ザ・ボーイズ いいね!をされたいおじさんよ…
Amazonプライム『ザ・ボーイズ』シーズン2が終結しました。
コロナの時代に、ポストコロナはどうなるのか示しかねない、そんななかなかとんでもないドラマもあったものです。
Amazonは枢軸国が嫌いです! 言うまでもないでしょ
このシーズンは、BLMとバッチリ絡み合う展開となりました。先進的でSNSを使いこなすフェミニストのようで、バリバリの人種差別主義者で本物のナチスという、ストームフロントが大暴れします。
ストームフロントはまさしく本シーズン台風の目であり、巧みな存在でした。なんとな〜く、フェミニストって人権をともかく大事にするようなイメージがあるわけじゃないですか。自己認識としてもありそう。
でも、それも自分の権利内の話であって、別のマイノリティの差別はどうでもいいし。そういう邪悪なところに突っ込むんじゃないのかと言う批判は、ずっとつきまとっている課題です。
フェミニズムがどんどん広まれば、そりゃそうなりますよね。貧富、人種、職業、その他もろもろ。ストームフロントは、フェミニストは絶対正義ではないというところに突っ込んできた。
とはいえ、痴漢冤罪とか。女性専用車両は女同士の争いでギスギスしているとか。やたらとフェミニストにいじめられるムーブとは別方向で攻めてくると。それがワールドスタンダードですからね。
そんなストームフロントがドツボにはまるのは、本物のナチスだと暴露されたからでした。この暴露までの経緯が見事といえばそうなのですが……アメリカは健全だなぁ。日本だと、ここまで明確明瞭にナチス讃美が危険とみなされていないのでは? 枢軸国仲間として、世界の見る目は厳しいのに、謎の連帯感を示すことはままある。もういっぺん枢軸国として世界を敵に回したいのかな? 『高い城の男』のレビューを荒らしている場合じゃないと思いますけど。
そういう意味では、ストームフロントをキミコが殴り飛ばしていたのは安心しました。もういっぺん枢軸国の連帯を示したところで、ドイツもイタリアも絶対に乗ってこないからさ。学習しようよ!
あ、そうそう。
枢軸国時代と、現在の国家は別物という認識ですからね。普通はそうできるはずなんですけどね、普通の国際基準の歴史観ならば。
ザ・ディープの再起は?
セクハラでセブンを解雇されたザ・ディープ。彼の出番は短いながらも癒しでした。なんであいつがそうなのか?
彼には若干の同情ができなくもない。彼はお姫様のパロディのようでもある。彼はジェンダーロールとして、女性性が割り振られています。
・イイコトをする相手から、強引にエラに指を突っ込まれる苦痛。これはまさしく性被害の典型的デートレイプ。それでも相手と二人きりになっているからには「同意したんでしょ」と言われかねない
・動物とお話ができるって、まるでディズニープリンセスだね!
・あんまり個性や知性を重視されず、イケてる見た目でカレンダーを作られているあたり、グラビアアイドル扱いのよう。コスチュームもエロいしさ
・結婚で家庭的なアピールをして、復帰を狙うあたりも、なんだかな〜
なまじ、スターライトやメイヴ、それにストームフロントが自立しているだけに、ザ・ディープはより惨めにすら思えます。彼は自分が搾取されていることにすら気づいていない。やっと、ラストで気づいてきたけれども。
セクハラは擁護できないけれど、あの下劣なヒーローの中では、ましな方に思えます。彼に必要であるのは、毒となるマッチョイズムやホモソーシャルでのトロフィーではない。虐げられることを理解して、立ち上がる。そんな目覚めです。
スターライト、メイヴ、そして三人目の目覚めるヒロインとして、彼には期待してしまいます。弱さを認めることも、打開への一歩。がんばれ!
