自体が対象になってしかるべきで。伏線を回収しますが、実質BABA IS YOUですね。あと、アカギのキャラからしても、話がメタに片足突っ込むのは必然だと思うですよ。というのも、アカギってとことん自分の能力だけに依って立つ人間であり、その様が美しいと描かれているのに、地の文や他のキャラから「天運」とか「もっている」とかオカルトなことを言われ続けてるんですよね。「自分の能力だけでやってきていると言っているが、実は運がいい」 ひどくない? これではピカロではなくピエロです。アカギがアカギを打ち立てるためには、神(作者)の領域……作劇の都合である「天運」をも能力の対象にせざるをえない。作者と真っ向から対決しなければならない。豪運魔人の鷲巣さんは、まさにそのための敵、「ご都合主義」の化身であり、作者を虚構世界に降ろすための依代なのでしょう。そして、作者そのものとなった鷲巣は、その定まった敗北に至るまでの道筋を、どこまでもどこまでも微分し、アキレスと亀のように引き延ばしてゆく……。