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最後の一切れ

「なんか今日のごはん、苦くない?」
「気のせいでしょ。いつもと同じよ?」

しまった…気持ちが焦ってつい入れ過ぎたのかも…
好き嫌いがなく、バクバクとなんでも詰め込むタカシの口の中に横たわる舌は、きっと何にもわかってないだろうと思っていた。
それでも念のため、ほんのほんの少しだけ紛れ込ませていた。
どうなるのか、わからない。
やがて来るその日が
いつなのかも、わからない。

「苦かったとしても、きっとどってことないよ」
「うん」

タカシのよいところはバカがつくほど素直なところだった。そしてまた箸をのばす。
私は“ふり”だけをして箸を下ろし、お茶をすすった。

「ごちそうさま」
「え?もういいの?」
「うん。もうおなかいっぱいだからあとはタカシが食べて」
「うん」
タカシのうれしそうな笑顔に少しだけ心の端っこが痛んだ。

「うっ…」

夜中にベッドの隣でタカシが小さく呻き声を発した。

「レイコ、俺、なんか変なんだけど…やっぱりアレ…うっ…」

身体を丸くし、腹部を押さえながら私をみつめてくるタカシの苦しそうな顔に“ごめん”と呟いて、上がりそうになった口角をギュッと一文字に結んだ。



ほんのりといつもは感じない苦味があったのでインターネットで検索をしてみたら、ズッキーニの極端に強い苦味は毒素だそう…とわかった時には最後の一切れでした。

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