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桃源郷と、怠惰な自分。

山での暮らし、というのは、当然だけれど手間暇がかかる。しかし都会のストレスみたいなことは少なく、「別世界のように快適だな」と思う日と「私に田舎暮らしなんて無理だったんだ…」と落ち込む日と、日によって気持ちが全然違う。

こちらに来て半年経つので、大変だ〜!という事と、楽だ〜!という事を書いてみる。

・一番大変なのは買い物で、車で1時間かかる。それも山道なので運転の慣れない私は買い出しに行くと2〜3時間は動けなくなるほど疲れる。私は、月に2回くらい、意を決して街に行くが、地元の人は毎週のように行き来していて、中には毎日通勤している人もいるので、慣れるということなのだろうか…。

・頼りなのはネットショッピングで、しかしネットで買うと高いな〜みたいなこともよくあって、私はこれも苦手。都市部に居た頃から苦手だった。比較検討していると膨大な時間がかかるし、値段を気にしないでエイヤと買う度量が必要なのかも。

・じゃ、頑張ってリアル店舗で買い物したら良いかと言うと、そうでもなく、山に近いほど物価は驚くほど高いし(富士山頂のうどんが高いのと同じ。輸送費)、街まで出てもやはり都市部よりは高い。カルチャーショック。ガソリンもめちゃ高い。ちなみに光熱費も高い。

・情報にうまくアクセス出来ない。これは私の個人的な能力不足という問題も。地域や学校行事がたくさんあって、それらは回覧板で回ってきたり防災放送とかで流れ、ネットとかには掲載されていないので一度逃すと終わり。あとは近所の立ち話とかでフォローするものなんだろうけれど、私のコミュニケーション能力は下の下なので、それも叶わず、何度行事をすっぽかしたことか。あと、うちの場合、こどもがプリントを持って帰って来ない!もしくは、家で紛失!という時もちょくちょくあって、学校行事を何も知らないまま当日を迎えることも。

・買い物だけでなく、すべてが遠い。障害のあるニンタ、別にしばらく福祉サービスなしで暮らしたっていいだろう、と思っていたけれど、医療証などは更新手続きをしなければいけないし、やっぱり発達相談先も確保しておくかと探し始め、持病があるから念の為、近くの医療もつながっておくかと動き出したら、全部遠い。習い事ももちろん全部遠い。(もちろん地元の人にしてみたら別に遠くないらしい!)

・電車がすぐに止まる。遅れる。よくここに線路を通しましたね、という場所を走るので、仕方ないし、電車があるだけでありがたいのだけれど。悪天候でなくとも、各駅停車でトコトコ何時間も移動するので、数時間後の新幹線の乗り継ぎなど予定していると、びっくりするくらい遅れていて(しかも遅延の車内放送もなく)、大慌てすることも。電車でも時間に余裕を持って移動しないと大変なことになる。もちろん本数もめちゃめちゃ少ないから一本逃したら、それはもう…。

・虫と雑草。これは来る前から話には聞いていたけれど、本当にすごい。虫はなんとか頑張れるとして、家に小さいカエルが入ってくると私はかなり怖い。雑草はもう諦めていて、頑張りすぎないように、気が向いた時に整えている。

・地域の集まりが朝早く夜遅い。さすがに農家は早起きだな!と感心していたのも束の間、仕事を終えた人が来られるように設定された集まりは夜遅い。なんというか、皆さん働き者なのだ。かつて、私はこどもを20時に寝かせていたのだけれど、18時半集合20時半解散(もちろんその後家で夕飯)、なんなら20時集合、とかもザラにあるので、もう早く寝るのは諦めた。シングルマザーという想定はないのだと思う。ちなみに学校も朝早く、終わるのも遅い。先生も働き者で頭が下がる。

・外食の選択肢が少ない。あるにはあるけれど、とても少ない。うちは食事制限が必要な子がいるので更に。休日に出かけるにしても、途中でコンビニでお昼買って〜、ということが出来ないので(コンビニなし)、お弁当を作らないと遠出は出来ない。

もちろんいいこともたくさんあって。

・満員電車と渋滞は無縁。

・山には小さい診療所しかないけれど、待ち時間は少ないし、処方薬は診療所になければ隣町から家に届けてくれるシステムで、午前に受診したら午後には届くので薬局での待ち時間もナシ。あと、大人もこどもも皮膚科でもケガでも内科でも、全部同じ先生が診るので一度に済む。大きな病気は隣町に行ってね、のパターンだけれど、そこも空いている。

