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【忍殺第1部再読】「ガイデッド・バイ・マサシ」

正気か?

 AOMで言うところのプラスエピソード味を感じる、番外編めいたエピソード。サツバツとした救いのない展開は言葉の上では確かに第一部のものではあるのですが、なんかエピソード全体のテンションが浮足立っているというか、地に足がついていないというか……とにかく頭から尻までヘンテコ(かっこよく「奇妙」と表現できるほど、座りのよいものではない)であり、読み直していて三回くらい「ボンモーこれひょっとしてふざけてんのか……?」「酒飲みながら書いたんか……?」という疑いが頭によぎりました。B&Mメモの「蛮人コナンめいて、神話の霧の中から浮かび上がっては消える断片的なエピソードのひとつだ」「だからおそらくこのエピソードの位置づけを物理的に理解しようとしてもうまくいかないだろう」という記述もそのヘンテコさに拍車をかけており、「これひょっとして、本人たちもよく覚えていないのでは……」と戦々恐々するばかり。ひたすら状況に振り回される中、マジなのかギャグなのかわからないくすぐりが連発されてゆく展開は、どこかブーブス・バンドを想起させられるものがあり、個人的には、本編時空とロブスター時空の中間に浮いている作品という印象です。

 とにかくヘンテコであり、おもしろいかどうかの尺度で問われると私も歯切れのいい感想出力をできないのですが、確かなのは「好きなエピソードである」ということ。第一部から五本選べと言われたたら、間違いなく候補には入ると思います。ステーキ肉をがつがつ食ってたらいきなりホヤを出されたみたいな困惑に襲われるエピソードではあるのですが、その呼び起こされる困惑がたまらないものがあります。脳で刺激がはじけている。この「困惑」が呼ぶ魅力の正体を言語化することは私の技量ではできないのですが……言葉にできるわかりやすい魅力を一つを挙げるとするならば、台詞のセンスがやたらとキレているというものがあるでしょう。

 たとえばこのトレジャーハンターたちのやりとりとか凄いですよ。グルーヴがハンパない。無茶苦茶ハイカロリーだし、作者の力(りき)が入りまくっている。この二人のためだけに「ダッセ!」という独自の内輪文脈言語まで設定されているのはなんなのか。すぐ死ぬのに。

 あと個人的に凄く好きなのが、上に引用したエルダーヤマブシの「こんなにも秘密が……公に……!」ですね。読み返しててありえんくらい笑ってしまった。何がおもしろいのか自分でもわからないのが悔しい。当事者が自分が陥った悲劇的状況を馬鹿丁寧に説明しているのがおもしろいのかな……。

酒か?

 本エピ独特のヘンテコさを形作るものの一つとして、エピソードの軽さに対して要素が過剰積載されているという点もあるでしょう。カルト宗教めいた側面を持つモータル・クラン「ヤマブシ」と、しゃがみ攻撃シックスゲイツ・クイックシルヴァーの時点で既に十分な栄養価を持っているというのに、ミヤモトマサシまで絡んでくるし、挙句の果てには宿敵ダークニンジャまで出張ってくるという始末。この過剰積載トラックの上に、上述の通りハイカロリー・トレジャーハンターコンビをぶつけられるんだからたまったものではありません。しかもそれが特に大筋と関係のないノイズなんだから、もはやニューロンをばくはつさせるしかないといったところでしょう。とどめはラオモトのカメオ出演です。いやほんと、要素ひとつひとつの噛み応えがデカすぎる上に、次から次へと口へ詰め込まれるので、読者としてはひたすら困惑しながら「えっ?」「えっ?」と飲み込んでゆくしかない。モガタさんのドラマなどはモータル・エピソードらしい無常さを備えていた気がしなくもないのですが、気づけばそのサツバツは既にのど元を過ぎている。わからない。これは一体なんなのだ。

 しかも凄まじいことに、これらの要素は特に互いに噛み合うわけでもなく、エピソードとしてのまとまりを見せるわけでもなく、ただただケミストリーを起こし、ポッと燃え上がっては、「あっ、終わったんで……」と舞台から去ってゆくのです。原作者が存在するフィクションであるにも関わらず、そこに何かしらの意図をもった操作がほぼ感じられない。ただただ連鎖爆発がシミュレーションされてゆき、読者はそれをポカンと見つめ、その横では偉大なるボンモーがなんか満足げに腕組みをして深く肯いている。酒か?やはり酒を飲みながら書いたのか? 

 「そういう奥ゆかしい瞬間が切り取られているよね」じゃないんですよ。腕組みやめろ。いや~でも、ラストのモガタ・ヤマブシ・シークエンスは私も大好きです。最早ヤケクソなんですよ。最後に花火が二つ残ったので、おら!これでしまいだ!とばかりにとりあえずカチあわせたような勢いがとんでもない。おもしろすぎる。あっ、おもしろいって書いてしまった。いやでも、これやっぱおもしろいですよ。「おもしろいかどうかの尺度で問われると……」とか先に書いてしまいましたけど、前言撤回します。これはおもしろいです。すげー好き。

未来へ……

 現行忍殺へのリンクとしては、やはり「五つの指輪」が重要なキーワードになるのでしょうか。本エピソード時点で直接そのアイテム名が登場するわけではないのですが、ダークニンジャが回収した『円盤の鍵(6/8)』がその封印の在り処を司るのだとか。しかし「五つの指輪」を封印した「八つの鍵」が各地のダンジョンに隠されているというもってまわった感、じわじわきますね。「五つの指輪が各地のダンジョンに隠されている」じゃないんだ……という。ボリュームが水増しされたRPGかな? しかも、指輪自体は現在はその封印場所から散逸してるっぽいんですよね。リング・オブ・ファイアはオンセンの底に沈んでいたようですし。と、なるとこの円盤回収クエストは完全にバグってしまってるわけで……おお、クイックシルヴァー……。まあ、一応、ダークニンジャがこの後、円盤鍵を完成させて、指輪を各地にバラまいたという可能性もなくはないのかな……? それがキョート城主就任後であれば、時系列的な問題も無視できそうではあるし……。

■2020年9月17日
■note版で再読