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【2020忍殺再読】「モパイ・マスト・ダイ」感想

役名「ニンジャ殺すべし」#ウキヨエ #dhtpost

 デッドリー・ヴィジョンズ、麻雀回。「ニンジャスレイヤーが麻雀で戦う」というお題に対し、我々が期待した通りのトンだ光景をお出ししてくるんだから参ったね……。フジキドが麻雀したら、そりゃあもちろん忍殺牌であがるよという、有無を言わせぬ説得力。野球や将棋でもそうだったのですが、既存のルールがあるゲームを取り扱う上で、極端な状況設定をすることにより読者が理解しておくべき点を最小限にとどめているのがテクニカル。ただし、本エピソードは、デッドリー・ヴィジョンズ・シリーズということもあって、その状況に至るまでの過程は、ボンモーの剛腕によってあらすじに放り込まれ吹っ飛ばされています。潔い。個人的な好みとしては、「極端な状況が成立する理由」を、不必要なほどに丁寧に組み立てることが生むおかしみが好きなので、ゲリラ的にトンチキ爆弾を炸裂させる本エピは、ちょっと寂しくもあるのですが……。

 それにつけても、役名「ニンジャ殺すべし」の破壊力たるや。何が凄いってこの役、前述の通り「フジキドが麻雀をするに至った過程」があらすじ爆弾で吹っ飛ばされていることに加え、「どうやってフジキドがこの手を作ったのか」が全く説明されていないのですね。トンチキ光景に至るまでの道筋が全て読者の目から隠されており、まるで虚空から急にこの暴力が湧いて出て読み手の顔面にぶち当たったような代物になっている。それでいて、その内容は、あまりにも読者の考えるフジキド像にぴったりの、冒頭に記したとおりの「期待通り」のトンだもの。この「知っている光景」だけがストーリーから切れて宙に浮いている不思議な感触を、私は初読の時につかみかね、ひたすら首をひねっていたのですが……読み返し、気づいたのです。これは、忍殺の二次創作、それもストーリーのない一発ネタのパロディイラストめいているのだと。

 場を囲む面子がオムラとヨロシサンである、ある種のできすぎ感もそう考えると納得できるものがあります。「フジキドが麻雀をする」という光景を描くにあたって、面子がリロン・ケミカル社とかでは、なんというかネタ絵に対して余計な情報量が入り込んでしまい、ノイズになるんですよね。この場には忍殺のパブリックイメージであるオムラとヨロシサンが相応しいし、モータルがニンジャを観たら、当然「アイエエエエ!?」「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」とお手本通りの悲鳴を上げる。寿司や将棋や野球のようにトンチキさをドラマに強く結びつけることもせず、本作では、ただその一発ネタめいた光景だけを、「フジキドが麻雀をやったら?」の思いつきだけを……まさしくシリーズ名通り、ヴィジョンだけを切り取ってここに置いている。ロブスターとはまた違った形での、作者自らによる忍殺自体をネタにした忍殺。私は本作をそう読んでいます。

フジキドとかいう危険牌を切る様が世界一似合う男

 タイトル通りです。似合う。世界一似合う。辞書で「フジキド・ケンジ」と引いたら「麻雀をやったら、危険牌を決断的に切る男」と書いてあることは皆さんご存知の通りですし、フジキド本人も「私を定義するのは、オヌシらではない…!ただし麻雀をやったら、危険牌を切るのは確かにその通り」と第3部でアマクダリに対して言っていました。

 真剣に麻雀打ってないで、カラテで目の前のニンジャぶち殺さんかい!とという教科書通りのツッコミがこれに対しては生じるわけですが……本作が持ち出してきた「現在の彼は、マージョン精神戦でクレアボヤンスに圧倒されている。仮に、ここでこのまま卓を砕き、クレアボヤンスにカラテ勝負を挑んだとしても……間違いなく敗北するであろう。」という理由づけは、個人的にとても興味深かったです。このロジック、たぶん、フジキドが「ニンジャを殺さずにゲームにつきあう」理屈としては、最もベーシックなものなんですよね。ベーシックであるがゆえに、比較に用いることで、他のエピソードの特異性を浮き上がらせる試薬になる。たとえばデストロイ・ザ・ショーギ・バスタードなどは、このロジックに真向から反する「このまま卓を砕き、カラテ勝負を挑んだ」のに、普通に勝ってしまうものであり……ゆえに、あの将棋勝負の本当の卓(盤)はどこにあったのかという、隠れたイクサのレイヤー位置を暴き出す手がかりになりえます。

 あとやはり「マージョン精神戦でクレアボヤンスに圧倒されている。」に対する回答が、「麻雀に勝利する」ではなく、無茶苦茶ヤベエ真似をして死ぬほどビビらせるなのが、本当に身も蓋もなくて大好きですね。

 一瞬、「えっ? 卓を砕き、カラテ勝負を挑んでない?」と困惑するんですけども、よくよく読めば、「麻雀に勝利しなければならない」とはどこにも書いてはいない。カラテ勝負に持ち込める条件は、あくまでも精神戦で圧倒すること。「明示されたルール条文を用いて、読者の盲点をつく」という点では、正しくギャンブル漫画の文脈ではあるのですが……やっていることが、(最上の効果をあげるべく、麻雀に翻訳されているとはいえ)いきなり奇声を上げて驚かせるのとさして変わらないのがおもしろすぎる。また、この肉体的なパフォーマンスに対する精神面の紐づき……メタな視点で言い換えれば、「キャラの格の高さ」「精神論」を、数値として取り扱えるものとして作中に降ろしてしまうおもしろみは、個人的には『人造昆虫カブトボーグ V×V』を思い出します。ふわふわした「お約束」を、定量化することで台無しにし、しかもそれを作中人物が自覚的に取り扱うおかしみがここにはありますし、それは『ニンジャスレイヤー』が持つ強いSF性……たとえばナラク/エメツのような……でもあると思います。

未来へ……

 …………あの、薄々気がついてはいたんですけれど、第1部のナンシーさんって、ポンコツっぷりではタキよりひどいですよね。第1部のEXエピソードが増えれば増えるほどに、ラオモトガセ情報とアンプルガセ情報を掴んだ回数が増えてゆくんですが、ナンシーさん、そこんところどうなんですか。あなた、クールでデキるサイドキック、伝説のハッカーみたいな印象に我々読者の脳みそをハックして書き変えてますけど、実はブログユカノと同じステージに立ってますよね? 

 あと、面の皮の厚さという点でも、タキに負けてませんよね? タキはなんか遠慮してるみたいですけど、もっとガンガン雑に扱っていいんと私は思いますね。電子ユニコーンと与太話夢世界を冒険したり、羊の着ぐるみ着てブログで謎コラムを連載した末に、アニメ時空の自分のコスプレして帰ってきた変な人だから……。


■2021年9月9日にtwitter版で再読。