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無いようなもんだろ(短い小説)

神がなんらかの気まぐれを起こした。
全世界の人々達は突如降り注いだ大いなる光を浴び、能力に目覚めた。今まで普通に過ごしていた友達も団欒の幸せそうな家族もその辺の犬ですらも特殊な能力を得てしまった。

『空から降ってきた光の柱は、浴びた者の潜在的意識を引き出し解放させる効力があったようです』

画面に映る報道アナが、原稿を宙に浮かせながらそう教えている。能力は人によって様々だが、殆どの連中がポジティブに捉えているらしい。

身体から電気を出す奴、心が読める奴、瞬間移動する奴や透明になる奴と多くの連中が人助けや目立つアイデンティティとして+な捉え方で向き合っている。個人的には、その受け入れて取り入れるまでの迅速さと機転の良さが特殊能力に感じてしまうが。

などと思ってる当の本人は….はぁ..。

「よぉっ! お前も能力者なんだろ!?」
突然家に現れた〝+じゃないタイプ〟に喧嘩を売られている。いや、おそらく本人にとっては+なのだろうが、そんな事はどっちだっていい。

「…何?」
わかりきっていたけど敢えて聞いてみた。俺に機転をきかしてやれる能力は無い。
「やる気の無い奴だ、まぁいい!
オレと勝負しろ!」
そういう訳だ、たまに家に訪れる〝力を試したい〟タイプの能力者。俺はこれを+じゃない奴と呼んでる。そしてこのタイプは大概必ず…

「フレイム・ブラスト!!」

「うおっ..!」
自ら名付けたそれっぽい技名を叫んで先制攻撃してくる。失礼なもんだ、挨拶代わりに殴ってくるとは

「……むっ!?」

だが本当に嫌なのはそこじゃない。

「..ったく、痛ってぇなぁもう..。」
本当に嫌なのは…

「お前、まともに食らったハズじゃあ..?」
またガッカリしてるか、そりゃそうだよな。

「もう治ったよ、跡形もなく。」
これを明かすと、喧嘩を売ってくるやつは後で皆同じ顔する。つまらなそうな手応えの無い顔。

「俺、不死身なんだよ」
もう見たくないんだけどなぁ、あんな顔

「…そうか、成程な。」
そう言い残すと火を放つ大男は背中を向けて去っていった、寂しそうな重たい背中。

「はぁ..。」
こんな能力(もん)、無いようなもんだろ….。

「..どう活かせってんだよ?」
俺もまた〝+じゃない奴〟なんだよなぁ..。

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