現代勇者(短い小説)
世界を邪悪な闇によって支配した大魔王グライオスによって人々の豊かな生活は絶望へと変わった。このままでは人類は滅亡してしまう。人々はやがて救いを求めるようになり、天に祈りを捧げるようになっていく。
誰か、誰か助けてくれ…世界の平和を取り戻してくれ
叫びに呼応するように天界から一振りの刃が降り注ぐ。とある村の青年カラフはそれを引き抜くと勇者と崇められ、人々の期待を背に魔王へと立ちはだかるのだった….!!
「ぐ、ぐおぉぉぉぉっー!!」
大きな音を立て倒れる黒い体、長い間世界を支配していた魔王がようやく勇者に切り倒されたのだ。
「……あ、倒した?」
空の闇が晴れ青々とした色を取り戻す。
「ふふ..流石勇者、冷静だな。トドメを刺すがいい…人々の期待を背負っているのだろう?」
突っ伏しながらも勇志を讃え、世界から消え去る事を受け入れる。
「いや、いいよ別に。倒したし」
勇者はそう答えると剣を鞘に納め、背を向ける。
「待て待て待て!
どういう事だ、何故トドメを刺さない!?」
去ろうとする勇者を慌てて止め問いただすと勇者は振り向き、冷めた顔つきで口を開く。
「..だって、もう倒し方わかったし。」
〝滅ぼされても平気だ〟簡単に言ってのけた。
「え…、いやでも!
次会った時もっと強くなってるかもよ?
第二形態とかもし増えてたらどうすんのさ!?」
全力をもって負けたばかりなのだが、次なる進化を考え半ばムキになって再び問う。
「その前に倒すよ。なんかここ来る前に色々な王様とかにすごい大金もらったからその辺の兵隊とかにいい装備買ってさ、倒し方教えれば誰でも勝てるようになるでしょ?」
魔王の弱点は把握済み、パターンさえ押さえれば誰でも倒せる。そんな域にまで既に勇者は達している
「む、無理ですぅ〜!!
私はその伝説の剣でないとダメージ与えられません、残念でした〜!!」
魔王の特権〝チート能力〟を大きく掲げ選ばれし者だけが倒せるという事を存分にアピールする。
「…いや、この剣簡単に作れるよ。」
「マジで!?」
魔王が闇で世界を覆ったのは随分と前の話、現代の世界では伝説の剣をつくる事など造作も無く簡単な事。勇者が旅に行った後、伝説の剣は各地のお守りとなり皆が腰に携えている。
「大体の人持ってるよコレ。」
「……私もう支配すんのやめる..。」
倒れた拍子に床に打ちつけた箇所が、今更痛い。
「これから何すんの?」
「……」
勇者からの問いに、魔王は小さく答える
「..カフェ、開くよ。」
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