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【コウラン伝】始皇帝の母のドラマとは?予習をしてみた

 今、中国歴史ドラマや映画が熱い! 『陳情令』はメガヒットを記録しております。

 え、そうだっけ? 思えば昔見た中国のドラマといえば……『三国志』のエキストラが派手なものとか。
 ワイヤーアクションで飛ぶものというイメージがありました。最近の中国のドラ マはどうなのか?
 とても気になったので、この道に詳しい梅有仁氏を「三顧の礼」で口説き落とし(※という設定です)、来たる『コウラン伝 始皇帝の母』について聞いてみました。
 BSプレミアム 5月10日(日)夜9時スタートであったものの、新型コロナウイルスの影響もあって延期となりました。
 延期のお供として、こちらで予想をしていただければと思います。

ドラマはプロデューサー次第

武者:これはこれは梅殿! 貴殿は中国歴史劇にお詳しいと聴きましたぞ。「天下三分の計」のごとき所感をお聞かせいただけぬか。

梅:その時代劇口調、もうええから……。

武;そ、そうですね。じゃあ普通に語ります。まず題材ですが、始皇帝の母! あの人気作品『キングダム』人気狙いですかね。熱いじゃないですか! いやあ、私も興味津々です。最新の研究反映されますかねえ。

梅;せやろか? 実はこの依頼もな、『キングダム』ファンが卒倒したらあかんやろ。そういう気遣いゆえでな。

武:まあ、『キングダム』ファンは、困難に強いとは思いますよ。いろいろあったし、ほら!

梅:不穏な方向に話持っていくのやめーや。

武:で、では。題材はよいとして。この主演ですが、流石綺麗ですね〜。衣装も素晴らしいし、セットも豪華です。

梅:そういうのはもうええから。大河レビューしとるやろ。あれでまず、主演を見るか? どや?

武:主演は大事ではあります。ただ、やっぱりスタッフも気になりますね。

梅:ハッキリ言うとくわ。『花燃ゆ』と同じプロデューサーが同じドラマはどや!

武:せわぁない。期待ゼロどころかマイナスですね。

梅:そこやで。『コウラン伝』の于正(ユー・ジョン)。これがな。じゃ、そのやらかしを語ってくわ。

武:でも経歴を見る限りは、まともですけどねえ。

梅:おにぎり大河プロデューサーもせやで。

武:うーん、説得力が半端ないな。でも朝ドラ『エール』で、再登板できたじゃないですか。

梅:あれはなんなんやろな。

武:インパールで牟田口として出すためでは?(※古関裕而はインパール慰問で牟田口と牛肉を食べています)

梅:それは見たなるわ。ええんちゃうか、最高ちゃうか! まあ、あのヌルいドラマ、どうせ戦争やらんやろけど。

中国時代劇『コウラン伝』プロデューサー于正って何者?

梅:じゃあ、ざっと説明するで。
于正(ユー・ジョン)は、中国エンタメ界の大物である。香港の李恵民(レイモンド・リー)監督のもとで脚本家としての修業を積み、2000年代半ばごろから脚本家、更にはプロデューサーとして名を馳せるようになる。得意ジャンルは宮廷物で、スピーディーな展開と華麗な衣装が売り。また新人やブレイク直前の俳優に目を付けて抜擢し、スター・ダムに押し上げる辣腕ぶりでも知られる。

武:香港で武侠映画なんか作ってた方のもとで。へえ。いいですねぇ。

梅:じゃあ、作品を見ていくわ。

日本での放映あるいはソフト化済み作品
『宮廷の泪・山河の恋』https://www.bs-tvtokyo.co.jp/sanganokoi/
『後宮の涙』http://www.cinemart.co.jp/kokyu_namida/
『雲中歌~愛を奏でる~』http://www.cinemart.co.jp/unchuka/

BS12にて放送予定
4月29日より『瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』
https://www.ch-ginga.jp/feature/eiraku/https://kandera.jp/sp/eiraku/https://youtu.be/76OyrXtdQlo

武:素晴らしいじゃないですか!

