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【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.3.22)

 どうぶつの森やら久保帯人先生の新作連載やらで色々忙しい昨今ですが、個人的には浦賀和宏がブームです。先日、脳出血で亡くなられたのがきっかけなので、こんな悲しいマイブームあるかよって感じですが、でもまあ全作持ってるくせに初期の安藤シリーズ以外ほぼ読めてなかったのでこれを機会に実績解除してゆきたいですね。ノベルス時代のファンとしては、探偵と青春を憎悪を込めて抱きしめるルサンチマンの怪物ってイメージを持っていたんですが、晩年の作品を読んでちょっと印象が変わりました。トリックスターな作風が前面に出、ミステリと青春への暗い欲情が「新規性へのチャレンジ」というクリアな形へと昇華されているような。十八番の近親相姦やカニバリズム要素も減り、すっきりしたのど越しになっている。いや、まだ二作しか読んでないんですけども……。あ、どうぶつの森は海の魚がめちゃくちゃ種類が多くてびっくりしました。スズキが他種を淘汰し尽くした不毛の地ではなくなったんですね。あと雨の日の夜にシーラカンスが全然釣れないのもび驚いた。かつての私はラチメリア・マネーで財産を築いた富豪だったのだ……。仕方ないので、フルーツ養殖業に手を染める予定です。


緋い猫/浦賀和宏

 そんなわけで浦賀和宏チャレンジ一冊目。わかりやすく魅力的な謎が小出しされ、スムーズに展開が二転三転し、落ち着くべきところにさらりと落ち着く、典型的なキオスク小説(電車出張中にキオスクで買って読み、帰りに駅のホームのゴミ箱でポンと捨てるのによい本。私の造語)。……かと思いきや、何ですかねこの気の狂ったようなオチは。驚くとかおもしろいとかそういうのではなく、何というか、会話している最中に友達がいきなり目の前で服を脱ぎ始めて全裸になり、しかしそれに触れないまま普通に会話を続行してくるみたいなそんなアレです。作者が何考えてんのか全くわかんなくて怖ぇよ。でも、浦賀作品って、確かにこういうトリッキーなことをよくやってくるんですよね……。トリッキーというか最早変質者って感じですけども……。あと、輪姦描写にすっげえ長っげえ尺を使ってるのも、浦賀作品って確かにこうだったなあとほっこりしました。ねっちょり湿ってる作風。


デルタの悲劇/浦賀和宏

 浦賀和宏チャレンジ二作目。「小説家・浦賀和宏の遺作として出版された作品」という設定の一冊であり、そして、本当に遺作になってしまったというとんでもない本。そんな偶然ってあるかよ。帯の宣伝文句が「浦賀和宏が殺された!?」なのは、笑っていいやら、泣いていいやら……。で、そんな作品外周の話はどうでもよくてですね、これ、なかなか挑戦的な一冊なんですよ。デルタのタイトルに冠される通り、3パート1セットで進行するお話であり、その構成に種々の計算を盛り込んで、とある大仕掛けを組んでみせた読むマジックです。文庫約200頁という薄さもあって、仕掛けに対して無駄がないのがかっちょいい。本来物語が描くべきものを贅肉として削ぎ落とされたことで生まる、仕掛けとしてのスマートさ、ソリッドさ、純粋さですよ。こういうの一部の人がミステリを苦手とする理由の一つだと思うんですが、私は好きです。なんとも、実に、「らしい」。『ifの悲劇』という作品もあるので、シリーズの二作目なのでしょうか。三作目の悲劇と、最後の事件も是非書いてほしかったなあ。


変身のニュース/宮崎夏次系

 偶には普段自分が読まない系統の漫画を読んでみようと言うことで、宮崎夏次系の短編集。客観的な感想としては線が細いです。繊細で華奢で、そしてちょっと鼻につく立ち上がりを受け、はは~んこういう感じねと油断した読者の眼前でにやりと笑い、うんこを漏らし始めるみたいな作風がすげーおもしろく、どの作品もゲラゲラ笑ってしまった。そして、そのうんこを漏らしたことを受けてのラストカットにおいて、それも含めて結局全部の印象を、最初の「繊細で華奢で、そしてちょっと鼻につく」に取り込んでしまうのが絶妙の塩梅。小説であれ、漫画であれ、短編作品の完成度の七割は、お話をどこで切るのかという点にあると私は思うのですが、ここまで見事な切りっぷりはなかなかお目にかかれるものではなく、すばらしいギロチン職人を見つけてしまったなあという嬉しみに今、満ちています。


声優ましまし倶楽部(1~3巻)/目黒ひばり、小林尽

 ジャンププラス原初の邪悪。ジャンプラ黎明期は、光のとんかつDJアゲ太郎と闇の声優ましまし倶楽部の二大食物表現者漫画がしのぎをけずるデビルマン最終回状態であったと、この村には古くから言い伝えられておる。なんか無料公開されてたので気軽な気持ちで再読し始めたのですが、あまりの邪悪さに読んでて真面目に気分が悪くなってしまいました。「これは本気でとりくまればならんぞ」と襟を正し、アマゾンで単行本を購入することに。さて。これは新人声優である主人公がメジャーになるべく必死に頑張る青春物語であり、その彼女の努力を、その彼女の思考を、その彼女の性質を、その彼女の周囲を、そしてそれらを含むこの「声優ましまし倶楽部」という世界の全てを、ほかならぬ作者本人が徹底的に踏み躙り、嘲り、冷笑し、そして諦めきっている絶望の物語です。ページの隅々にまでいきわたる自作に向けられた底抜けの悪意は、毒のように読者の内臓に根をはり、まさに最悪と呼ぶほかにない最終回をもって花を咲かせ、そして「声優には興味がないのでまとめサイトを参考にした」という原作者インタビューにより完璧に実を結びます。自分が創りあげたフィクションを、ここまで嘲り切ってみせた作品は、ちょっと他に例を思いつきません。個人的には傑作だと思うのですけれど、読んでて普通に不快に思う人も多いと思うので(ゆえに傑作なのですが)、ちょっと人に薦めるのが難しい。矛先が全く異なるとはいえ、創作者の悪意を堪能できるという点で、私のなかでは宮部みゆきの『悪い本』と同じカテゴリに入っていますね。



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