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アニメ『ゴールデンカムイ』34話 狼に追いつく

 キロランケが待ち受けていた流氷が、亜港の岸辺に流れ着く。漁師が魚をとる払暁、かれらは動きます。女囚にして革命家ソフィアを救うため、灯台から奪った爆薬を仕掛けるのです。
 その前に、アザラシ狩だぜ。トナカイもいる。流氷を渡って動物が来るということを覚えておきましょう。

亜港監獄爆破、そして虎

 キロランケは、アシリパとソフィアを会わせることで思い出させたいものがあると強調します。
 かくして監獄が爆破され、パッチリと目覚めたソフィアは脱獄をめざす。同時に杉元一行も爆破で異変に気づきます。脱獄まで、ソフィアがともかく強い! 動きも素早いし、力もある。獄中でも鍛えていたのでしょう。アニメを見る意味である動きがつくことで、ソフィアは魅力がどんどん増してゆきます。 
 ここでなんと、囚人たちの前にアムールトラが現れるのでした。杉元たちが犬だと思っていた置物の正体は、アムールトラというわけ。流氷に乗ってここまで来ることがあるそうです。キロランケのユルバルスという名前は、タタール語で虎とのこと。ソフィアは子分を庇うと言い切り、鎖を使ってトラと渡り合います。かっこいいなぁ! そのうえで、ナーナイ族の教えではトラを殺すと不吉になるからととどめをささないように言います。

 ちなみに、朝鮮半島にもこの虎はおりまして。日本軍が朝鮮半島から消えゆく虎を捕らえようとする、そんな物語として韓国映画『隻眼の虎』がおすすめです。

 トラは本物より多分もっさりのんびりした動きですが、気合い十分だと殺傷力が高すぎますし、これでいいとは思います。厄介なアニメだなあ。野生動物の動きって、骨格まで把握していないとどうしても無理がある。アイヌの模様だけでも大変なのに、トラの動きかよ! どんだけ重労働なのコレ!

 かくしてソフィアは、アシリパと再会します。樺太アイヌのテタラペ(服)。そして青い目。感慨深い顔になるソフィア。そしてここで、立派になったソフィアを見て、キロランケは「めちゃくちゃいい女になったな」と言います。白石、想像と違うとか、お前は黙っとけ。けれどソフィアは、「よくもウイルクを」とほおを叩く。

 キロランケたちは逃げる。しかし、漁師の人影がいて看守たちも追いかけにくいのです。キロランケは賢いですね。アシリパは歩きながら、ソフィアに父のことを教えるように頼みます。

おしらせ:マガジンにします

 とりあえずマガジンにします。あとがき部分のみ有料ですので、投げ銭感覚でお願いします。https://note.com/54seikobi85/n/nd26d1a574b77

 あと尾形関連で有料記事書きました。よろしくお願いします。きっちり長いですよ。

狼から学ぶこと

 ソフィアの目から見たウイルクとキロランケへ。
 ソフィアの心の声は日本語なのに、吹き替えでおなじみの湯屋敦子さんですので違和感がない。日本語なのにロシア語なんだろうと脳内補完できます。ここで一瞬、ソフィアの貴族時代が映ります。フランス語を話し、背伸びしていた、そんな彼女にとって、生きる根源的な力を持つようなウイルクたちは、どれほど魅力的であったことか。
ウイルクの考え方が、ソフィアの回想あってこそわかります。

 ただ、このウイルクの考え方は危険であるともわかる。

 彼は、言語や神を守ためにソフィアに近づいている。ロシア革命の結果としてのソビエト連邦が、どういう考え方のもと国家を運営したか。それをふまえると、革命との訣別は決定的でしょう。

 極東連邦国家を作る思想。ウイルクの考えは早すぎた。のみならず、危険でもあったとは思える。今でもできるのかどうか。

 このあと、杉元一行がトラに驚く場面を経る。それからソフィアの考えに触れて、アシリパも父のことを思い出します。

「弱いものは負けて喰われる」

 アイヌとして生きる中で、ウイルクが告げたそんな教えをアシリパは思い出すのです。
 ソフィアはそれから、ウイルクが革命戦士の仲間と逃げた話をします。秘密警察との戦いで負傷した仲間を、ウイるくは助からないと思いとどめを刺した。仲間を捨てる最短距離にたどり着けるウイルクを、ソフィアたちは尊敬したのだと。
 
 ウイルクがそうなったきっけけとして、狼の話をソフィアはする。弱り、一匹はぐれていた狼を、ある日群れの仲間が見つけた。仲間たちはその狼を殺した。そんな気高い生き方にあこがれ、ウイルクは狼の毛皮を身につけていた。そこからポーランド語で狼を意味するウイルクと名付けられた。
 そしてアシリパの母は、そのことを聞いてアイヌ名をつけたのです。
 ホロケウオシコニ――狼に追いつくという名前だと。アシリパの母、ウイルク、そしてアシリパしか知らない言葉です。
 ここでアシリパが、秘密の言葉を思い出しているとき。
 白石は用を足そうとして流氷が割れてしまい、はぐれそうになるのでした。危うく流氷から凍てついた海に転落しようというそのとき、なんと杉元が彼を引き上げたのです。

ウイルクと優生思想

 この作品は、子が父の目を持つことが多い。尾形や鯉登も、父と同じ目をしています。何かの象徴ではあるのでしょう。「我らが父の罪」という言葉通り、父の因果も受け継ぐと考えられなくはありませんか?

