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【2018忍殺再読】「ベリアル・アンダーカバー」

世界の中心に座る女

 AOMシーズン2、第7話。これまで伏流として語られてきたソウカイヤと過冬のイクサが前面に推し出され、二つの組織に絡み合う因縁と運命が解きほぐされるエピソード。それにつけても凄まじきはディアンタ/ソーニヤ/タチバナ/ユーリアの運命力よ。アガメムノンの親戚(鷲の翼の血族)でラオモトとシンウィンターの子どもを産んだって何なんすかあんた。ニンジャスレイヤーのラスボスに全員手をつけようとするんじゃない。もうここまでくると実はロードと腹違いの兄妹でブラスハートの母親と学生時代友人だったりしてもおかしくないですよね。お母さんが家に連れてきた酔っぱらったディアンタさんにちょっとドキッとしてしまった小学生ブラスハート可能性……? 

 全ての因果と運命の出発点たるワンソー、そこから始まる流れに寄り添い続けるカンジの呪いとナラク・ソウル。ニンジャスレイヤーという長大なサーガを構成する三つの巨大存在に対して、個人の身でありながらおおよその運命の中心に一人のモータルが居座ってる異常ですよ。また、本編時系列において彼女自身の物語は既に終わっており、ぽっかりと開いた空洞になってるのがおもしろいですよね。重要人物それ自体はほとんど登場せず、その外周だけが強くなぞられその輪郭が浮かび上がるというギミックが個人的にツボなんで嬉しい。岡嶋二人の『焦茶色のパステル』とか金田一少年の『露西亜人形殺人事件』とかいいよね。

家族殺しと忠誠心

 家族殺しを目論むヤクザのオヤブンと、己を駒と自任し迷わず忠義に応じ戦う子分たち。再読して初めて気が付いたんですけど、本エピソードのソウカイヤはあからさまにアンチ過冬として描かれてるんですなあ。同僚の死に怒りの燃やすスモークドラゴンに対して、過冬の構成員が理解できるはずがない(理解したくもない)ヤクザナイズされた父と子の論理を語るガーランドという構図は、過冬ファンの私にとってなかなかクるものがありました。シンウィンターの「家族」はシンウィンターが暴力によって強要したものであり、子どもたちから返されるものではない。戦士であっても、ヤクザ戦士ではない……。こういうエイリアン同士のディスコミュニケーションは、複数ジャンルの混交を描き続ける『ニンジャスレイヤー』の醍醐味の一つでもありますし、マスラダくんの「大体わかった」やフジキドの罵倒に通じるものでもありますよね。

 また、チバのカリスマの下に頭を垂れるシックスゲイツの中にいて、自分自身のことしか見えていないホロ―ポイントが印象的。シックスゲイツの六人の中で、最もヤクザらしいニンジャである彼が、ガーランドの言うヤクザの論理からはみ出しつつあるのは痛烈な皮肉であり、ディアボリカの呪いの恐ろしさを物語るものでもありますな。ソウカイヤを逸脱しつつある異物が、過冬から推し出されたブルハウンドと合流するのはある種の必然性が感じられる……。ひょっとして二人でフリーのニンジャとしてやってゆく未来もあるのでしょうか。ホロ―ポイント、物語強度が高いこともあり長く生き延びる雰囲気をまとっているのですが、破滅以外の終着点が見えないんですよね。汚い路地裏で誰にも顧みられず死にそう。

カシマール、あまりに便利 

 異物で思い出しましたけど、カシマールの立ち位置未だによくわかりませんよね。シンウィンター/過冬/ワイズマンのコンセプトから明らかにはみ出している。ひょっとして気が狂うまでは、他のワイズマンと同じく打ちひしがれた男だったんでしょうか(男であってるよな?)。組織の外に己を置いていたSOCのニンジャたちのことを考えると、サツガイのジツ付与とはつまりそういうアレなんですかね。集団の中で培ってきた自分と他人の関係性(ジツ)と関わりのない、全くの外部から与えられた自己。また、リロイの言葉を借りるならば狂気とは「遮るものがなくなること」であり、ゆえに期の狂ったカシマールはシトカの囲いから脱しえたのかもしれません。

 で、そういった癖のある性格上、組織の一員として超運用しにくそうな奴ではあるんですが……あるんですが……あまりにも能力が便利すぎる。雑兵を蘇らせる能力の時点でクソチートにも程があるんですが(実質兵数無限じゃねえか)、その上、高機能なレーダー機能まで備わってるのずるすぎませんかね。ブラックトリガーを二つ所持するんじゃない。スノーマンやサイグナスと言ったカラテ強者枠は、シンウィンターが暴力勧誘出張に出れば幾らでも引っ張ってこれそうですが、これは貴重でしょう。サキュバスと合わせて、過冬という組織の要だと思う。その上、サツガイとのパイプ役でもあるわけで……。シンウィンターは彼を大切にするべきだと思う。

■note版で再読
■11月24日