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『ゴールデンカムイ』読者へギルティー・プレジャーのススメ #1 人種差別との向き合い方

 『ゴールデンカムイ』最終回を読んだファンから、悲痛な声が聞こえてきます。

「この作品を楽しんだことで、差別に加担したのではないか?」

 気持ちは理解できます。しかし、野田先生ご本人も認めているように、完璧な作品ではないのです。今はたとえ完璧だったとしても、数年後には“あの時代の限界の中ではがんばった作品”になっているかもしれません。それはそれでよいこと。時代が進化したということなのだから。

 と、小難しいことで慰めましたけど。こういう手っ取り早い絆創膏もある。
 “ギルティープレジャー^です。
 悪いとわかっていても面白いから好きなんだよね。そういうこと。夜中にポテチを食うと最高だ! そういう概念のこと。

ギルティー・プレジャーとともに好きなもの

 こういうショックを受けているファンのみなさんに聞きたいんですけど。きっとあなたは、まだ若くて純粋で、善良なのでしょう。ちがいます?
 私はそれなりに歳を食っているので、こういうギルティープレジャー込みのものを愛好してしまっているのですね。あげていきますと。

タランティーノ映画

 セクハラやパワハラでいかんということは暴露されました。検索をかければ色々出てきます。詳細は省くとしまして。
 それ以前に、黒人エッセイストの指摘にハッとさせられました。たとえば、『ジャンゴ』。黒人が白人医者に啓蒙されて戦う。これが白人救世主という概念なんだと!
 気にしすぎとは言えない。そう思えるとなればそうだ。黒人でも賛否両論で、サミュエル・L・ジャクソンのように肯定する人もいるし。引っかかる人もいるし。そりゃそうなるでしょうね。
 だから……そこは踏まえつつ、鑑賞していきたい。

吉川英治『宮本武蔵』、『三国志』

 どちらも好きでたまらなかったし、今も好きです。しかし、『宮本武蔵』は戦中派青年のバイブルになっただけに、戦後、宮本武蔵批判的なコンテンツもたくさんありました。一番有名なのは山田風太郎『魔界転生』でしょう。
 『三国志』は「戦時中なのに中国に悪意がない」というのがかえって危うい。出征兵士が中国侵攻ガイドのように読み「あの古戦場まで来た」と楽しむことができたと。
 そういうコンテンツを楽しんでいたと知った時の気持ちよ……。

スティーブン・キングなど、白人男性作家のホラー小説

 先住民は学校で大量死しても隠蔽されるとか。黒人はポテチ買いにコンビニ行くだけで射殺されないか緊張するとか。そういう非対称性を知ると、白人男性の恐怖とは何かと引っかかるようになりまして。作者に罪はないけど。

『ゲーム・オブ・スローンズ』

 さんざん論争になっています

 そもそもがnoteも……。これはそれしかないというか。

受け付けられないもの

 受け付けなくなったものもあります。

『サムライスピリッツ』シリーズ

 ナコルルとリムルルだけじゃない。そもそもチャムチャムって、なんで南米出身なのにオーストラリア先住民のブーメラン装備ってどういうこと?

中島哲也監督作品

 そこまで好きではなかったし、悪い噂は聞いていた。しかしここまでとは。

司馬遼太郎

 全部読んだ。ともかく読んだ。あるとき、駅のベンチで『翔ぶが如く』を読んでいたとき、サラリーマンがニコニコしながら話しかけてきた。司馬遼太郎を読むなんてえらい! そう褒めてくる。
 そういうもん? なんで? 何か嫌なものを感じて、読む気がさーっと冷めた。
 今ならその正体はわかる。司馬遼太郎は問題がいろいろあると。

『るろうに剣心』

 司馬遼太郎の焼き直し価値観が嫌。作者の児童ポルノがらみはさておきまして。武田観柳斎は、実在人物名流用の例として極めて悪質だと思う。歴史ものに対するスタンスに誠実を感じないから好きになれない。
 でも、さんざん楽しんではいた。

