見出し画像

『おかえりモネ』第29回 迷うための時間も必要です

 モネはもう一度、テーブルを作ってみないかと田中に頼みに来ていました。きっと一緒に座りたい人がいるはず。こう思ってプッシュできるところがモネの個性です。

「昭和の倫理観」にドン引きする若者

 そして、モネはトムさんこと田中に聞いてます。なんでも妻子がいるのにあの女性も、この女性も……要するにゲス不倫をしてしまう。モネがドン引きすると、田中は「昭和の倫理観」と言い訳します。しかしモネには通じない。娘さんも奥さんもいるのに酷い! そうなりますよね。
 だからその報いは受けてると田中はいう。愛想尽かされて、有り金ひっぺがされて、こんなことになっているって。愛想を尽かされ、元奥さんに会っていないそうです。どこにいるかは、知っているけど。娘は去年結婚したそうですよ。ここでコーヒーを淹れるために立ち上がる田中です。
 モネは理解します。大きなダイニングテーブルを作ろうと思ったのは、もう一度奥さんと娘さんと食卓を囲みたいからではないかと。そう問いかけ、「すいません」と謝ります。でもモネって順番逆でして。そういうことを聞く前にワンクッション置けない。
 田中は返します。
「最後にはそんな夢もみたよ。でもなぁ、こんな姿は見せたくねえなって思ったりもするしさ。でもなぁ。でも……孫が生まれるらしいんだ、夏に。それまでは頑張ろうかなぁとか思ったり。いやでも頑張ったとこで会えるわけねえし」
 迷いつつそう返す田中です。

助けられるなら、やってます

 モネはこのあと、菅波に問いかけてしまう。
「田中さんは、本当なもう少し、がんばれたらって思っているんじゃないでしょうか。がんばってできればもう一度、ご家族と会いたいって」
 しかし菅波は考えているようで、何も言えずにこう言います。
「……お疲れ様でした」
 モネは訴えます。田中さんが本音を話してくれても、何もできないから相談しているんだって。でも菅波はそっけない。相談なら中村先生にしてくれ、知識も技術もあると。モネは食い下がります。先生だって知識も技術も資格もある。資格ある人は命と財産を守れる! そう訴えるのですが。
「助けられるならやってます!」
 今の技術や知識では、絶対に助けられない。菅波は田中の症状を思い出し、ふまえてそう言うしかない。わかっててそういう相手の心情を見ること、飛び込んでいくことがどういうことかわかるかとモネに問いかけるのです。
「僕が挫折したことないって言いましたよね」
 そう暗い目で問いかける菅波。医者の仕事は命をこぼしてしまうような、そんな挫折の連続かもしれない。ここで菅波は「大きな声出してすみませんでした」と謝るのですが。
 順番がモネと一緒で逆。感情が昂る前になんとかできればいいけど。6秒、6秒、アンガーマネジメントだ。
 帰り道で「はぁ……」とうつむき自己嫌悪に陥る菅波でした。

 帰ってモネが勉強していると、サヤカがきます。若者の喧嘩を見抜いています。ふふふ、若いねえ! そう笑う。モネは無神経なことを言ってしまったと反省中。なんも、わかってないのに。そう悩んでいます。
 モネはいい子だなぁ。自分の言動を反省している。菅波に怒鳴られてもそうなる。素直だなぁ。サヤカはそんなモネを励まします。若いあんたからみると余裕綽々でいるような立派な大人でも、本当はジタバタもがきながら生きている。案外傷ついて必死なのよ。そしてこうも言います。
「医者の大変さなんて、私でもわかんないよ」
 そう励ますサヤカもえらい。大人だからとえらぶらないところがエライ!

迷う時間を作る治療を

 そしてモネは、日曜に田中の家で手伝っています。ヘルパーさん来ないし助けると田中。モネはたまった新聞を裏に出すために奥に向かいます。
「すみません」
 ここで菅波登場。高速バスが事故渋滞で遅れてるみたいで、時間潰させてもらいたいそうですが、本当にぃ? モネはいないふりをしたいとジェスチャーをします。そういう事情あっても、菅波は性格的にこないだろうに。
 東京に帰るのは行ったり来たりで大変だと田中。時々うんざりするとキッパリ言う菅波。
 でも時々東京で墓所にこっちに来たくなったりする。どっちが本心かって聞かれたら、自分でもわからない。本心なんてあってないようなもの。でもいい。毎日言ってることが変わっても。人間の気持ちなんてそんなもんだと。
「俺に言ってるんだな」
 田中は悟る。自分自身に言っているようなところもあると思う。お世辞を言えない菅波だから、登米に行きたい気持ちに嘘はないでしょう。
「一日でも長く生きたいって日もあれば、もう終わりにしたいって日もある。当然です。ただもしそんなふ風に毎日考えが変わってしまうなら、固定観念や罪悪感を捨てて、結論を急ぐようなことは辞めて、本当はそうしたい方向にいつでも進路を変えられるように、結論を先延ばしにできる治療を続けてみませんか?」
 菅波なりの理論を語ります。積極治療とは、明確な目標を掲げた前むきなものばかりじゃない。迷う時間を作る治療だと思いたい。
 田中は理解します。
「俺、優柔不断なんだよね。好きな女も、あっちかな、こっちかな、あっちかもしんねえってふらふらしちゃう。先生もどんびきかよ。潔癖だねえ。迷うための時間か もうちょっとだけ頑張ってみっか」
 そういう優柔不断か。菅波も優柔不断なのでしょう。永浦さんを好きなのか、好きと言っていいのか、そこに踏み込むまで迷っているんでしょうね。
「やめたくなったら、いつでも言ってください。また考えましょう」
「ああそうだな」
 こうして菅波は説得に成功しました。彼なりにどう説得できるか考えている。モネと話して踏み出して、自分なりに結論を出してここまで来ているのでしょう。モネはそこに出てきて、聞いたことを謝ります。
「面白え先生だな、あの若先生。最後までニコリともしねえ」
「そうですね」
 そうそう、スマイルしないからさ。そして田中はこう言います。
「やっぱ作ってもらってもいいかな。テーブルと椅子。あきらめたくないって思ってんのかもしんねえなあ。だから頼むよ」
「はい! ありがとうございます」
 かくしてモネと菅波、そして田中も一歩踏み出したのでした。

ここから先は

381字

朝ドラメモ

¥300 / 月 初月無料

朝ドラについてメモ。

よろしければご支援よろしくお願いします。ライターとして、あなたの力が必要です!