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【2020忍殺再読】「バック・イン・NS」感想

ハチミツ漬けの蛇足

 ニンジャスレイヤーAOMシーズン3の……ボーナス・トラック?でしょうか? 本編終了後、マスラダたちがピザタキに帰還する様子が描かれます。物語としては既に見事に閉じているシーズン3の中に、本作が入り込む余地はなく、本文テキストの一部であるピリオドにすらたとえることは難しい。強いていうならば、アナウンスとして記される「(完)」の三文字を虫眼鏡で拡大したような一編、でしょうか。エピソードというよりも、スレイトに近く、言ってしまえば蛇足なわけですが……なんとまあ、しゃぶればしゃぶるほど蜜のような甘さがしみ出してくる足もあったものですね。皆さんが蛇足だからと捨てるのならば、全部私がもらいます。いいですね?

 本編中では荒事に巻き込まれ、あんまり描かれることのないピザタキの日常風景が描かれているのも新鮮です(直後の『キタノ・アンダーグラウンド』で、たらふく食わされる羽目になったわけですが……)。他人をなめくさりまくった態度の中に、自分への諦めの裏返しが透けて見えているタキの虚勢には相変わらずたまらない滋味がありますし、不在にもかかわらず一瞬でネオサイタマになじんだことが伺えるザック少年もタフでいい。しかし、タキは、もうちょっと自分のことを高く評価してもいいんじゃないでしょうか。マスラダがピザを食べてくれれば、まあ、もうちょっとマシになろうかとは思うのですが、これに関しては真面目にピザに取り組んでいないタキの自業自得なので仕方がないですね。マスラダ、ピザづくりに関しては割とマジでタキに対してキレている気がします。真面目なアーティストですからね。

未来へ…

 モーターツクモ……えっ……何? ドーモシリーズでもわかっていたことではありますが、人型でなくても当たり前のように自我を持ちますね、AOMの無機物は。テックの自我獲得については、明確にAOMに入ってから発生した現象のような気がします。既に地球信仰を始めていたヨロシサンを除けば、トリロジーにも知性マグロなどがいたわけですが……あれはシャードで、人間の脳を移植したものであることが明かされました。エトコやイチバンの自我の有無が明言されなかったことを踏まえても、自我の新規発生はAOMに入ってから生じた現象のように思えます。アルゴスは、ニンジャソウルが憑依する前から自我を持っていたのかな……? ニンジャアニマルは? モータルの動物には自我があるのか……? インダルジの言葉を信じるなら、獣に自我はなさそうなもんですが、インダルジの言うことは何も信用できないし……。

 また、自我の獲得が、10年間の技術発展がもたらしたものだと単純に言い切れないのも不気味なところ。ひょっとして、エテルの流入増大が原因だったりするんでしょうか。だとすると、平安時代や神話の時代にも、無機物で自我を獲得したものがいたのでしょうか。……付喪神ってそういうこと? また、コトダマ空間やカラテが影響によるものなら、ひょっとしてテックである必要すらないのかもしれません。考えられるとしたらスシでしょうか。アキジのスシが喋り出す未来があるのかもしれない。それにニンジャソウルが憑依したら、ニンジャの……スシ!になりますね。海苔は黒帯みたいなもんだし、エメツにも似ているし……。


■2021年11月8日にnote版で再読。