梅:せやな。『瓔珞』の番外編『金枝玉葉~新たな王妃となりし者~』はNetflixで全世界に配信され、世界デビューを果たしとるで。

武:じゃあ、どこが不安なんでしょう? 敏腕プロデューサーじゃないですか〜。

梅:まあ、このへんは誰でも辿り着けること。『コウラン伝』決めた人もせやろな。超絶に優秀なプロデューサーのように見えるが、実のところ于正は中国ドラマ界の問題児でな。これまで数々のやらかしをしてきた。それをいくつか取り上げてみる。その前に、『瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』の見所、見逃せない名場面をあげてみるわ。

武:ワクワクしますね!

辮髪ロマンスも于正におまかせ!『瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』

梅:2018年『瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』。清朝の最盛期乾隆年間を舞台にした宮廷物やな。

武:そこ気になってました。最近、アプリ『アイアム皇帝』あたりでも、清朝の宮廷ロマンが増えてますね。着せ替えゲーム『ミラクルニキ』でも、清朝の衣装は人気です。中国語圏では、若い女性が時代物を好んでいる状況があるとか。日本もそうなればいいですね。

梅:だからこそ、于正から学ぼう! さて、ここでプロットを説明するで。ヒロイン・魏瓔珞(ぎ・えいらく)は後宮での寵愛争いが目的ではなく、同じく宮廷に出仕して不審死を遂げた姉の死の真相を知り、復讐を果たすのが目的や。

武:なにその、大奥ものかと思ったらサスペンスだった展開?

梅:そういう意外性がええんやで。後宮での出世はあくまでもそのための手段よ。寵愛争い自体は目的ではなく、かつヒロインが知謀を具えているという設定は、于正の出世作『美人心計』を連想させる。これについてはあとで説明するわ。

武:なんかそういう需要があると。後宮で殺し合いかあ。

梅:主演女優の呉謹言(ウー・ジンイェン)は三白眼が印象的な女優や。間違ってもかわいらしいという印象ではない。

武:二階堂ふみさんに殺気を散りばめたような美人ですね……。殺伐宮廷劇かあ。人気はどうだったんです?

梅:中国ではこれと同時期に、やはり清朝乾隆年間を舞台にした宮廷物『如懿伝~紫禁城に散る宿命の王妃~』が配信されとったが、クオリティはともかくインパクトでは、スピーディーかつ意外性のある展開で攻める本作が圧倒。

武:どういうインパクトなのでしょう?

梅:やらかしという意味でのインパクト。笑えるやらかしや。乾隆帝の誕生日を祝う宴で後宮の后妃たちがそれぞれ趣向を凝らした贈り物をするわけやが、ヒロインの敵役となる高貴妃は、乾隆帝の祖父康熙帝の時代に西洋より伝来した洋楽器を使い、宮中の楽師たちにパッヘルベルのカノンを演奏させる。

武:何を言っているんだかわけがわからねえ!

梅:ワイはこの場面を見ていて、何だかパッヘルベルのカノンのような音楽が流れてきおったと思ったら、辮髪姿の楽団が現れて本当にカノンを演奏しとって、度肝を抜かれたわけよ。読者諸氏も題材に興味はなくてもこの場面だけは一度目にしてほしい。

武:う、うん、それは見たいか、も? 辮髪カノン、辮髪で、カノン……。

梅:まあ、その程度のやらかしは無害なもんよ。本作は于正の衣装や造型美術へのこだわり、ストーリーのテンポの良さ、そしてハッタリと、于正の良い所がうまく噛み合った、彼のキャリアの集大成と言うべき作品や。『瓔珞』は中国のレビューサイト豆瓣(ドウバン)で2020年4月1日現在7.2の比較的高得点を維持している(10点満点中)。

武:へぇ。なるほど! 期待できますね。

梅:なお、同サイトで『美人心計』は7.6、『月下の恋歌』は5.4、『神雕侠侶』は4.6の評価となっとるで。参考までにな。『瓔珞』はウェブ配信ドラマとしてリリースされた後、テレビ放映も順次開始されとる。されど、好事魔多し。

武:何があったんです?

