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『おかえりモネ』第113回 元通りにはならないけど

 龍己と耕治は別室にいるものの、亜哉子、モネ、未知は及川父子の話を見守っています。

一緒に船に乗りたい

 亮は、中古の19トン漁船の説明をします。いい船で船エンジンも新しいって。北海道の船の主が安くしてくれたから、安心してくれ。そう言います。
「かわいがられてんだな」
 そう父は悟る。
 漁師ならではのやりとりだ。あのトン数で、エンジンも良くて、あの価格。それでも話が通るということは、好意ありきだとわかります。かわいがられているということは、誠意や腕前も認められている。そんな我が子が誇らしくないわけがない。
「親父、一緒に乗ってくれないか」
 亮がそう頼んでも、「その船はおまえの船だ」と新次は突き放します。亮は困惑しています。まだ自分の船でなくちゃ乗れないとか。立ち直れねえとか。そういうことを言うつもりなのかと。
 新次は言います。立ち直らなくても前には進めると。元に戻そうとしても戻らないものはある。元に戻そうとすると全部止まる。どんなに思っても力尽くしても戻らないものはある。そう淡々と語ります。
 それでも俺は、親父に船に乗ってほしい。船乗ってる親父を覚えてる。目の前に親父はいる。親父を戻すのが俺の人生だ。亮はそう言います。幼い頃から憧れてきたカリスマ漁師.誰よりもカッコいい親父。それを取り戻したいのは当然のことでしょう。
 新次のセンスはまだ健在です。亮がああなったとき、モネたちが気象データで弾き出したものと同じ決断を。彼はできていた。それでも、息子のためを思っても、新次はこう言うのです。
 漁師をやるのは、美波がいることが前提だと。海にいるのは、あの日で終わりにしたいと。俺は船に乗らねえ。おめえも変わった。あんときのおめえでねえ、一人前だ。おめえの船でやれ。それで十分だ。
 そう新次は語ります。
 2010年、親子三人で船の進水を祝ったあの日にはもう、戻れないのです。
 そのことを、父と子は理解したのでした。

皆の顔を見ろ

 ここでモネが耕治と龍己を呼びに行きます。ここでまたも新次は謝っています。
「ご迷惑かけてすみませんでした」
 新次は、亮も。ほんとうに謝る場面が多い。あまりにさりげないから、もう意識しなくなっちゃうかもしれないけど、気になりだすと止まりません。新次なんてあんなイケイケ漁師、カリスマだったのに。亮だって。震災がなければ、ここまで頭を下げていなかったのではないか。そう思ってしまう。
 辛い目にあったのに、さらに頭を下げ続けねばならない。そういう重さがもう何も言えなくなってしまう。
 新次は死亡届に印鑑を押します。そして耕治に、蹴りをつけてもなかったことにはなんねえかと聞くのです。
「新次、顔上げろ。顔あげて、ここにいる顔を見ろ。みんなおめえと同じ顔をしているからよ」
 そう言われて新次が顔をあげると、そこにあったのは沈痛な顔でした。なかったことになるわけねえだろ。新次、おめえは幸せになっていいんだよ。そう耕治が言います。
 新次は誰ともなく、しゃべる相手が見つからねえという。話し相手がいない。一緒に親バカだと言い合う相手がいないと言います。
 それから『かもめはかもめ』を歌い出します。美波がカラオケで歌っていた。この永浦家でも歌っていた。海を舞台にした失恋ソングが、彼と美波の境遇と重なります。
「親父、これは持ってろ」
 亮は、美波の声が入ったガラケーをそう言うのでした。

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