もう時効なので書くよ #032 Pat Torpey(MR.BIG)の想い出
いつも笑顔だったパット・トーピー(Ds.)は色々な意味でMR.BIGの要でした。
新宿の中心で「落ち着いて!」と焼き鳥に叫ぶ
1996年のアルバム”Hey Man”のプロモ来日の時だと思います。フジテレビの「笑っていいとも!」のゲスト出演が決まり生放送のため新宿のスタジオアルタに入りました。控室はメチャ狭く、そこに大男4人も居るので、もうギュウギュウの状態で、簡単な打ち合わせの後メンバーが小腹が空いたと言うので、その辺のデパ地下などからスタッフが買ってきてくれた焼き鳥とか焼きそばとかを狭いテーブルに広げました。焼き鳥は塩焼きでタレが別についていたのを横にいたポール(G.)に「かけていいい?」と訊いたら「Awesome!」と言うので、かけようとしたら向こうからパットが「Hey,Shuji!Take it easy.Don’t do that.(お、落ち着いて!タレはかけないで)」と叫んでいる。その時はこの人の食の嗜好を知らなかったので「ん?」となりましたたが、実は彼、食材はなるべく素のままで頂く、コレステロールやカロリーに気をつける、など食のルールを持つ人でした。
食にこだわりのある人だった
例えば、ライブの時のケータリングにホットプレートが用意されていて各自好きなもの焼いて食べる時、目玉焼きを作っている彼を見ると黄身抜きの白身焼き(すでに目玉焼きとは呼ばないか)にパラっと塩だけふってトーストに乗っけて食べていたり…。でもそのくせ、甘いものが大好きで「パンケーキは(よく宿泊したホテルの目の前にあった)新宿西口のDenny’sのがサイコーに美味しい。あれにメープルたっぷりかけて…」と思い出して遠くを見つめていたり…。日本食が大好きなMR.BIGのメンバーの中で、彼は純粋アメリカン派でしたね。
いつも笑顔の彼が、一度だけムッとした話
パットといえばいつも笑顔の印象で、少なくとも怒ったところは見たことがありません。いつだったか私が盲腸炎で手術した話をしたら…
「appendicitis!(盲腸炎)、ボクもやったよぉ!1994年かな?え!?シュウジはお腹切ったの?ありゃぁ〜(ニコニコ)」
「え!?パットは薬で散らしたの?」
「違う、違う!いい手術があるんだよ!お腹の左右に二箇所穴を開けてそこからワイヤーを入れて切除するんだ。ボクなんて翌日にはもうドラム叩いてたよ(ニコニコ)」
別な時に日本の温水洗浄便座の話になった時も…
「ああ、あれね!?ホテルについてるよな。ボクは使わないけど、自宅でさ冬の朝(便座に)座る時冷たくてウヒャー!って(と目をまん丸にしてみせる)なるじゃない?あの時だけは日本のトイレが恋しくなるよね(ニコニコ)」
と、いつも笑顔でした。
サプライズパーティで涙を流した!?
あるプロモ来日の最終日、サプライズを仕掛けました。夜8時、全てのプロモーションが終わったと思っていたメンバーに「ゴメン、急に一本だけインタビューが入ったのでこれから全員スタジオに連れて行くけどいいかな?」ビリー(B.)はちょっと憮然として「やらなきゃイケないヤツか?」と言いました。パットは少し空けて「やるよ!」と。他のメンバーは「No Problem」と言ってくれました。
そしてワーナーのスタッフ十数名が待つ新宿のカラオケルームの大部屋に彼らを招き入れ、サプライズだと分かった時のメンバーのあの顔ったら! 皆で歌うカラオケにパットがタンバリンを叩いてくれたり、ビリーがはしゃぎすぎてむせ返ったり、私の歌った植木等の「ハイそれまでヨ」に涙を流して爆笑していたパットの顔は格別でした。
たった一度だけ見た仏頂面
そんなパットが一度だけムッとした顔をしたのを見たことがあります。アルバム”Actual Size”のプロモで仙台のCDショップを訪れた時でした。待ち時間にパットと控え室にいると、店内を散策していたリッチー・コッツェン(G.)が興奮して駆け込んできました。手には一枚のCDを持っています。
「見ろよパット!これ同じジャケットじゃね?」
見ると確かにそのCDには”Actual Size”と同じ画像が使われていました。MR.BIGのアルバム・ジャケットは、その殆どがパットがアルバム・タイトルに引っ掛けて写真サイトで探したものでした。つまり既成の写真を購入して使用していたわけで、別のバンドが同じ写真を選ぶ状況はあり得る話でした。
パットはそのCDを手に取りじっと見ると「Umm」と言ったきり黙り込みました。推し量るに「やっちゃったなぁ、でも仕方ないし。…そもそもジャケット作りとかボクにやらせといて、リッチーお前はこんなの見つけて鬼の首取ったような顔するわけね?」という心境だったのではなかったかと思います。しばしの沈黙...。
「OK!(と切り替えた顔をして)シュウジそろそろ出番なんじゃないかい?」
「あ、ああそうだね!スタッフに聞いてくるよ」
本当にあの一度だけでした。彼のあんな顔見たのは。
あんたが大将!
いつだったかロサンゼルスでのレコーディングに立ち会った後、パットやスタッフたちと食事に行った時、パットの奥さんも同席していて(美人さんでした)、珍しく赤ワインを飲んだ彼が奥さんに、私が如何に働いてくれているかと説明し始めました。ワインの酔いもあったのかもしれませんが、彼は急に…
「Hey, Shuji! You are the MAN(あんたが大将!,キミは最高だよ!というニュアンスのスラング)」と言ってきました。
「Pat,You are the MAN!」と返すと、
「No,I’m not.YOU ARE THE TRULY MAN,SHUJI!」と肩を叩いて握手しながら労ってくれました。
食後奥さんをエスコートしてポルシェに乗り込み颯爽と去っていくパットの姿は今でもはっきりと思い出せます。
パット・トーピーはパーキンソン病の合併症ため2018年2月7日に64歳でその生涯を閉じました。You were the truly MAN,Pat.
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