梅:2019年1月末のことや。中国国内のラジオ・テレビの統制を担う広電総局(国家広播電視総局)の指導により、社会的に悪影響を与えているとして、『瓔珞』や『如懿伝』といった宮廷物が槍玉に挙げられ、テレビでの放映や再放送が差し止められるという事態となった。ただしネットでの配信は継続。

武:最近じゃないですか。そういうことがあるのが、中国の難しさですね。さしもの于正も落ち込んだことでしょう。

梅:せやろか? そんな最中、于正は微博(ウェイボー)の自分のアカウントで、こんな騒ぎなど知らぬとばかりに当時配信中だった新作『皓鑭伝』の好評に感謝というコメントを投稿しとったで。『皓鑭伝』、もうわかるやろ。『コウラン伝』の原題や。『瓔珞』の主演女優・呉謹言がやはりヒロインにキャスティングされとって。『瓔珞』で乾隆帝を好演した聶遠(ニエ・ユエン)が呂不韋の役やで。

武:露骨なまでの人気キャスト再登板だな。で、おもしろいんですかね?

梅:わいも見とらん。せやけど、前述の豆瓣での評価は4.8。ええか、この数字を覚えとけよ。

武:はい。でも、聞いている限り、于正ドラマには期待感があるわけですが。何がいけないのでしょう?

梅:それはな……。

男は『三国志』を見るべし、女は『美人心計』を見るべし

梅:彼の代表作のひとつであり、出世作にもなった『美人心計~一人の妃と二人の皇帝~』を取り上げてみるで。
2010年放映。前漢の武帝の祖母として知られる竇太后の若き日の姿を描いた宮廷物。同時期に放映された『三国志 Three Kingdoms』と合わせて「男は『三国志』を見るべし、女は『美人心計』を見るべし」と宣伝されたもんよ。

武:へえ。

梅;本作はただの宮廷物やない。ヒロインは後の竇太后、竇漪房(とういぼう)は、前漢の初代皇帝劉邦の未亡人・呂后にその知謀を見込まれたんや。

武:「三大悪女」ともされる呂后も絡んでくると。面白そう。確かにただの宮廷ものじゃないな!

梅:せや。これには深い理由がある……諸侯国の代国にスパイとして送り込まれるわけやけども。

武:ん? そもそもなんでスパイをするのかな?

梅;呂后は代国の王・劉恒(劉邦の庶子で後の前漢第5代皇帝・文帝)とその母・薄姫(すなわち劉邦の側室のひとり)を、自分と自分の息子第2代皇帝恵帝の地位を脅かす存在として警戒していたんやで。

武:なんだろう、その無駄な陰謀は! 要するに、夫の愛人監視役をヒロインにさせたってことですね。

梅:せや。竇漪房は劉恒の側室となって、呂后に託されたスパイとしての役目を果たせればええと。劉恒の後宮の妃嬪たちとの寵愛争いはどうでもよい。この時点で宮廷物としてはかなり変わっている。

武:大奥ものを期待したら、くノ一だったみたいな。意味がわからん……。

梅:しかし彼女は劉恒に愛され、同時に恵帝からも思慕の対象となる。

武:何その乙女ゲーじみた展開?

梅:この恵帝、史実では若くして没したことになっているが、本作では宮廷に嫌気がさして民間に姿を隠し、呂后はやむを得ず彼を死んだということにして後継者を立てたという展開になっとって。

武:ん……? 何その歴史ifというか、深作欣二映画というか、『柳生一族の陰謀』というか、なんかよくわからん展開は!

