見出し画像

台湾のお弁当、便當(piān-tong:ペントン)

 台北でそれなりにボリュームもあって、値段も高くない食事を一人だけでしようと思ったら、円卓が並べてあるようなレストランには行かず、食堂風のたたずまいの店に行く。宴会ができるような形式のレストランでも、一人だけでの食事が割と安く食べられる店は存在するが、一般的にレストランスタイルの店だと4、5人ぐらいで一緒に食事をしないと経済的ではない。

 ボリュームもあって、値段も高くない食堂料理と言えば、お皿やポリスチレンペーパーの四角いトレイにライスが盛られ、その上に肉か魚の料理が一品と付け合わせの野菜や惣菜が2〜4品のせてあるものだ。付け合わせの野菜や惣菜は店側で決められたものが入れられる場合もあるし、客側が数多くの選択肢の中から自由に選べるスタイルを採用している店もある。

 店内で食べる場合はスープとお茶が飲み放題であることが一般的だ。そして、店内で食べるのか弁当のように紙箱に詰めてもらってテイクアウトするのかも選択できるシステムの店がほとんどだ。だからなのか、こういう類の料理の総称は便當(piān-tong:ペントン=弁当)と呼ばれることもある。「今日の昼はどこどこの店で便當を食べた」といった会話もよく聞く。

 また、魯(滷)肉飯(ló͘-bah-pn̄g:ロォバァプン)のように本来は小さいお椀のライスの上に細かく切った豚肉を醤油で煮込んだものがのっただけの屋台料理でも、少し大き目のお椀に入れられ、2〜3品の野菜や煮卵などの惣菜をのせて、魯(滷)肉便當(ló͘-bah-piān-tong)という名称で提供している店もある。

 肉料理の便當には豬肉(ti-bah:ティーバァッ)、雞肉(ke-bah / koe-bah:ケェバァッ)、羊肉(iûⁿ-bah:イウバァッ)、鴨肉(ah-bah:アーバァッ)、牛肉(gû-bah:グウバァッ)などが使われる。定番中の定番は炕肉飯(khòng-bah-pn̄g:コンバァプン)であろう。これは皮付きの分厚く大きい豚バラ肉をトロトロに煮込んだものがライスの上にのっている料理だ。日本式中華料理の豚肉の角煮に形が似ているものもある。

 この炕肉飯は台湾北部でよく使われる名称であり、南部では魯(滷)肉飯(ló͘-bah-pn̄g:ロォバァプン)という名称が使われている。しかし、北部で魯(滷)肉飯と言ったら、皮付きの脂身の多い豚肉を細かく刻み、醤油ダレで煮込んで、煮汁と一緒にお椀の中のライスにかける屋台料理のことを指す場合が一般的だ。

 この炕肉飯と人気を二分するものに排骨飯(pâi-kut-pn̄g:パイクップン)がある。これは日本式中華料理のパーコー飯とかパイコー飯と呼ばれているものと類似した料理だ。台湾の排骨飯は平たく手のひらぐらいの大きさの豚の排骨(骨つきあばら肉)を揚げて、ライスの上に載せたものだ。排骨の調理法は店によっていろいろだ。小麦粉を溶いたものを塗って柔らかい食感になるように揚げた排骨と、サツマイモの粉や小麦粉、パン粉などの衣を付けて油でカラッと揚げた排骨の2種類に大きく分けられる。しかし、肉を直接揚げただけの排骨もあるし、衣を付けて揚げた排骨をさらに煮込んで仕上げたものもある。

炕肉飯(khòng-bah-pn̄g:コンバァプン)
排骨飯(pâi-kut-pn̄g:パイクップン)

 他の豚肉料理の便當には豬跤飯(ti-kha-pn̄g:ティーカァプン=豚足)、腿庫飯(thúi-khò͘-pn̄g:トゥイコォプン=豚の後ろ脚の付け根あたりの肉)、紅糟肉飯(âng-chau-bah-pn̄g:アンツァウバァプン=紅麹入りの衣を付けて揚げた豚肉)などがある。

 鶏肉料理の便當は雞腿飯(ke-thúi-pn̄g:ケェトゥイプン=鶏の骨付きもも肉を煮たり、焼いたり、揚げたものがご飯に載っている)に人気がある。鶏肉でなくアヒルのもも肉をつかった鴨腿飯(ah-thúi-pn̄g:アートゥイプン)も人気で、雞排(ke-pâi:ケェパイ=チキンカツ)や煎雞腿(chian-ke-thúi:ツェンケェトゥイ=チキンソテー)を使った便當もある。

豬跤飯(ti-kha-pn̄g:ティーカァプン=豚足)
雞腿飯(ke-thúi-pn̄g:ケェトゥイプン)

 魚を使った便當は鱈魚(soat-hî:ソアッヒィ=たら)や蜇‬魚(thē-hî:テェヒィ=まんぼう)、花飛(hoe-hui:ホエフイ=さば)、塗魠魚(thô͘-thoh-hî:トォトーヒィ=さわら)などをフライにしたものが多いが、虱目魚(sat-ba̍k-hî:サッバッヒィ=ミルクフィッシュ)などの白身魚を蒸したり、煮たりしたものを使った便當や秋刀魚(台湾語発音はsàm-mà:サンマ)などの焼き魚を使ったものもある。

 また蝦卷(hê-kńg:ヘェクン)と呼ばれる魚やイカのすり身にクワイやエビを混ぜて、湯葉で巻いてから揚げた惣菜を使ったものや、小卷(sió-kńg:シオクン=けんさきいか)などの海鮮を使ったものもある。

鱈魚排飯(soat-hî-pâi-pn̄g:ソアッヒィパイプン=たら)
蜇‬魚排飯(thē-hî-pâi-pn̄g:テェヒィパイプン=まんぼう)
花飛飯(hoe-hui-pn̄g:ホエフイプン=さば)
塗魠魚飯(thô͘-thoh-hî-pn̄g:トォトーヒィプン=さわら)
虱目魚肚飯(sat-ba̍k-hî-tó͘-pn̄g:サッバッヒィトォプン=ミルクフィッシュ)
蝦卷飯(hê-kńg-pn̄g:ヘェクンプン)
小卷飯(sió-kńg-pn̄g:シオクンプン=けんさきいか)

これら便當の値段は地域やお店にもよるが、2022年現在で、だいたい50元〜120元(日本円で約200円〜480円)ぐらいだ。便當の数量をいくつかまとめて、電話注文をしたら、バイクで配達してくれるお店もあり、特にオフィス街ではこういうシステムを採用している店が多いし、こういうお店を宣伝するビラ配りをしている人達もよく見かける。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?