・役所の手続きも待ち時間がない。あと、皆さん顔見知りだからなのか、雰囲気がやわらかくて威圧的な対応をされることが皆無。(しかし、「今日は福祉課が全員出払っています」みたいな日もあるので、突然行くと誰も居ないことがある)。

・教育委員会も、驚くほどフレンドリー。私が教育委員会(総勢4名程)に手続きに行って車で帰ろうとしたら、歩いて戻ってきた教育長を遠くに見かけた。学校でよくお会いするからか、大きく手を振ってくれて、私も振り返す。以前の土地で伏魔殿のようだった教育委員会との違いをしみじみと感じた。

・ご近所さんが、なにかと野菜とお菓子をくれる。手作り惣菜、手作りパンもよくもらう。

・平日、保護者が学校でウロウロしていても何も言われない。用事のついでに作品を見たり、授業を見たり、立ち話してもお咎めなし。図書館で本も借りられる。休日も校庭は出入り自由でボールも置いてある。とにかく学校がオープン。先生も近くに住んでいる人が多く、休日に一緒に遊ぶことさえある。

・学童がない代わりなのか、サマースクールがあって、夏休みも学校に行く日が多い。お弁当は大変だったけれど、地域の人が交代で夏休みの宿題を見てくれるし、体育館も自由に使って良いし、おやつの時間もあるし、アイスの差し入れも毎日のようにあるし、こどもたちは楽しかった様子。ちなみに中学生は受験勉強を学校で出来て、これも良かった。(学習塾は存在しない)。

・学校が朝早くて帰りも遅い、と書いたが、これは授業前と授業後、外遊びの時間があることも大きく、しかもこれは先生が一緒に遊んでくれている。先生…ありがとう…。

・こどもが勝手に友達の家を行き来して遊んでいる。以前の土地では、公園や児童館で遊ぶのは良いけれど、互いの家に行くのは親同士が連絡先を交換して約束するのがお決まりだった。しかし、こちらにそういう文化がないので、こどもが全て勝手に決めてくる。もちろんうちになだれ込んでくる事もあるから、「家を片付けてから」とか「その日はおかあさんが居ないから」などと言わなくなった。私は、こども達が遊んでいる横で昼寝出来るまでになった。

・同調圧力をあまり感じない。地域行事はたくさんあるけれど、参加しなかったからどうこう、みたいな事がなく、興味ない人はあんまり来ないし、来たい行事だけ来る人もいるし、みんなそれぞれ自由にしている。私は日が浅いので、いろいろ知りたくて出来る限り参加している。

・PTAがあるんだかないんだかわからないほど圧がない。地域行事と学校が地続きで、やる気のある人がどんどんやっているので、どこからどこまでPTAの仕事なのか分からず、私もたまには掃除などで参加しているけれど、まだお客さんというか訳がわかっていないので「これをやらなきゃ!」みたいな事が今のところなくて、周りに甘えている状態。

大変なことは土地に由来していて、快適な事はヒトに由来している。私がよそ者だから許されて生きているだけかもしれないけれど、どちらにせよ、許してくれているんだから優しすぎる。

ただ、残念ながら私はあんまり体力もないしマメに働きもしないので、山の暮らしに向いている人間とは言えない。

一気に食べ頃を迎える旬の野菜は上手くさばけなくて同じメニューばかりになるし、お庭をきれいに保つことも出来ないし、運転はなるべくしたくないから、冷蔵庫はたいていスカスカ。

長く住めばだんだん変わっていくのか、そうではなくて、私はどうやったって山に向かない人間なのか。

でもそんな怠惰な私なのに、都会の方が合っていたとも思えない。

山に来て、私だけがめちゃくちゃ大変に感じて参っていて、周りはすごい人ばかりで、もう無理と思う時もある。

こちらでは、こまめに家をきれいにし、こまめに買い物もし、おいしい惣菜やお菓子をどっさり作り、家庭菜園も美しくて、趣味も充実していて、仕事までしているスーパーマンが、本当に居る。

どこで暮らそうとスーパーマンになるのは無理なんだけれど、ちょっとお粗末過ぎる新参者の私。

私もいつか、山の暮らしはただ快適なだけ、って言えるようになりたいなあ、と思いながら、慣れない事に挑戦し続けている。


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