彼こそまさしく、21世紀を生きる男の子たちのロールモデルになれる、メンズリブの担い手になれる……かも。
あ、でもセクハラは駄目ですよ。けれども、あのセクハラも、彼なりにトロフィーとなる性加害をしたかったように思えなくもない。
変な宗教ではなく、理解者が彼には必要なのです。がんばれ、がんばってくれ! 弱っている人のことは、嫌いになれない。
ホームランダーがどこにでもいる時代に……
ストームフロントとホームランダーの関係が、今シーズンの重要なポイントでした。最強の存在のようで、実は結構その辺にいるんじゃないの……と示されたことは大きい。トランプ大統領に嫌味を放つ造形というのはさんざん指摘されてはいます。
けれども、もうこれは国境を超えてありなんじゃないかとは思える。日本でも、ホームランダーおじさんがいるわけですよ。
ネット炎上参加者「実は高年収」という仰天実態 「暇な若者」でも「低学歴ひきこもり」でもない | インターネット - 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/378777
分析は割と簡単。
要するに、1950年代あたりが理想であると。女性に権利なんてない。女房やガキの尻を引っ叩こうが誰も何も言わない。キャッチボール。西部劇。レモネード。家の中で女子どもが衰弱死していこうが、「こんな素晴らしい世界でありえない」とご近所は通報しません。
古き良き世界だなあ!
弱点はもちろんある。それはIT。生意気な若造ごときが、自分にない知恵を言い出す。全然話聞きませんよね。そういうことしていたら絶対だめだと言っても、聞き入れない。延々と、SONYのiPhoneをよこせと電化製品売り場で怒鳴り散らす。隣家がWifiにパスワードをかけるとキレる。
正義!
権力!
プライド!!
この三点セットで武装しているのに、知識が追いついていない。でもパワーはあるだけに、暴れ回ると辛いッス。周囲は困り果てるしかない。
そういうITはダメだけど権限はあるおじさんの権化であるホームランダーが、IT知識によってストームフロント(しかも女!)に完敗し、傷つく姿は最高でした。それに勉強にもなった。本物のナチという懐古に出会ったら、しおしおしてしまうところも情けなくて最高! パワーしかない、虚勢だけの男なんですね。
ストームフロントは共闘する一方で、メイヴがホームランダーにきっちり落とし前をつけました。それは見られては困る動画です。勉強になりますね。ハラスメント野郎は、加害をきっちり証拠に残すこと。それが基本です。ためになるドラマだなぁ。
メイヴの憂鬱と復讐
そんなメイヴは、同性愛者であることをホームランダーとヴォートに察知されてしまいます。ヴォートは、そのことをプッシュして感動ポルノを作ろうとする。アメリカではパロディにできることを、日本のエンタメ作り手は、真面目にしていると感じるニュースが立て続けに流れてきて、いろいろと思うところがありましたね……。
「ねっ? 私たちは同性愛を扱うの! 優しいでしょ、親切でしょ、泣けるでしょ!」
「同性愛者ぁ? そんなもん会ったことないからしらん」
そういう流れがね……。
それに対して、メイヴは地道な手段で反撃する。それはホームランダーの人気を決定的に落とす、そんな動画による脅迫です。
これも、現代らしいと思いました。今、まさしくオンラインを介した脅迫と承認の時代に、私たちは生きている。どんな権力者だろうと「ネットで叩かれますよ」と言われたら黙ってしまう。そういう社会です。
メイヴが強いのは当たり前かも。かつて、彼女こそが同性愛者であることを脅迫材料にされていた。ふっきれて、きっちり返す手段を身につけた。メイヴはとても現代的なヒーローです。
MVP:メイヴ
ともかくメイヴですよ。あの飛行機事故でのトラウマを乗り越えるように、ザ・ディープを使い、見事にホームランダーに釘を刺した。スマートだし、ヒーローでなくても使える手。参考にしたい!
総評:ITと承認欲求の時代
ブッチャーあたりがせっせと動くし、それが話を進めていく推進力でもあるのですが。今シーズンの決定打を担うのは、女性たちであったという印象はあります。もう、性別の問題じゃないんだよ。
女性の正義もあれば、邪悪もある。これぞ多様性ってやつ。女性が女神だけでも、それはそれでおかしいのです。
メイヴがさらっていったように見えるけれども、そこが実用的でいいと思いました。
昭和あたり、日本のホームランダーさんたちが好きそうなお話では、「世界征服」を動機に悪党がうろうろしていました。それが、承認欲求、評価をチマチマと気にするために動くのだから、世の中変わったものです。
それだけ、人間心理研究が進んだということでもある。承認欲求なんて、誰もが持っているものなんですよ。それとどうつきあうかって話。
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