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「BILLY ELLIOT」2020(1)

リー・ホールに捧ぐ

僕を優しく抱き上げて
どこまでも高く 空の向こうまで
夜の闇を突き抜けて
いつか大空へ飛び立とう
周りから拒絶されても
世間から見捨てられても
新しい明日を見つけ出そう
その願いが叶ったとき
僕らは誇りに思うだろう
道を進むのは1人じゃない
いつか必ず戻って来る
僕らの故郷に

これは、ビリーが一番最初に歌う歌詞である。まさにビリー・エリオットの物語の始まりにふさわしい歌詞でありビリーの未来を暗示している。

プロローグにさりげなくこの歌詞を忍ばせるだけでなく、スモールボーイに🆒と言わせたところが脚本家にして作詞家リー・ホールの鬼才たる所以である。

この鬼才の歌詞に曲をつけたのが、もう1人の鬼才、エルトン・ジョン‼️
歌曲のみならずダンス曲に至るまで、このミュージカルに相応しい楽曲は私達聴衆を魅了して止まない。

そこに躍動的なダンスが加わることで私達の胸の高鳴りは頂点に達する。振り付け師ピーター・ダーリングの功績は計り知れない。

また、私の大のお気に入り15分間に及ぶ「Solidarity」の構成を始め、ミュージカルの全体をまとめあげた監督の功績も忘れてはいけない。映画「BILLY ELLIOT」監督のスティーヴン・ダルドリーは私のお気に入りの監督の1人である。

ステーホームで久しぶりにDVDを視聴したのをきっかけにミュージカルの存在を初めて知った。ロンドンのライブ版を何度も視聴して衝撃を受けた。これが果たして日本でできるのか?それとも杞憂に終わるのか?

日本公演の感想

先ずはマイケルから。ザック・アトキンソン演ずるマイケルは生き生きとしたコミカルな演技と歌の上手さと内面の表現力で、お客の心を掴み、自分の舞台を仕切ってみせた。マイケルに成りきる覚悟がしっかり出来ていたのだろう。
祖母役のアン・エミリーについても同じことが言える。彼女は83歳であのパワーだ。日本のマイケル役と祖母役には、もっと、はっちゃけて欲しかった。でも、それを要求するのは酷かもしれない。日本と英国とでは文化が違い過ぎる。

主役のビリーは良かった。東京公演で3回、大阪公演で1回観劇したが、すべて海琉ビリーの公演にした。決め手は歌の上手さだ。エルトン・ジョンに敬意を表するためである。海琉ビリーの演技は哀愁を帯びるとともに自由を阻む壁を突き破って前進しようとする力強さを哀愁を帯びた歌声とキレッキレのダンスで表現し、見事にビリーを演じ切った。

橋本ダディと安蘭先生は声が良く通っていた。ビリーを支えるキャストの皆さんの声量もロンドン版を凌ぐ力強さで感動した。日本公演第8場面の「Angry Dance」は日本の方が仕掛け満載で迫力満点だった。

また、お父さんがビリーの願いを叶えてやる為にスト破りに加担しようとする場面でのガードフェンスの動きがスマートだった。混乱している様子が効果的に表現されていて演出の妙が見て取れた。

それにしても日本のミュージカルはレベルが高い。ロンドン公演と比べても引けを取らない。今回のミュージカル公演は、ロンドン公演の構成、振り付け、台詞、生演奏、衣装、そしてセットに至るまで全て忠実に再現されていた。これはホリプロの本気度を示すもので、ホリプロの誠実さそのものである。 

いくつかの改良点も見て取れた。

一つ目は、半透明のスクリーン(紗幕?)の使用だ。映像と舞台を重ねて見せる技法には感心させられた。

二つ目は、ヘルメットライトの当て方だ。日本版では、肩車されたビリー1人だけにヘルメットライトを被せ、客席へ照射させた。短い時間だったが、舞台と客席との距離が縮まったように感じた。

三つ目はビリーの退場の場面でマフラーを口に巻いていたことだ。感染対策の一つだが何とも切なかった。

観劇してから2週間程経過したが感染の兆候はない。ホリプロのような徹底した感染対策をしている所なら、安心してミュージカルを観劇することができる。

日本公演は2017年に続いて2回目だ。ロンドン公演を凌ぐミュージカル「BILLY ELLIOT」を継承していくのはホリプロにしかできない。

それがホリプロらしさだ。

いつか必ず戻って来て欲しい。自由を求めて、僕らの故郷に。

(See you)