梅:そして文帝が即位すると、恵帝は愛する竇漪房をサポートするために、彼女の生き別れの弟・竇長君と称して宮廷に上がることになる。

武:なんだその無駄な生き別れ設定。いやいやいや! それ、前皇帝だったら面が流石に割れるでしょ!

梅:そらそうよ。当然、彼の顔を見知っている重臣たちはおる。恵帝は、はその重臣たちの家族を人質にとり、文帝に対して「竇長君は亡き恵帝によく似ておりますが別人です」と言わせて事なきを得るんやで! なお、文帝は異母兄の恵帝とは面識がないという設定。

武:どういう脅迫だよ。無茶の整合性合わせをした結果、意味がわからなくなるパターンだ……。すごい、『花燃ゆ』どころじゃねえ!

梅:まあ、フリーダムトンデモ展開がオンパレードの作品やけども。これが好評を博し……。

武;博したんだ!

梅:せやで。「美人」シリーズとしてシリーズ化されることになってな。「宮廷の泪・山河の恋』(原題『美人無泪 山河恋』)はその第3作や。ただしシリーズ間の話のつながりはない。

武:なんか歴史捏造するトンデモ癖がある程度なんですね。いやいや、重大ですけど。

梅:まあせやけどな。『美人心計』のやらかしは笑い話になるんやが……2013年放映の『月下の恋歌』に関しては笑えない話になっとって。本作の原題は『笑傲江湖』。

武:鉄板じゃないか! あれですね、すなわち香港の武侠小説家金庸の長編『笑傲江湖』のことか。国民的文学でしょう。

梅:せやで!

武:日本だと吉川英治と司馬遼太郎を足して、山田風太郎を混ぜたようなもんかな。じゃあ、流石にいじりませんよね……? お通がミュータントになった『宮本武蔵』とか許されませんよね? まぁ、山田風太郎の『魔界転生』原作では、お通にいろいろとやらかしてましたけど。映画版は原作からかなり変わっていたっけなぁ。

梅:それな。そういうことやぞ!

武:もう嫌な予感しかしねえ!

『月下の恋歌』東方不敗でやらかす于正

『笑傲江湖』とは?
中国で魯迅と並ぶ、知らぬものがいないとされぬ武侠小説の大人気作家・金庸の長編。金庸作品でも人気堂々ナンバーワン。映像化作品多数。中国語圏では、どの年代でも映像化された『笑傲江湖』を見たことがあるとされるくらい、ともかく圧倒的な人気を誇る。
ドラマ版である。これまでに何度も映画・ドラマとして映像化されてきた作品であり、徐克(ツイ・ハーク、香港の大人気監督)監督の香港映画版『スウォーズマン』シリーズが日本でも名高い。某ロボットアニメの人気キャラクター「東方不敗」の出典となった作品としても知られる。

梅:そういう『笑傲江湖』やけどな。この人気キャラクターが東方不敗よ。原作ではもともと男性であったのが強い武功を修得するために自宮(去勢)し、それに合わせて嗜好も女装をするなど女性的なものに変わったという設定やで。

武:ですよね。『スウォーズマン』は知ってます。あれは素晴らしかったですね! もともと男性であるという設定は変えていないものの、中性的なキリッとした美貌で知られる女優・林青霞(ブリジット・リン、台湾の女優。“大美人”と称されるほどの圧倒的な美貌で大人気を博した)をキャスティングしたんですね。これがもう、伝説的な美しさで……。

梅:せやけど、あまりにあの設定に人気が出過ぎてな。原作ではキモいおっさんだったものを美化しすぎて、金庸はご機嫌ななめになったとったわけよ。

武:そういえば、原作では東方不敗はラスボスでもないわけですしねえ。悪目立ちしちゃったんだ。そういう意味では、『魔界転生』の天草四郎みたいなもんですね。あれも原作では、ラスボスは宮本武蔵なのに、映像の「エロイムエッサイム」が目立ち過ぎちゃってねえ。