 『ゴールデンカムイ』は良心的な部類だと思う。はなからプロパガンダや歴史修正する前提まんまんの悪質作品とは違います。

 これは後日検証しますが、この作品は何らかの理由かつ作者が主体的になったとは思いがたい状況により、ねじ曲がったものかと思います。

 そうではなく、はじめから歴史修正やプロパガンダとして作られた作品もあります。そういうことをするのは、中国だのロシアのことだと思っておりませんか? そうではありません。

 ちょっと邪悪なことを考えましょう。

『ゴールデンカムイ』ファン同士で相互になった相手がいる。
でも、私が最終回批判をしたら……
「そういうことを言うなんて信じられない!」
「そんなの気にする方がおかしいw」
「考えすぎw」
「ファンの気持ちを傷つけないで!」
「何様のつもり?」
「読むのやめたら?」
「どうせゴカムなければアイヌのことなんて知らなかったくせにw」
と言い出した。
どうする? まあ、今までのつきあいを考えると、そう悪い人じゃないとは思うし。
でもでもでも……参考文献教えようかな? 読んでくれるかな?

 こんなお悩みのあなた! 相手が大河と朝ドラを見ているかどうか、ちょっと聞いてみてください。前のめりになったときに、この作品を「好き」と言った相手ならば、残念ながら歴史修正主義と親和性が高い可能性がありますので、再考を推奨します。

 今日はその点を「人種差別」に絞ります。まずはこれだ、『まんぷく』。これが好きだと屈託なく、それこそ“ギルティー・プレジャー”なしで断言する相手は、人種差別に鈍感である可能性が高いと推察します。

『まんぷく』の何が問題か?

 朝の連続テレビ小説『まんぷく』は何が問題だったか?

 このドラマには問題が山ほどあります。

 あげるのは面倒なので最大最悪の出発点から。台湾華僑ルーツのヒロイン夫を、日本人にした。差別です。
 『ゴールデンカムイ』は実写映画化されるわけですが。そのとき、こういうことをぶちかまされたらどうしますか?

日本人にとってアイヌは馴染みが薄いので、ヒロインの設定を変更し、純粋な和人の明日子にしました。人種設定は変更したけど、美少女だし、父親を失って寂しいという設定は変わっていないし、金塊も追いかけるし! それでいいでしょ♪

 『まんぷく』はそれをやらかした。

 ついでにいえばチキンラーメンも台湾にあったもの。安藤百福は一から開発したわけではなく、華僑仲間からアイデアを借用し、製品化に成功した。自分が有名になってから「妻の天ぷらをヒントに自分が開発した」と雑な成功神話を作り上げ、大々的に広報し、ついには朝ドラでまで流した。

 『ゴールデンカムイ』最終回に通じる問題を、もっと酷い形でNHKは放映済みなのです。ルーツの軽視。他国他文化の盗用。

「他山の石」として活用する

 『まんぷく』の問題点から、見えてくることもあります。

 北海道出身の年配の方が、しみじみとこう語ることを聞いたことはあります。

「アイヌ料理店に入って驚いたことがある。北海道の郷土料理だと思っていたけれど、実はアイヌルーツの料理がこんなにもあるなんて!」

 これはそう。三平汁も、もともとはオハウがルーツと言いますよね。そういう悪意がないような同化でも問題がないわけでもないのに、チキンラーメンの場合は狡猾な簒奪です。

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『ゴールデンカムイ』アニメ、本誌、単行本感想をまとめました。無料分が長いので投げ銭感覚でどうぞ。武将ジャパンに掲載していました。歴史ネタでより楽しめることをめざします。

『ゴールデンカムイ』アニメ、本誌、単行本感想をまとめました。無料分が長いので投げ銭感覚でどうぞ。武将ジャパンに掲載していました。歴史ネタで…

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