 アシリパの場合、ポーランド血統の象徴です。
 ポーランド史を調べていると、複雑な事情がたくさん出てきます。当たり前といえばそうですが、完全に被害者である国家とか、加害者である国家とか。そんなものはなくて、歴史問題において大抵の国が傷を抱えています。それは被害者としてのものもあり、加害者としてのものもあると。隣国に苦い感情を抱くこともよくあること。地球の裏側の国と加害や被害の関係は成立しにくかったものですが、隣国はちがう。ゆえに、いろいろな苦いものが湧き上がってくるわけです。

 なんだか長ったらしい話になりましたが。ポーランドの歴史を踏まえて、ウイルクの言葉を考えてみましょうか。ポーランドには負の歴史遺産があります。アウシュヴィッツはじめ、ユダヤ人収容所です。ポーランド人が悪いわけじゃない。ナチスドイツの問題だ……と言い切れるかどうか、これが歴史論争になっている。ナチスの関与なしに、ポーランド人が自発的に行ったユダヤ人への加害も、近年明らかにされてきているから。
 ユダヤ人はナチスのみならず、広範囲で差別感情があった。ロシアにもあった。ナチスはそれを掬い取って利用したと言えなくもない。そこへ至る道はいくつもあるけれども、社会的ダーウィニズム、優生思想も背景にはあります。

 ウイルクの語る、動けないもの、弱いものは死なせる思想。合理的なようで、悪用されればナチスドイツの「T4作戦」、その先にあるホロコーストにつながる。生命の選別はそれだけでも危険なのです。そう気がつくのは、もっとあとのことだけれども。
 
 アシリパがこの父譲りの、生命の選別を受け継いでしまったら? 危険な方向に進みかねない。それにアイヌ自身にとっても自滅的な発想に突入しかねないのです。

 アイヌはじめ、先住民族は侵入者が持ち込んだ疫病に対して、免疫力や抵抗力が弱いとされている。食生活の変化も、彼らの健康に悪影響を及ぼします。弱いものは負けて喰われる。その理を侵入者側が掲げたとき、どうすればよいのでしょうか?

 弱いものとされること。アシリパが父の名を思い出したことでも、考えたことはどうしたってある。アシリパは杉元に聞いて漢字の読み方を確認する。ウイルクはそれもあるから、アシリパに読み書きを教えようとしたのかもしれない。

 和人は長いこと、アイヌを愚かであると見下してきた。商業の場だって、和人相手とアイヌ相手では数え方からしてちがう。どうせ計算できない。どうせわからない。どうせ文字もない。そう見下してきたのです。そのことをウイルクは知っているからこそ、娘に文字を学ばせようとしたのかもしれない。
 アシリパは、アイヌは文字がなくとも生きてきたという。けれども、和人の建設する国家の中で、読み書きはどうしたって必要になります。

 人間の知能をどうやってはかるのか? いろいろと試行錯誤されてきたけれど、学力試験が合理的な指標とされています。けれども、筆記試験には大きな問題がある。読み書きができない環境にいた人は、それだけで知能が低いとみなされてしまうのです。
 アシリパはあんなに賢いのに、和人の試験を受けさせられたら、愚か者にされてしまうのでしょう。
 先住民、移民、難民が愚か者とされてしまう理由には、こうした言語の壁がある。そこをどうするのか? どう受け入れるのか? そこを解決してこそ、本当に賢いと言えるのではないでしょうか。

 ウイルクは、当時の最先端にはいる。だからソフィアたちは心酔した。けれども、それゆえに、限界点が見えてきた。今日の観点からすれば、危険思想の持ち主だ。キロランケはだからこそ、彼を手にかけたのかもしれない。
 アシリパをウイルクの願う道に進ませてはいけない。じゃあどうするのか?

 樺太編で、それぞれの勢力の最終目標が見えてくる。歴史を見れば、明るくないことはいくつもあるとわかる。人類最大の試練がこの先、アシリパや杉元たちを待ち受けています。そこをふまえ、どう描くのか?

 ますます目が離せなくなってきました。

ソフィア、革命の女戦士

 キロランケがたくましい女性が好きだから、めちゃくちゃいい女になった。というフェチズムがらみだけでなく、魅力も感じます。

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『ゴールデンカムイ』アニメ、本誌、単行本感想をまとめました。無料分が長いので投げ銭感覚でどうぞ。武将ジャパンに掲載していました。歴史ネタでより楽しめることをめざします。

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