梅:そんなところやな。以来『笑傲江湖』の映像化ではもともとの設定を崩さず、東方不敗の配役や造型をどうするかが腕の見せ所となったわけよ。ほんで、于正の『月下の恋歌』では、台湾の有名女優・陳喬恩(ジョー・チェン)をキャスティングしたと。

武:彼女はキリッとしているというか、むしろかわいいなぁ。

梅:ほんで最初から女性であると基本的な設定も変更してしまったわけで。

武:あァ? ん、でもそれって、確か、ラスボスや敵の能力って、去勢をしないと手に入らない奥義由来じゃなかったっけ。それだと設定がおかしくなってませんか?

梅:それな。そもそも、明代舞台で去勢ちゅうと意味あるで。宦官が権勢ふるっとったやろ。科挙ちゅうまっとうなルートでなく、去勢っちゅうあかんルートで出世する。そういう歴史への批判もあるわけでな。
https://bushoojapan.com/world/china/2020/01/15/98985

武:それが台無しかよ! だいたいそもそも、原作って月下で恋歌を歌うようなもんでないでしょ。殺し合いをしたり、山の上でおっさんどもが天下一武闘会やってるようなもんでは? あとなんか映像版だと倭寇だか忍者が出てくる。

梅:原作にいない倭寇と忍者は忘れよう! せやな。それでだいたいあっとる。その他にも原作のストーリー展開や設定、世界観をリスペクトせず……。

武:リスペクトしなくちゃ! それがないとアレンジいかんでしょ!

梅:そらそうよ。かつ作品内で矛盾するような改変を多々行う。

武:極悪非道じゃねえか!

梅:そらそうよ。心ある金庸ファンからはブーイングの嵐となったが、于正は「本作は75%原作に忠実、アレンジは25%しか加えていない」という旨のコメントを発して無事炎上。そうなればそうなるやろ。

武:なんかもう、最低最悪に突っ込んできたな。

梅:まだまだこれからやぞ。実はここまでですら、まだ笑い話で済む部分や。

武:もう十分笑えねえ。これ、『魔界転生』をドラマ化したら、天草四郎が女になってて、柳生十兵衛と恋に落ちるみたいな話じゃないですかね。

梅:ええまとめ方やな。歴史上の人物ではないとはいえ、そのくらいのぶった切り方をしとるわ。

武:もう、わけがわからんな。

梅:ほんでな。本作のプロットに関して、香港TVB(無線電視)が1996年に放映したドラマ版のものをそのままトレースしているのではないかという疑惑が囁かれたんやで。わいも両方のドラマ版を鑑賞したが、確かにともに同じ作品を原作にしているとはいえ、「これは……」と思う箇所がいくつかあってな。

武:パクリ疑惑まであるのかーーー!

梅;『笑傲江湖』の映像版は金庸の他の作品と比べてもアレンジされやすい傾向はある。その中にあって香港TVB1996年版はかなり原作に忠実な方や。しかしそれでも多少は改変がなされとるわけで、その改変した部分が『月下の恋歌』でも踏襲されていると。「75%原作に忠実」という「原作」とは、金庸の原著ではなく、香港TVB1996年版のことであったのかもしれへん。

武;あ、それ、『魔界転生』の原作でなくて、映画の影響でどれもこれも天草四郎目立たせちゃうパターンだ。せがわまさき先生はやらなかったやつか。

梅:于正は他の作品でも盗作が指摘されとって、裁判になったものもあってな。

武;炎上王じゃないか!

懲りずに『神雕侠侶』に挑戦し、無事燃え上がる

梅:ほんで。『笑傲江湖』のドラマ化で味を占めた于正は、その後金庸の人気作品『神雕侠侶』に挑戦。

武:もう嫌な予感しかしない……。

『神雕侠侶』(しんちょうきょうりょ)とは?
金庸の作品でも『笑傲江湖』と競う人気作品。ヒロイン・小龍女は中国語圏ナンバーワンとされるほど大人気で儚げな美少女として名高い。日本でも『コンドルヒーロー』としてアニメ化されたことがある。

梅:2014年放映の『神雕侠侶~天翔ける愛~』な。ところが本作ではヒロイン小龍女のキャスティングに難航して。

武:まあ、中国語圏でも揉める美女ですよね。日本だと誰ですかね。まぁ、お市の方とか。細川ガラシャとか。儚げで絶世の美女じゃないと、暴動が起きかねない。『ムーラン』主演の劉亦菲(リウ・イーフェイ)も演じていましたし、『ミラクルニキ』でも衣装が登場していました。『ムーラン』の喪失感を、あのドラマで埋めるのもありかもしれません。

梅:そういうことやな。で、そんな作品中キャスティングが最もキモとなるキャラクター。いわば四番打者。これが主演俳優・陳暁(チェン・シャオ)のリクエストにより、台湾の女優・陳妍希(ミシェル・チェン)となる。

武:まあ、誰をキャスティングしても揉めますもんね。伝説的なだけに。

梅:これが熱狂的な原作ファンのブーイングの元となる! ご存知の通り、小龍女はクールな性格の美女で、白い衣装の似合う、儚げさがアピールポイント。

武:劉亦菲版、綺麗でしたねえ。歴代キャストも儚げで綺麗で。うっとり。

梅:ところが、ミシェル・チェンはそういうイメージからは遠い。

武:まあ、美女というよりかわいい系ではありますよね。魅力的ではあるんですけど。

梅:衣装や髪型の造型により彼女の丸顔が強調されてしまったこともあり……。

武:いやそこをなんとかカバーしようよ! 他の役ではいかんかったのか。

梅:「これでは小龍女ではなく小籠包だ」という心ない中傷も寄せられる始末よ。

武:えーそれは酷すぎるわ……。でも、どうしてそんな配役を?

梅:主演で彼女を推した陳暁は、長年のファンで。

武:ただの趣味じゃねーか!

梅:この共演をきっかけに熱烈なプロポーズを行い、2人は結婚した。

武:それは祝福してよいのでしょうかッ! でもまあ、他にも脇役が魅力的ですし。そこをフックにしてみればいいかな? 主演二人が駄目というのは痛いけれども。

梅:脇役な。主人公を取り巻く東邪・西毒といった脇役たちの過去の恋愛エピソードがストーリーの本筋を押しのけるかのように詰め込まれる。

武:いらんわ。それはいらん! あー、なにその、『花燃ゆ』で高杉晋作とその妻のロマンスが打ち込まれるような腐敗臭は……。

梅:その点も単なる水増しにしかなっていないと、心ある原作ファンの不興を買うわけで。

武:当たり前だよ! なんでそんな目に見える地雷を踏むんだよ! 

梅:ほんで自分のSNSでも、小龍女ネタを持ち出し「いやあ、ワイの小龍女叩かれとるで。もっとええ女優にしといたらよかったわ〜」みたいな投稿を、2020年になってまでしとると。

武:性格最低かよ! うん、なんかすごく打たれ強い『花燃ゆ』プロデューサーということは理解できました。さあ、どんなもんでしょう。

梅:どんな驚異的なことになっても、平常心を保ってくれとしか……。前述の豆瓣での評価は4.8。『美人心計』は7.6、『月下の恋歌』は5.4、『神雕侠侶』は4.6の評価。下から二番目というあたりに、嫌な予感がある。
武:た、た、た楽しみになってきましたね、『コウラン伝』。確かにある意味、楽しみだ……。もうこうなったら中国に『花燃ゆ』を売り込んでみたらどうでしょう?

梅:その日中同時に酷い目に遭う発想、いらんやろ。

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